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臨時 vol 29 「福島県立大野病院事件第六回公判傍聴記」

医療ガバナンス学会 (2007年7月24日 14:58)


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福島県立大野病院事件第六回公判傍聴記

ロハス・メディカル発行人 川口恭

地裁が改装中とかで、いつもの一番大きな1号法廷が使えず、隣の2号法廷を使うとのこと。このために傍聴券はたった15枚。次回の加藤医師本人の尋問まで2号法廷とのことだ。検察側証人のうち二大ヤマ場と思うのだが、何とも間が悪い。

傍聴希望者は90人と落ち着いたが、今回も見事に外れた。帰りの東北新幹線が人身事故の影響でダイヤが乱れたりして、当方何とも運が悪い。でも今回も分けてもらえて傍聴できることになった。

さて、その2号法廷、傍聴席から手を伸ばせば被告の背中に届くくらい狭く、おまけに傍聴席も独立した椅子ではなく、長椅子にビニールテープを張って4分割したものが3×3。でも、狭い分だけ言葉が明瞭に聞き取れるところはよいかもしれない。

いつものように逐語再現は『周産期医療の崩壊をくい止める会』サイトにやがて掲載されるので、そちらを御覧いただきたい。

この日は検察側の医学鑑定書を書いた田中憲一・新潟大医学部産科婦人科学教室教授の証人尋問。6回目にして初めて検察側の描くストーリーに、はまるピースが出てきた。一般人からすると文句のつけようのない鑑定人に見え、これを覆すのは容易でないように思えるが、しかし果たして実際のところ鑑定書を書くにふさわしい人物だったのかという点は後ほど弁護側が指摘する。

ともかく田中教授の尋問の報告に移ろう。紺のスーツ姿で伏し目がちに登場した田中教授は身長こそ170センチあるかどうかに見えるが、学生時代は柔道でもしていたのだろうかという、ずんぐりガッチリした体格。普段はきっと声が大きいに違いないと思った。だが尋問に対する答えは、か細く、速記者から「先生もう少し大きい声で話していただけますか」と注文をつけられていた。尋問するのは、途中から加わって毎回ソフトにポイントを重ねている検事。

検事  産科婦人科には専門分野が4つあるそうですね。

田中教授  はい。

検事  4つとは何ですか。

田中教授  周産期、腫瘍、生殖、婦人科内分泌です。

検事  証人のご専門は何ですか。

田中教授  腫瘍です。

(中略)

検事  証人は本件以外にも医療事件の鑑定書を書いたことはありますか。

田中教授  あります。

検事  本件を除いて何件ですか。

田中教授  7件です。

検事  すべて産科婦人科の分野ですか。

田中教授  はい。

検事  腫瘍以外の分野について鑑定したことはありますか。

田中教授  異なるものもあります。

検事  それは何件ですか。

田中教授  6件です。

検事  腫瘍は1件のみということですか。

田中教授  そうです。

皆さんは、医療訴訟の検察側鑑定書が専門外の人によって書かれていることが多いとご存じだったろうか。私は知らなかったので非常に驚いた。たしかに誰が何を専門にしているか外部から調べるのは骨が折れるし適任の人が必ずしも引き受けてくれると限らないから仕方ない面もあるとは思うが、しかし当事者の立場になってみると納得いかない。

検事  本件は福島県警から鑑定の依頼を受けましたね。

田中教授  はい。

検事  どのような経緯で依頼を受けたのですか。

田中教授  警察署の刑事さんが来て依頼されました。

検事  証人に依頼する理由を何か言っていましたか。

田中教授  私が過去に行った鑑定の鑑定書が立派だったことと、困っているからというようなことを言いました。

(中略)

検事  何に関しての鑑定をほしいとのことでしたか。

田中教授  帝王切開で亡くなった妊婦さんの死因についてとのことでした。

検事  どう対応しましたか。

田中教授  周産期は専門でないので、一般的な産婦人科専門医としての知識でしか鑑定できないけれど、それでよろしいかと尋ねました。

検事  警察は何と言いましたか。

田中教授  お願いしますと言われました。

前回の証人だった病理鑑定書を書いたS講師と同様、自らの鑑定が何を引き起こすか、予感すらしなかったのに違いない。

この後、一般論としての癒着胎盤の説明や用手剥離の方法、胎盤剥離と子宮収縮の関係、剥離困難な場合にどうするべきかなどが尋問された。そして田中教授自身が若手医局員だった時代に新潟大病院で手術助手として経験した癒着胎盤症例の話を経て、いよいよ検察側の有罪立証のピースにはまる部分へと入る。

検事  癒着胎盤に関して近年何か傾向がありますか。

田中教授  増えているようです。

検事  理由は何ですか。

田中教授  わが国で帝王切開が増えていることによると思います。

検事  なぜ帝王切開が増えると癒着胎盤が増えるのですか。

田中教授  最初の帝王切開の傷痕に次回以降の出産の際に胎盤が付着するからです。

検事  前置胎盤の場合はどうですか。

田中教授  脱落膜のない頚管の部分に胎盤がかかるので。

検事  前回帝王切開だと癒着胎盤の確率は上がりますか。

田中教授  そうだと思います。

検事  前置胎盤だと癒着の確率はどうですか。

田中教授  前置胎盤の場合にも増えるのではないかと思います。

(略)

検事  前回帝王切開で前置胎盤だと、癒着の確率が上がるということはありますか。

田中教授  あります。

検事  どの程度の確率ですか。

田中教授  文献によって違いますが3?25%と言われています。

検事  事前に検査で診断することは可能ですか。

田中教授  ある程度は可能だと思います。

検事  どのように検査しますか。

田中教授  超音波診断かMRIを用います。

(中略)

検事  本件で癒着胎盤を疑わせる所見はありませんでしたか。

田中教授  ありました。

過失致死罪が成立するには、予見できた可能性、回避できた可能性がなければならない。これまで検察側は、証人尋問の誰からも、このピースを出すことができていないと思う。

検事  どこにありましたか。

田中教授  12月3日と6日のエコー写真には、癒着胎盤を疑ってもいいと思われました。

検事  その他の資料には癒着を疑わせるものはありましたか。

田中教授  ありませんでした。

しばらくエコー写真のどこに疑念があったかのやりとりがあり

検事  加藤医師はどのようにすべきであったと思いますか。

田中教授  MRIを撮っても良かったのでないかと思います。

検事  妊婦に対してMRIは悪影響を与えますか。

田中教授  この週数であれば基本的にないと思います。

検事  12月17日に帝王切開をしているのですが、検査で他に分かる方法はなかったでしょうか。

田中教授  この患者さんは前置胎盤ということになっているのですが、前置胎盤というのは分娩直前に診断を行うことになっているので、帝王切開直前にもう一度検査をする方が良かったと思います。加藤医師が手段を尽くさなかったということになる。だが、この点こそ『医療崩壊』との関連で実に本質的なものを含んでいるので後ほど改めて考察する。この後、尋問は本件の胎盤剥離に関してへと移る。

検事  被告人はどんな処置が必要だったと思われますか。

田中教授  質問の意味が分かりません。

検事  児娩出後に胎盤の用手剥離を行ったが、それが困難になってきたときにどうするべきだったと思いますか。

田中教授  それは分からないですね。そのことだけでは何とも言いようがありません。

検事  この用手剥離の途中で剥離が困難・不可能になってきたときに剥離を続けるべきでしょうか。

田中教授  それは加藤先生がやっておられて困難・不可能と判断されたのであれば、剥離をやめて子宮摘出に移るべきだったと思います。

検事  それはどのような状態から判断できますか。

田中教授  どれ位癒着が残っているかも判断材料になると思います。

(中略)

検事  本件で胎盤剥離を途中でやめて子宮摘出に移行できたと思いますか。

田中教授  それは分かりません。

(中略)

検事  この時点で子宮摘出へ移行が可能だったと思われますか。

田中教授  どの時点ですか。

検事  剥離が困難・不可能になった時点です。

田中教授  それはどこか分かりませんよね。

検事  (加藤医師の)供述調書を前提にすると

田中教授  その前後であれば子宮摘出は可能だったと思います。

検事  その時点で子宮摘出していれば救命の可能性はありましたか。

田中教授  可能性はあったと思います。

このやりとりにより回避可能性もあったと証言されたことになる。

検事  実際には、胎盤剥離後に子宮剥離をしたのは、ご存じですか。

田中教授  はい。

検事  子宮摘出の時期は適切だったと思いますか。

田中教授  私はちょっと遅かったのでないかと思っています。胎盤剥離後、出血をコントロールできないと思った時点で、直ちに子宮摘出へ移るべきだったと思います。

(以下略)

このように検察が大きくポイントを取って午前中の主尋問が終わった。

昼食休憩を挟み午後1時半に弁護側反対尋問で公判再開。尋問するのは平岩代表弁護人。いつも朗々と美声で尋問する。対する田中教授、午前より一層声が小さくなる。

弁護人  ご専門は婦人科腫瘍ですね。

田中教授  はい。

弁護人  主として婦人科腫瘍の診療に携わってきたのですね。

田中教授  はい。

弁護人  帝王切開、全前置胎盤、癒着胎盤、すべて周産期の領域ですね。

田中教授  はい。

弁護人  依頼されて本件について鑑定書を書いたのですね。

田中教授  はい。

弁護人  周産期は専門外だと思いますが、専門外のことについて、なぜ鑑定書を書いたのですか。

田中教授  警察に依頼されたからです。

弁護人  周産期専門の先生に頼むべきでないか、とは言わなかったのですか。

田中教授  そのようなことは申しませんでした。

弁護人  一般の産婦人科専門医としての知識で鑑定書を書くと伝えたとおっしゃいましたね。

田中教授  はい。

弁護人  日本産科婦人科学会には平成16年当時、会員数にして約1万6千人の会員がいませんでしたか。

田中教授  定かではありませんが、そうだと思います。

弁護人  産婦人科専門医は全国に1万2千人いたのではありませんか。

田中教授  定かではありませんが、そうだと思います。

弁護人  被告人の加藤医師も産婦人科専門医であることはご存じですね。

田中教授  はい。

弁護人  産科婦人科領域で5年の臨床経験があれば専門を問わずほとんど産婦人科専門医になれるのではありませんか。

田中教授  はい。

弁護人  最高裁判所の医事関係訴訟委員会から日本産科婦人科学会が依頼されて鑑定人候補を推薦するために鑑定人リストを作っていて200数十人のリストがあるのをご存じですね。

田中教授  はい。

弁護人  そのリストに載っているのは、教授、准教授、院長といった専門分野ごとの第一人者ではありませんか。

田中教授  そうだと思います(少し声が裏返る)。

弁護人  証人ご自身も婦人科腫瘍分野で鑑定人リストに載っていませんか。

田中教授  昨年までなっていました。

弁護人  本件の場合、周産期分野ご専門の方が鑑定するべきではありませんでしたか。

田中教授  はい。

弁護人  警察官はこのことについて何も言わなかったのですか。

田中教授  特に何も言いませんでした。

弁護人  証人が周産期分野で信頼をおく方はどなたですか。

田中教授  名前を挙げるのですか。

弁護人  はい。

田中教授  東北大学の岡村先生、福島県立医大の佐藤先生、北里大の海野先生、昭和大の岡井先生、宮崎大の池ノ上先生、それから名誉教授になってしまいますが大阪大の〓先生と九州大の〓先生(メモ不完全)です。

弁護人  本件はそのような方たちが鑑定書を書くべきだったと思いませんか。

田中教授  思います。

弁護人  今お名前の出た岡村先生と池ノ上先生については弁護側の依頼で鑑定書を書いていることをご存じですか。

田中教授  知りません。

弁護人  今回の鑑定をおやりになったのは刑事上の責任を問うことを考えてですか。

田中教授  私は医学上、安全な診療をするにはどうしたらよいかという観点で行いました。

田中教授が鑑定書を書くにふさわしかったかどうかは、もはや裁判所の判断に委ねるしかない。ただ厚生労働省が現在行っている死因究明の検討委員会でも樋口委員(東大教授)から問題提起されていることだが何を目的にするかによって「真相」は異なる。刑事事件の証拠とするなら「疑わしきは罰せずで謙抑的でないといけない」。再発防止をめざすなら「その時点では専門家の判断として仕方なかったかもしれないが、数か月とか年とか経って考えれば、こういう選択肢があったのでないか、今考えれば本当はこちらだろう、そういうことまで考えたうえ」なのである。

田中教授は明らかに後者の観点から鑑定しているのに、前者である刑事司法の場で証拠とされてしまっている。一般の医療者にとっては、こんなTPOの使い分けなど思いもよらないだろうし、もし使い分けたとすると今度は患者・家族から「二枚舌」と不信感を招くに違いない。

この問題は、この訴訟とは別に皆で考えないといけない。この後しばらく証人が若手医局員時代に新潟大病院で経験した癒着胎盤症例に関する尋問が続き、そして、ここからは田中教授がどの程度身を入れて鑑定したかを問う尋問に入っていく。

弁護人  鑑定を依頼された時点で病院の事故調査報告書が出ていましたね。

田中教授  はい。

弁護人  それに依拠すればよいとは考えませんでしたか。

田中教授  参考にはなると思いました。

弁護人  児娩出から胎盤剥離終了までに5000ミリリットルの出血があったと鑑定書に書いてありますが、記憶にございますか。

田中教授  はい。

弁護人  これは羊水込みですね。

田中教授  だと思います。

弁護人  事故調査報告書にも5000ミリリットルの出血があったと記載があります。これはご記憶にありますか。

田中教授  あります。

弁護人  では最も客観的な原資料の麻酔チャートではどうなっているか。麻酔チャートを示します。2555と記載されているのはお分かりですね。

田中教授  はい。

弁護人  このような原資料でなく調査報告書に依拠した理由は何ですか。

田中教授  カルテにも5000ccと書いてありました。

弁護人  患者の全身状態をリアルタイムで最も正確に記載してあるはずの麻酔チャートに依拠しなかった理由は何ですか。

田中教授  麻酔チャート自身には胎盤剥離終了時の正確な血液量は書いてなかったと思います。10分後くらいに7500と書いてあるので、胎盤娩出の時には5000ccくらいだと判断しました。

(中略)

弁護人  エコー検査というのは、同じ場所でもプローベ(探触子)を当てる角度や強度によって見え方が変わるものではありませんか。

田中教授  そうです。

弁護人  術者がその変化を継続的に見ながら総合的に判断するものではありませんか。

田中教授  そうです。

弁護人  エコーの写真というのは検査のごく一部に過ぎないのではありませんか。

田中教授  そうです。

弁護人  12月3日の写真に癒着胎盤を疑わせる所見があるとおっしゃいましたね。

田中教授  疑ってもよいということです。

弁護人  このような(田中教授が論拠とした)血流はごく一般的に見られるものではありませんか。

田中教授  見られることもあります。

弁護人  ならばどうして癒着を疑うことができるのですか。

田中教授  前回帝王切開で全前置胎盤ですから癒着の確率が高いです。

(中略)

弁護人  (田中教授自身が実際には)癒着胎盤のエコーを一度も見たことがないのに、どうしてその判断に誤りがないと言えるのですか。

田中教授  私の判断が必ず正しいとは思っておりません。ただ診療はしておりませんけれど、日常的に疑って検査しなさいと若い人に申しております。

弁護人  12月6日のエコー写真でも、やはり癒着を疑うべきですか。

田中教授  そうではなく12月3日のエコーと併せて、疑ってもよいということです。

(中略)

田中教授  この血流がどういうものか同定するのが目的ではなく、種々の所見があれば疑ってもよいということです。この方法論は医学的には全く正しいのだと思う。しかし社会制度としての医療の方法論としてはどうか。疑わしいことを常に100%潰していったら医療費がいくらあっても足りないし、患者にとっても苦痛である。どこかで専門家が自己の責任で線を引かざるを得ない。そして、その線引きをストイックに引き受けてくれる医療者がいたからこそ、日本の安い医療が奇跡的に維持されてきたのだと思う。田中教授は「疑ってもよい」と証言するが後からなら何とでも言えるし、加藤医師が線引きするためかけた労力以上に鑑定に労力をかけただろうか。結果論的に刑事で裁けば、線を引く専門家がいなくなる。それこそ医療崩壊でないか?

(中略)

弁護人  鑑定書で、子宮前壁に癒着があったことは明らかであると書かれていますがご記憶はありますか。

田中教授  はい。

弁護人  病理のS博士の鑑定書を前提にしたのではありませんか。

田中教授   参考にはしました。ここから前回袋叩きに遭ったS鑑定を田中教授がどこまで参考にしたか明らかにさせ、ついでに田中教授の鑑定書の信ぴょう性も疑わせようとの尋問が繰り返されたが、検察・弁護どちらにも、あまり得るところはなかったと思う。そして

弁護人  剥離が困難なほど胎盤が癒着しているかどうかというのは、施術中にはなかなか判定できないものではありませんか。

田中教授  そうでしょう。

弁護人  であれば、それは術者の判断に委ねられているのが、臨床の現場ではありませんか。

田中教授  そうです。

弁護人  「剥離を中断して子宮摘出にうつるべきとされている」という表現が鑑定書にありますが、これは文献からの引用ですか。

田中教授  文献を参考にした私の文章です。

弁護人  「止血操作するとされている」とありますが、その際に胎盤剥離を中断すべきですか。

田中教授  ケース・バイ・ケースだと思います。

弁護人  ケース・バイ・ケースの判断は誰が下すのですか。

田中教授  術者だと思います。

弁護人  本件でいえば加藤医師ですか。

田中教授  そうです。

この後、クーパー使用の是非について少しやりとりがあり、それから死因につながったと見なされている大量出血が胎盤剥離によってもたらされたのでなく、羊水塞栓に起因する産科DIC(血液凝固因子が失われ出血が止まらなくなる)の症状として現れたに過ぎないのでは、という弁護側の見立ての尋問も行われたが、田中教授はこれには取り合なかった。そして弁護側による蜂の一刺し。

弁護人  証人の証言は基本的に医学文献に基づくものですね。

田中教授   そうです。

文献を調べてもらうだけなら、大学教授に鑑定を頼む意味があるのか? 個人的には、ここがこの日のハイライトだった。

15分の休憩を挟み、反対尋問の続きが少しあって検察側の再主尋問である。

検事  産科婦人科についての鑑定をする際、専門性はどの程度必要でしょうか。

田中教授  案件によると思います。

検事  案件によると言いますと。

田中教授  質問内容によると思います。

検事  具体的にはどのようなことでしょうか。

田中教授  私の知識とかけ離れた専門性ならお受けできないと言います。

検事  かけ離れるとは、たとえばどういうことですか。

田中教授  たとえば新生児のことなどは分かりません。

検事  高度な専門性を必要とすること、ということでしょうか。

田中教授  そうです。

検事  今まで鑑定された7件について専門性はどのように判断されたのですか。

田中教授  一般的な産婦人科のことと判断しました。

検事  実際にやってみて専門性が必要になったことはありませんか。

田中教授  引き受けてみてから、これは無理だというのが一件ありました。

検事  その際は結論として鑑定書を出さなかったわけでしょうか。

田中教授  そうです。

検事  本件の場合はどうですか。

田中教授   一般的な癒着胎盤のことでしたし、立派な調査報告書もありましたので、それを参考にすれば鑑定できると思いました。

検事  やってみてどうでしたか。

田中教授  一般的な産婦人科医であれば答えられることでした。

検事  調査報告書の結論を引き写しましたか。

田中教授   参考にはしましたが、引き写したわけではありません。

検事  証人ご自身ですべて書かれたわけですね。

田中教授  そういう部分もありますし、調査報告書を活用・参考にした部分もあります。

この辺をどう解釈するかは個人の自由だと思う。

検事  エコー写真から癒着を疑ってもよいとい判断をしたのは何を根拠にしたのですか。

田中教授  種々の論文があります。

検事  それらをご覧になった。

田中教授  はい。

検事  参考にもした。

田中教授  はい。

検事  エコーの判断はご自分だけでされましたか。

田中教授  勤務している施設の専門医に相談しました。

(後略)

ついで弁護側の再反対尋問。

弁護人  エコー検査というのは動画ではありませんか。

田中教授  そうです。

弁護人  エコー写真というのは、いわば一時停止の状態を写真に撮ったものですね。

田中教授  そうです。

(後略)

この日の尋問だけ取り出しても検察がポイントを上げていると思う。そのうえ、この後さらに大きなポイントが検察に入る。田中教授が鑑定書を真正に作成されたものであると認めたことにより、この日の証言以上に加藤医師の過失を強く印象づけるようなその鑑定書が証拠採用されたのだ。

刑事訴訟法上は止めようのないことではあるが、これによって検察の描くストーリーは維持された。なるほど、これがあったから公判を取り下げなかったのだな、と思った。

どうやら、この裁判まだまだ長引きそうである。

(この傍聴記はロハス・メディカルブログ<a href=”http://lohasmedical.jphttp://lohasmedical.jp”>http://lohasmedical.jp</a> にも掲載されています)

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