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臨時 vol 27 「シンポジウム「患者の声と医療ADR」傍聴記(3)」

医療ガバナンス学会 (2007年7月11日 10:32)


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~ 聴け 真実の言葉を ~
ロハス・メディカル発行人 川口恭

6月24日のシンポジウム「対話が拓く医療」III 「患者の声と対話型ADR」については、
<a href=”http://plaza.umin.ac.jp/expres/genba/g_news.htmlhttp://plaza.umin.ac.jp/expres/genba/g_news.html”>http://plaza.umin.ac.jp/expres/genba/g_news.html</a>にも記事がありますので、ぜひご覧ください。


お二人の話を咀嚼しているうちに遅まきながら気づいた。

遺族も一生恨みや怒りを抱えていくのは耐えきれないことで、どこかで心に区切りをつけたいと願うものなのだろう。ところが医療者が出てこないことによって、いつまでも宙ぶらりの不幸な状態に留め置かれるわけだ。これは二重の苦しみでないか。やはり医療者が出ていけるような場を何とか作らなければいけない。

まさにドンピシャのタイミングで、和田仁孝所長が、中村芳彦弁護士(法政大教授)を紹介しつつ「対話の場づくりとしてNPOを設立しようと考えている。このNPOは、誰かが誰かのためにではなく、皆で皆のためにでなければ機能しないと考えているので、ぜひ参加してください。使ってください」と呼びかける。

中村「気持の問題を解決することが問題の解決につながるということが印象的だった。また裁判が果たして有効なのかという問いかけもいただいたと思う。では、どういう風に対応したら良いのだろうか、ということで私たちはNPO法人の『医療紛争処理機構』を設立する」と、資料を交えて説明しだす。

この資料は、ロハス・メディカル6月号の「ストップ!!医療崩壊2」の4見開き目と重複するので採録しない(読みたい人はhttp://www.lohasmedia.co.jpをどうぞ)。

「これまでも裁判の対立構造によって不信を増幅し医療崩壊を進めてしまってきた。溝を埋めるには対立構造では不可能。医療は強い信頼関係の中で行われるもの。医療ADRの一つの試みとして、こういう仕組みを考えた。NPOの認証を受け、さらにADR法の認証を受けなければならないので、実際にADRが稼働するのは来年はじめくらいだろう。それまではメディエーターの育成支援が主な業務になる。閉じた機関ではなく、様々な方の参加を得て考え直す場、信頼関係構築の場としたい」と急ぎ足で宣言して休憩に入った。

休憩の後はパネルディスカッション。向かって左から和田、佐々木、村上、中村と来て、その次が土屋了介・国立がんセンター中央病院院長、さらに黒岩祐次・フジテレビ解説委員(昨日の写真参照)。新たに加わった2人がここまでの感想を話すところから再開。

黒岩「お二人の話を伺って、その心の痛み、母親の思いはすごいなと感じた。死を再発防止につなげるとか、真相解明するというのに裁判が向いていないというのも説得力があった。10年ほど前にフロリダの病院を取材に訪れたときのことを思い出した~」。黒岩氏が紹介したマーティン・メモリアル医療センターの件はご存じの方も多いと思うので割愛する。

土屋「黒岩さんが指摘した欧米と日本の対応の違いは、思想の違いの現れでもある。欧米では事故をゼロにするのは難しいと捉えているので起きた後の対応を常に考えている。日本は間違えたヤツを罰して、そうすれば事故がゼロになるだろうと考えている。

佐々木さんのお話は、医療者としても当該医師の態度や誠意には問題があると感じた。

村上さんのお話は事情がよく分からないのだが、医療者に疑義を申し立てる際にマイナスの感情でパンパンになるまで我慢してからぶつけるという話があった。医療者からすると、だから困るとも言える。もっと早く言ってもらえればいいのにと思う。退院する時になって病室が暑くて苦痛だったというようなことを言う人もいるのだが、入院中に言ってもらわなければ、応えようがない。それから責任者に交渉しようとしたということについては、私の病院でも何でもかんでも『院長を出せ』という人が多いのだけれど、そういうのでいちいち院長が出て行っていたら病院が回らなくなってしまう。多くの病院で医療事故対応のトップは副院長。私も4年間務めて、いろいろな場に出て行った。医療者がなぜ面談を嫌がるかというと、それこそパンパンに不満が溜まっているので、たいてい2時間は話を聞かなければならない。あまりに副院長の業務が多いので、院長が部長にも振るようにと言ってやらせたことがあったけれど二度やって二度とも結局私のところまで回ってきた。部長連中が悪いのは、まだ相手が話しているのに途中で遮って、相手の言ったことを医学的に解説しようとした。だから、私が黙って聴けと言ったら『ほら見ろ、副院長先生は聴いてくれるじゃないか』と言われた。要するに医者と言うのは人の話を聴くトレーニングができていない。

いずれにせよお二人の話を聴いて自分の施設の教育をし直さないといけないと痛感した。素直に皆様の声に耳を傾けることが改善の第一歩なのだろう」

和田「パンパンになる前に早く言ってほしいという医療者側からの意見があった。一方でそうはいっても相手は医者でイーブンではないのでないか。対話するといっても、そんなに理想的にはいかないのではないかという批判をよく受けるのだけれど、患者側としてはどう受け取るか」

佐々木「対話は大切。顔と顔が合うから心も通じ合う。絶対に必要」

村上「医療者側に聴いてほしい。火中のクリを拾ってほしい。たとえば待ち時間が長いというクレームがあったとしても、本当は診療に不満があるのかもしれない。なぜなら、おいしいラーメン屋さんに行列しても誰も文句を言わない。言葉の向こうにあるものをほじくり出してほしい。クレームの中に解決すべき課題があると認識してほしい」

和田「医療機関側が聴く姿勢を持っていればよいが、そうでない場合にそれをどう変えていくのか。現実にできるような体制を整えていくときに、まず中村さんにフェアネスをどう捉えればいいのか伺いたい、土屋先生には医療機関の体制をどうすればよいのか伺いたい、黒岩さんにはメディアとして敵対的でない構図をどう描くのか伺いたい」

中村「まず院内での安全管理の徹底をすること。安全管理部門の人間は臨床現場と距離を取って、透明性・公平性のある運用をできるようなシステムを持っていることが必要だろう。しかし最初から期待すると、そもそもそれができないから問題になっているのであって、どうすればいいのかという話になってしまう。

少なくとも患者側に対するサポート体制は必要であろう。大きな情報格差が依然としてある。その意味で我々の描く院外ADRにはサポート機能も必須と考えている。患者側自身の理解と納得が実現されることを通じてフェアネスも達成される。

院外ADRに強制的調査権のないことを批判されることが多いのだが、証拠保全をかけてからADRに来ていただいても構わないわけで、その辺りはいきなり訴訟ではない柔軟な構造が取れる」

土屋「根底に患者側が満足していないことがあるというのがポイント。日常診療からキッチリ対話をするように見直していかなければならないと思う。私は院長になってから、外来を完全予約制で1時間6人までにした。それまでは主治医がどんどん診察を入れて1時間に10人も20人を診るようになっていた。患者さんのためと本人たちは言うけれど、結果としてきちんと対話ができていなかった。そういう風に診療そのものから見直していかないといけない」

黒岩「前提条件がキッチリできていないと難しいと思う。ミスがあった時に隠したくなるのが自然な反応で本能のようなもの。そのままの状態で対話しろと言ったって、逮捕されるかもしれないと思ったらムリ。米国では、件のベン君の事例をモデルにするにあたって、クリントン大統領が全部出しなさい、その代わりそれは刑事で問わないということをした。罪に問われないということが大前提。メディアの人間として、この問題に関しては内心忸怩たる思いがある。どの立場に立っているのか問わざるを得ない。特にテレビはエモーショナルに患者さんの立場に立った方がやりやすい。患者の声を伝え、一方で取材に応じない病院やドクターを敵として追及するというのはよくある。印象として善良でかわいそうな患者と殺人者に値する医療者という構図にしてしまう。福島県立大野病院事件があって、その後どうなったか。それでメディアはいいのか。この医療崩壊をどうやって食い止めるのかはメディアが抱えている課題だと思う」

佐々木「記者会見でよくテレビカメラに向かって病院側を謝らせてますよね。あれは一体誰に対して謝罪させているんですか。先に遺族に謝罪させるべきではありませんか」

土屋「極論すれば会見しないでも良いと思う。被害者に直接謝るべき。でも、メディアに責め立てられ、メディアに用意されて出ていくというのが実際のところ」

村上「土屋先生が先ほど責任者に話を持って行ったのが無謀だとおっしゃった。確かに自分でも無謀だったとは思うけれど、方法論としては間違ってなかったと思っている。というのが、最初に質問した際に現場の責任者からは明らかにおかしな回答が来た。これは組織としての意思決定があるに違いないと感じた。黒岩さんの紹介したベン君の件では、婦長が最高責任者に『これを検査したら病院になるかもしれないけれど調べるか』と尋ねて、最高責任者が了承している。そういうくだりがあったので、だからそのことを紹介した和田先生の本を手紙に同封して担当理事あてに『どうかこの本の付箋を付けた個所を読んで欲しい。あなたの英断が必要』と手紙を書いた。しかし結局決断はしていただけなかった。上の方の意思がないと、事実も出てこないし、医者も大変な思いをするのだと思う」

土屋「組織として対応しないといけないのは確か。私が先ほど言ったのは、決まり文句のように『院長を出せ』という人が多いという話」

黒岩「終末期医療なんかまさにそうだけれど、殺人罪と一線を画したところへ持ってきてあげないと。免責は大事な要素だと思う。

メディエーターというのが、話に聴いてもどうもイメージがつかめなかったのだけれど、実際に活躍している人に会ってなるほどと思った。医療福祉チャネルの番組で大阪・豊中病院の水摩さんというナースの仕事ぶりを追った。それこそマイナスの感情でパンパンになった人が突然やってくるわけだが、その方は奥さんがミスで寝たきりになってしまった。で暴れまわって大クレーマー。水摩さんに対しても、しょせんお前も病院から給料もらってる病院側の人間やろうと罵倒する。それに対して、たしかに私は病院側の人間ですけれど、きちんとやりますから、思う存分話してください、とまず不満を聴きとって、それを今度は現場の人間に対して、テクニックなのか少しキツイ位に『こんなことがあったのか』と問いただす。それを見て旦那さんも心を開いていくわけ。最初は大クレーマーだった人が私たちのインタビューに対して『水摩さんには感謝している』と言った。『裁判になった時も暴れたけれど納得した。こういう気持ちにならせてくれたことに対して感謝している』と。そういう人間力のあり人がメディエーターになるんだなと思った」

和田「水摩さんクラスのメディエーターは今日の会場にも何人もいる。刑事免責の件だが、日本以外の国では医療事故は刑事事件にしない。それは遺族から見た時にどうなのか」

佐々木「私の場合は刑事へ行って業務停止3カ月の行政処分も出た。でも聞いたら院長は業務停止中も毎日病院に来ていたらしい」

村上「裁判をやったわけではないのだが、池田小事件で宅間死刑囚が『早く死刑にしてくれ』と言って執行されたのを見て、遺族は気持が治まるのかなと思った。言葉は悪いが、もっと本人に自分のした罪に苦しんでもらいたかったのでないかという気がする。医師の場合の刑事罰もそれで遺族の気持ちの整理がつくのかなとは思う。気持ちの整理がつくかどうかの方が大事。佐々木さんの例のように形だけの罰だったら余計に腹が立つ」

和田「医療者の苦しみが刑事罰だと遺族に伝わらないという話だが、それをつなぐのがメディエーションでありADR」

土屋「解決した後も恨みは残ると思う。ただ、医療者が真摯に反省して改善があれば遺族の慰めにはなるだろう。ただし、対話の場には水摩さんのようにエクセレントなメディエーターでなくても、医学的な常識のズレを埋める翻訳者は必要だと思う」

ここでディスカッションの第一部が終わり中村、土屋の両氏が退席。代わりに鴨下一郎衆院議員(自民党、医師)と鈴木寛参院議員(民主党)が加わって第二部へなだれ込んだ。

当方も、ここで稿を改めることにする。

(つづく)

(この傍聴記は、ロハス・メディカルブログhttp://lohasmedical.jpにも掲載しています)

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