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臨時 vol 30 高久通信「仮面高血圧」

医療ガバナンス学会 (2007年7月29日 14:46)


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自治医科大学学長
高久 史麿

 

最近ある会合で以前からよく知っている男性の方にお逢いしたところ、眼帯をしておられた。「目が悪いのか」と聞いたところ、ある朝、目を醒ましたところ、半身が麻痺していたとのことである。幸い麻痺の程度は軽く、会合にも一人で出席され、会話や歩行にも異常がないが、眼瞼の筋肉に麻痺が残り、片目を閉じることができないため、目の乾燥を防ぐ目的で眼帯をされておられた。次はもっと最近の話であるが、私がよく知っている女性の方が数日前朝起きた時に片目がよく見えず、近くの眼科医を訪れたところ、「眼底出血と診断された」ということを伺った。さっそく血圧のことを尋ねると、前回の職場の健康診断では正常だったとのことである。その時私の頭に浮かんだのは、近ごろ問題になっている早朝高血圧であった。そこで彼女に自分で簡単に測れる最新の血圧計の購入と、朝起きた時に自分で血圧を測るよう勧めた。翌日報告があり、朝目覚めた時に、最高血圧が180あったとのことであった。立派な高血圧である。血圧は時間によって変動し、一般には朝目覚める前後から午前中にかけて高く、夜間になると低くなる。しかしその変動の程度には個人差があり、早朝時の血圧の上昇が著しいのが、早朝高血圧と呼ばれる状態である。早朝高血圧の人には健康診断等で血圧を測定する昼間の時間帯には血圧が正常の人が少なくない。このような高血圧の状態を最近『仮面高血圧』と呼んでいる。仮面高血圧が怖いのは、本人はもちろんのこと、検診を行う医師も高血圧の存在に気付かないことで、その間に高血圧による病変が進展し、本文で紹介した女性のように、突然症状が現れてくるという点である。早朝高血圧は高齢者に多いとされているので、中高年の方がおられる家庭では、ぜひ自動血圧計を使って朝起きた時に血圧を測るようにお勧めしたい。ちなみにわが国の高血圧のガイドラインでは、外来の診察室では血圧が140/90以上、家庭で測った場合には135/85以上が高血圧の基準とされている。外来診察室の方が高血圧の基準値が高いのは、『白衣高血圧』といわれるように、医師の前では緊張して普段よりも血圧が高くなる人が多いからである。

本題の血圧とは別に、安全についての話題もご紹介したい。それは運転中の携帯電話のリスクのことである。車の運転中に携帯電話を使うことはわが国でも禁止されている。携帯電話を耳にあてながら片手で運転することが危険なことは言うまでもないが、電話を耳にあてない固定の自動車電話で通話すること自体危険なことが、機能的MRIと呼ばれる、画像によって脳の機能を調べる検査法を用いて明らかにされている。この研究を行ったのは、アメリカのバンダービルド大学の研究者で、被験者に音を聴かせることと画面を見せることの2つの刺激を短期間に続けて行うと、2つ目の刺激に対する脳の反応が明らかに遅れることを見出している。この結果は例えハンドルから片手を離さなくても、車を運転しながら同時に電話で話をすることに人間の脳は十分に反応できないこと、すなわち危険な運転であることを科学的に証明しているといえよう。

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