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臨時 vol 25 「第4回 診療行為に関連した死亡に係る死因究明等の在り方検討会傍聴記」

医療ガバナンス学会 (2007年6月29日 15:33)


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~ 警察・検察を”騙し討ち”した厚生労働省 ~

ロハス・メディカル発行人 川口恭

第4回の厚生労働省『診療行為に関連した死亡に係る死因究明等の在り方に関する検討会』が27日の午後2時から4時まで、厚生労働省で開催されたので今回も傍聴してきた。

初回と同じ厚生労働省9階の省議室だったが、明らかに傍聴人が増えた。空席がほとんどないので暑いのなんの。しかし暑さを苦痛に感じる間もないほど議事進行は大迷走。座長が最後に何度も「捌きが悪くてすみません」を繰り返した、その顛末と「真相」を早速ご報告したい。

この日は、日本内科学会が実施していた『診療行為に関連した死亡の調査分析モデル事業』について中央事務局長の山口委員(虎の門病院院長)が報告し、それを踏まえて第三者機関の組織について詰めようという議事日程。

山口委員の報告は資料を読めば良く分かるし、その資料は厚生労働省が間もなくアップするはずで、また今回面白かったのは報告が終わった後からなので、「当該医療機関の院内調査機関の協力が不可欠」と強調していたことに触れるに留め、ここからは発言を順に拾っていく。

前田座長(首都大学東京法科大学院教授)「第三者機関の制度づくりはモデル事業を発展すること以外にあり得ないので、ご質問や補足があったら」

のっけから驚いた。モデル事業があと3年も残っていて総括もしてないのに「発展すること以外にあり得ない」って。。。でも今日は目をつぶって先を急ぐ。

堺委員(神奈川県病院事業庁長)「ここまで制度づくりについて医療者と法律家の議論が主体になっている。国民の目から見ると、ご家族、ご遺族の意見も大切だと思う。モデル事業は、医学会が主体で一部に法律家が関与していたようだが、関係のない人も委員にはいたのか」

山口委員「地域によっては市民の代表が入っていたが、多くは医師と弁護士で構成されていた」

堺委員「調査結果や途中経過をご遺族に報告する際、説明を専門に行う人が説明したのか、また説明の結果モデル事業の調査は中立であると受け取ってもらえたか」

山口委員「説明は評価委員会の中心になった医師が行った。報告書は当然のことながら医療用語で書かれているので、ご遺族と当該医療機関と一堂に会した場で、同時にできるだけ分かりやすく報告した。しかしやはり難解で分かりにくいというお叱りを一部で受けたのも事実。一部では調整看護師が説明したところもあったが、いずれにしても専門的なメディエーターを入れるスキームにはなって
いない」

使っている言語体系が全く違うのに病院と遺族を同時に相手にして分かりやすく説明できるわけがない。とか、メディエーターというのは報告書の説明人じゃない。とか、突っ込みどころ満載の発言だが、これにも目をつぶろう。

山口委員「中立性に関しては、結果がどう出たかに関わらず、遺族への聞き取りの結果では、中立であるとご判断いただけているようだ」

鮎澤委員(九大大学院准教授)「3点伺いたい。人の確保に時間がかかったとのお話だったが、それは何に時間がかかったのか、専門化されればスピードアップするものなのか」

山口委員「まず報告書に何を書くのか、どうやってまとめるのかを決めるのに1年ぐらいかかった。それが決まった後は専門家のディスカッションに時間がかかっている。まとめようとすると非常に多くの意見が出る。それは取りまとめの基準がハッキリしていないということと、その都度新しい人が集まってくるから。その部分で専門化すれば早くなるとは思う。それから専門家を集める日程調整にも時間がかかった。専従の専門家が関与するようになったら、外部の関与をどの程度にするか検討することで短縮を図れると思う。いずれにしても核となる専従専門家の配置とその人たちに対する研修が必要」

鮎澤委員「2点目。医師も専従にするということになると、臨床現場から離れることになる。すると現場からは分かっていないくせにと批判が出ないか」

山口委員「もちろん専従の医師だけで全部やるのは不可能。しかし報告書のまとめ方の基準を示すことのできる人間が委員の中にいるかどうかは大きな違い。現場との距離感で言えば、専従者の出し方も現場から2年間のローテーションにするとか工夫の余地はあるだろう」

鮎澤委員「3点目。モデル事業の結論と当該医療機関の見解が食い違ったことは?」

山口委員「あったが、ご検討くださいということで医療機関にお示しして、その後まではフォローしていない」

前田座長「この議論が第三者機関のまさに骨格を決めることになるので、ぜひ質問があれば」

辻本委員(COML理事長)「私も地域の評価委員として関与した。患者の代表という立場からの、良い意味での監視役になれたのでないかと思っている。議論が専門用語の羅列ということがよくあったので、いちいちそれは何?と言うのが私の役割だった。感想としては報告書をまとめる際に、医師自身がリスクある医療を手掛けているからなのか腰が引けているように見受けられた。それから評価委員会は、おおむね3回会合を持ったが、慣れてきてからメーリングリストでやりましょうという風になって、直接顔を突き合わせるのとは温度差があることを感じた」

この発言に何の反応もせず前田座長「一番気になるのがコストというか、どれ位の規模まで広げられるか。今の医療資源の中で、あらゆる死亡をカバーできるかということ。これはもう感覚的にしか言えないと思うけれど」

山口委員「なかなか難しい。どれ位の事例があって、そのうちどの程度が解剖の承諾を得られるか、3分の1ぐらいだろうか。日本全体で見ると相当な数になるかもしれないけれど、なかなか難しい」

前田座長「つまり今回やったものを日本の例えば8カ所に置いておけるのか、それで国民の期待に応えられるのかということだが」

児玉委員(弁護士)「病院死亡者を数の出発点とすると病院で年間に亡くなるのが90万人から100万人なので、それの1割を手掛けるとしても10万人になって、モデル事業が年間80人を目標としていることから考えると全然問題にならない。しかし医療関連死の警察への届け出件数を出発点とすると、警察庁の発表によれば04年がピークで255件、05年は214件、06年は190件という辺り。それに関してはモデル事業でも既に手が届き始めている」

皆様、ここまで駆け足で申し訳ございませんでした。
さあ、いよいよ今日の「その時」がやって参ります。

前田座長「よろしければ、モデル事業に関して警察庁と法務省の方にもご発言いただいて。。。」

これまで3回、オブザーバーとして一言も発することなく議論を聴いていた警察庁の太田裕之刑事企画課長と法務省の甲斐行夫刑事課長に発言するよう促した。

前回の検討会傍聴記で「厚生労働省が汗をかいて検察と調整すべきだ」と書いた。この手の会議で事前の根回しなしに発言を振るとも思えないので、発言を促したということは、警察や法務省からお墨付きをもらうべく汗をかいて調整したのだろう、やるな、と一瞬思った。

しかし。。。

太田課長「モデル事業というより今までの検討を含めて発言したい。

警察への届け出は、以前は年に数件しかなかった。それが急に増えたのは広尾病院の事件があったからで、東京女子医大の事件があったから。こうした一つひとつの事件を契機に病院からの届け出が増えた。04年をピークに徐々に減っているのは、現場の捜査官の感覚で言うと、病院がリスク管理や被害者との対話に取り組むようになったから。

警察として医療事故を一生懸命やっているという認識はない。あくまでも届け出が増えたから送致も増えたに過ぎない。警察が医療現場に乗り込んでいく、手を突っ込んでいくということはないし、議論になっている医師法21条の届け出義務違反に関しても、立件したのは全て業務上過失が主にある事案。21条単独で立件したケースは一件もない。

基本的に第三者機関の設置には賛成。現場でもいろいろ事件が増えていて、キッチリ対応しようと思っても医療だと専門家の協力を仰がねばならず、現場にとって労力が多い。明らかな刑事事案である患者の取り違え、薬の投与間違え、分量間違え、体内への置き忘れを除き、専門的知見を要するものは我々に持って来られるより第三者機関へ行った方が合理的。

ただし全ての事案を第三者機関経由でなければならないというのはどうか。明らかな事案まで回していたら遺族から警察へ告発が来ることも考えられる。明らかな事案については仕分けして警察へ届ける方が国民の理解も得られると思う。では明らかな事案とは何かという議論だが、これは過去に裁判の判例として実務の中で積み重ねられたものが参考になるので、自ずから運用の中で定まっていく
と思う。

モデル事業と言っても、地域ごとに警察との連携の仕方が全く異なる。すべてご相談いただいているものから、全く警察が知らないうちに終わっているものまで様々。それに関しては、いろいろな形の中でどれが良いか検証することができる」

なんたることか! 議論の前提として検討会初回に聴いておくべき話である。想像するに、落とし所の調整をすることもなく、単に「発言してください」としか伝えていないのだろう。当然、太田課長も庁内調整をしてきているはずがなく、今までの警察の立場を繰り返したに過ぎない。太田課長を論破したからといって、警察庁の見解を変えられるわけではないし、それに関して厚生労働省単独開催の検討会が、ああだこうだ責め立てるのは理不尽である。責められる方からすれば、手足を縛られて殴られるようなものだ。

とはいえ、ここまで議論全般について話を蒸し返された以上、まったく無視するというわけにもいくまい。さてどうするのか。

続いて法務省の甲斐課長。「今回の検討会の背景として、刑事司法との関係を念頭に置いていると理解している。医療と司法との相互の理解がこれまで必ずしも十分でなかったのだろう。

ただし現実の刑事司法は、医療に対して謙抑的姿勢で臨んでいると思っている。医療事故は、なんでもかんでも起訴というイメージを持っている方が少なくないようだが、現実はそれとは程遠い。たとえば東京地検でも医療事件の取扱いは年に10数件から30件程度に過ぎない。うち起訴は年に数件未満で全体の1割弱。その他は、起訴猶予か嫌疑不十分による不起訴。起訴にしても正式起訴は半分に満たず、残りは罰金だけ。絞りこんだ運用をしているのが実情。

過失があっても刑事責任を問うべきでないという意見もあることは承知しているが、そうした考えまでは国民の理解を得にくいのでないかと考えている。

一般論として言うと、社会的事象の調整に刑事罰が果たす役割はone of themに過ぎず、行政処分や民事救済の方が多くを負うものだ。刑事罰は強力であるがゆえに謙抑的でないといけない。たとえば交通事故はまず行政処分の対象となるのであって即刑事罰ではない。独禁法違反も課徴金や排除命令などの行政処分が主体で刑事告発は限定的。脱税もまず重加算税などの行政処分が来る。医療事故の場合だけが中間的なものがない。

また真相を知りたいということで患者や遺族が刑事告発、民事訴訟を使っていることも多いと思う。そういったものに対して究明・説明・納得が得られれば、何も刑事司法まで至る必要はないのでないか。

第三者機関の制度設計に関していえば、まず調査は中立・厳正であることが大きなポイントになるだろう。患者側の不信感が根底にあってトラブルになっているわけだから、中立かつ厳正でないと機能しない。そして患者側が何を知りたいのかと言えば、どうして?とか一体何が?とかになると思う。議論の中で、ややもすると解剖ありきが先に立つが、それだけでは分からないことがたくさんある。関係者からの聞き取りやカルテ読みなどが重要で、そのためのスタッフが必要だろう。二番目に、患者側に対して十分な説明を第三者機関がする必要があるだろう。三番目に死因究明が単発で終わるのが良いのかどうか。必要に応じて行政処分や民時救済がセットになるべきだろう。この分野だけでは刑事罰が下されると行政処分が行われると、通常とはひっくり返っている。四番目として、証拠保全が必要ということ。医師法21条との関係でいえば、報告ルートがどうなるかという整理とは別に、調べて刑事へ持っていくときに証拠がないというのでは困る」

太田課長に比べれば、検討会の趣旨に合わせようとの意識は伺えるが、それにしても、やはり網羅的で話が元に戻っている。

そしてこの二氏の発言に最も慌てふためいたのが気の毒にも前田座長だった。「私の質問のしかたが悪かったので発言がモデル事業からひろがってしまって申し訳ありませんでした」と、誰にか知らないが、謝った。

しかし私は思う。これは座長が悪いのではない。ここまで調整できていないとは想像もしなかったのに違いない。

できることなら、単なるオブザーバーの発言として紛糾しないで欲しかっただろう。しかしそうは問屋が卸してくれなかった。

児玉委員「太田課長が、明らかな刑事事案の例として薬の投与間違いを挙げられたが、これには大きな違和感がある。1000床クラスの病院で一生懸命ヒヤリハット事例を集めると年に3000件くらいになる。そのうち1000件くらいは大雑把に言って投与間違いだ。だから、投与間違いが明らかな刑事事案だと言われると、ここにいる医療関係者全員が大きなショックを受けると思う。投与間違いの中でも極めて稀な死亡につながったようなもので届け出られたものだけを見て発言していないか。

患者の取り違いにしても、今までに致死はなかったはず。横浜市大の場合も致傷だ。それでもあれだけ大騒ぎになった。置き忘れも明らかな刑事事案だと言われると医療従事者に対する萎縮効果が大きい。こう見たって明らかな刑事事案というのは難しい」

医療側が「明らかな刑事事案」発言を聞き流せないのも確かだが、太田課長からしてみれば、厚生労働省のシナリオを信頼して大した準備もなしに話をしたのだろう。それで吊るし上げられたら、ほとんど騙し討ちを食らったに等しい。

おそらくそんな気持ちから反発したことで騒ぎがさらに拡大する。「基本的に我々は証拠保全が第一であるから、医療側の第三者機関が24時間365日できないのであれば直接警察へ届け出てもらった方が証拠保全が図れる」

最初からフルタイムでやるんだろうな、という嫌味である。が、言ってしまった後でさすがにマズイと思ったのだろう。「刑事事件になるものは非常に少ないと思っている。我々の本音とすれば起訴になるようなものだけ来てほしい。第三者機関の判断は尊重したい。そこから出てきた報告書を刑事訴訟に使うかどうかは議論が必要だろうが、それによって公平な解決ができる」

前田座長が、慌てて火消しに入る。「ほんのちょっとのズレだと思う。我々の考えるのは、カテーテルやハサミの置き忘れのようなものでガーゼの置き忘れまで刑事で問うつもりはない。そんなにズレはない。もちろん完全に一致はない。しかし法の側はギリギリの判断は医に任せざるを得ない。基本的に組織を作ることで総意はできていると思う」

が、残念ながら、高本委員(東大教授)がケンカを買ってしまった。「患者さんが亡くなった時の最大の証拠は遺体。それからカルテ。聞き取り調査だ。警察が関与しなければならない証拠は極めてわずか。警察を通さないと証拠保全できないというのは論理が飛躍している。残さないといけない証拠とは何か」

法務省の甲斐課長が「太田課長と必ずしも同じ考えでないかもしれないが」と前置きして、とりなすように話す。「全例第三者機関経由という考えもあるだろうし警察庁のような考えもある。現実によくあるのは、最初は民事でやっていたものが揉めて最後に刑事へ持ち込まれるというケース。そういう場合、解剖はしてないし、カルテもどこまで手が加えられたか定かでないので困ってしまう。

もちろん第三者機関でもきちっと対応されるとは思うが争点がそのときのものだけに留まるか分からず拡散する可能性もある。そこに気を付けていただければ」

高本委員「やりようはある?」

甲斐課長「ありうる」。

これで引き下がるかと思ったが高本委員「警察で全例引き受ける覚悟があるならやればいい」。嫌味のお返しである。

どんなに議論しても実のある答えをしようがない(当事者能力を持たない)太田課長であるから、言質を与えず適当に議論を終わらせたいという意識が外からも分かるようになってくる。「私も極めて稀なんだと思う。すぐに警察へ届けてもらわなければならないようなのは年間ナンボというオーダー。とすれば航空機事故調査委員会と同様に同時並行的に進むということもあるのかなと思う。刑事で立件されるべきものであれば警察が早めに入った方がいい」

ところが、この発言が、今度は山口委員にとって聞き捨てならないものになってしまった。「モデル事業をやってみて当該医療機関の病院内活動が大きな役割を果たす。再発防止につなげるのも結局院内の活動。そうした活動に水をかけることになるのなら第三者機関の意義は薄くなる。同時並行という話があったが現実的には極めて難しい。病院の自主的な活動が抑えられるのでは意味がない。自主的な取り組みを阻害しないようにしていただきたい。そのうえで証拠保全ということはあり得るのかもしれないが、しかし明らかな刑事事案であればあるほど、なぜそんなことが起きたのか再発防止のために調べなければならないのであって、病院の自主的取り組みが要らない事例はないと思う」

前田座長の顔から血の気が引いたように思えた。もはや、パンドラの箱は開いてしまったのであり、あとは太田課長や甲斐課長がこれ以上吊るし上げられないうちに議題を変えることしかない。「最後の詰めでの大事なところではあるだろうが、今のところ、遺族・マスコミの評価がどうなるかも考えなければならないし、できるだけ再発防止につながるシステムとしてすり合わせしておきたい。どちらの原則に立ちますかというより、ある程度決めてどちらかが落ちてしまうのではマズイかもしれないし」。いったい何が言いたいのかというくらい、凄まじい狼狽ぶりである。「前回、今回の話で距離が縮まった感じがする。今日の段階では全体の方向性を、あと何回かで方向性をまとめていかないといけないので」

と、そんなの議題に入ってったっけ?の「方向性の概要」資料を読み上げ始める。そして「この委員会の大事な仕事として、刑事へ回すか回さないか判断する機関を作るということはあると思う。もちろん明明白白に刑事のものは直接警察へとか、そもそも明明白白に刑事のものって何だとか議論はあるだろうが、そこの振り分けの部分は期待されるべきでは?少なくとも灰色の部分までは刑事が踏み込まないよう方向性に書き込む必要があるのでないか」

ところが、これには太田課長が黙っていられない。「灰色の部分までズカズカ踏み込んでいるつもりはない。届け出があったら捜査しないわけにいかない。第三者機関ができて必ずそこを経由することにしたとしても、患者や遺族が納得せずに刑事告発することまでは制限できないはず。そうならないよう、ちゃんと第三者機関で刑事に回さなかった理由を説明してほしい」

もはや収拾のつけようがない。ついに前田座長も事務方の尻拭いをあきらめたようだ。「ここをどう書くかの文章は事務局にうまいこと考えてもらうことにして、組織の在り方についてはいかがか」

しかし話題は先へ進まない。木下委員(日本医師会常任理事)が「警察や検察の話もよく分かる。明らかな刑事事案といって家族側からの届け出は仕方ない。しかし、これだけ機能してきたモデル事業がある以上、証拠保全と盛んに言うが、絶対に刑事捜査が入らないと保全できないようなものは大きな問題にならないのでないか。

我々も医療事故をすべて免責にせよというような意見には同意していない。基本的に第三者機関に届け出て明らかなものであっても医療界全体からすると第三者機関へまず届けると、この際この原則・この方針を決めた方がよいのでないか」と話を蒸し返す。

ずっと黙っていた加藤委員(弁護士)だったが、今日はこの流れと見極めたのだろう。建設的な方向へ話を戻そうとする。

「まず第三者機関へ届け出るようにするのは賛成。ただし速やかに方針を立てる必要があるだろう。たとえば院内調査委員会を立ち上げなさいと言うようなことが考えられる。山口委員からも報告があったように院内調査委員会は実は重要で、先ほど同時並行というような話が出ていたが、公正さが保たれる担保は必要だが、その院内調査機関が動いている間一定期間謙抑的に対応することはできるだろう。実際名古屋大学病院で起きた腹腔鏡手術による事故の際、院内委員会の調査の間2ヶ月間捜査を待ったという事例がある。こういったものをリーディングケースに、再発防止・真相解明の営みを医療機関が誠心誠意やろうとしている時、その営みは医療の質を高めるために大事なこととして遺族にも伝わる。その報告は示談材料にもなるだろうし解決の道筋が見える。

そういうことができるように第三者機関の規模や振る舞いも規定するべき。医療事故は特定機能病院のようなところだけでなく、ほとんど病床を持たないようなところでも発生する。自前で調査委員会を設置できないようなときはどうすればいいのかとか、届け出た後のことを考えられるよう議論を深められればいいなと思う」

この助け舟で、前田座長も少し冷静さを取り戻したようだ。「国民の側から見て第三者機関がやったのだからと信頼してもらえることが大前提。第三者機関へ届け出たのに真相解明できないということになると、刑事捜査を求める声が強くなってしまう。どの程度の能力と公平性を持った機関が作れるのか、それは内部から見てと同時に国民一般の外から見て納得いく外観が作れるかということにな
る」

児玉委員も司法批判に幕を引きたいと思ったのだろう。話題をモデル事業へ戻した。「モデル事業に関して、内容や手続きを一般の人にもっと分かりやすくしないといけないと思った。内容に関してはメンバー設定も大事だが、これだけの専門家が集まってこれだけ真剣に議論しているのだというのをどう社会に伝えるのか考えたい。手続きに関して言えば、真実を知りたい遺族と、真実を話したい医療従事者がいたとしても、どこへ行ったらいいのか出口の分からないまま24時間が来てしまう。皆さんヘトヘトになる。現場にとって今のシステムは非常に分かりにくい」

が、話題を変えさせまいとする人がいた。

高本委員「真相解明について大きな2つのルートがある。しかし刑事捜査が本当の真相解明になったかというのは大きな疑問だ。最後の下手人だけ分かったにすぎず、証拠も最後の下手人を固めるためのもので、本当の真相究明のための証拠保全ではなかったと思う。最後の下手人がどうのこうのは大した問題でない。本当の真相解明のためには、むしろ警察へ届けるより第三者機関へ届けた方がよ
いのでないか」

全くもって正しいと思う。ではあるが、この場でその議論を挑んでも、司法側の2人の課長は答えようがないのである。

前田座長が慌てて割って入る。「誰が下手人かというのが一番大事なことにはなる。下手人がうやむやになってもいいから真相解明・再発防止ができればいいというわけにはいかない。いずれにしても、僅かな差だと思う」。

僅かな差ではなく、根源的な差だと思うが、この議論を続けたら検討会が空中分解するわけで、前田座長の進行には、もはや開き直りさえ見られる。

太田課長も高本委員の意見には答えず「名古屋大の事例を挙げられたが、あれが同時並行という認識だ。発生と同時に警察も知っていて、調査を見守っているのだから同時並行になる」

前田座長「無用な溝は埋まってきていると思う」。もうイチイチ論評するのはやめよう。

堺委員「真相解明を求めて警察へ届け出た場合、現在不起訴になった事例の開示がされないために患者遺族の不満が晴れないというのがあると思う。現行法では不起訴事案について、どこまで開示できるのか」

甲斐課長「今現在のプラクティスとしては、不起訴にした場合、求めがあれば相当程度詳細に説明するようにしている。昔は不起訴になった場合、関係者のプライバシーの問題を気にして何も説明できないという対応をしていたが、最近は被害者重視の観点から改めて、できるだけ丁寧に説明するようにしている。たとえば数時間説明したという事例もあったと承知している」。

興味深い発言だ。本当に不起訴になった例全部に対応していたら業務がパンクするに違いない。虚勢を張ったのか、それとも本当にやるつもりなのか。

最後の最後になって今回は影の薄かった樋口委員(東大法科大学院教授)が口を開く。

「モデル事業は38学会の協力を得ているが、医療者がまとまってやろうとしている。解剖も複数の大学が協力しているし、病理と法医と臨床とが連携もしている。モデル事業に関与してみて、真相というのはなかなか分かりづらいものなんだなとは実感している。むしろ、法律家の世界と同様、医療界も縦割りが強いようで、その壁を超えて互いに学びあう努力がされている。どれだけ真剣にやっているか、本当に国民に知っていただきたいと思う。

この検討会設置の目的は、医療の安全であり、医療に対する信頼であったと思う。刑事司法の方々とも目的は共有できる。手段が違うだけだから、運用していくなかで、どちらが優れているかも自ずから見えてくるのでないか」

なんだかホッとしたように、前田座長がお開きを宣言する。「まさに医学界の方が集まっていらっしゃるのは重要なこと。それを無にしないようにしたい。この検討会は制度設計をする会議ではないので、方向性を定めていければ。さばき方が悪くて時間が過ぎてしまい本当に申し訳なかった」

制度設計はしないぞ、と宣言してしまった。きっとエライことを引き受けたと思っているのだろう。ちょっと気の毒だ。

しかし、もっと気の毒なのはオブザーバーの2人だ。

繰り返すが、厚生労働省単独開催の検討会には、刑事事案の取り扱いに関して決める権限はないし、警察庁の課長や法務省の課長も交渉の権限を与えられて出てきているわけでないから、彼らを論破しても意味はない。もしその件について議論したければ、警察庁・法務省と合同の会議を設定する必要がある。そういう努力もせずに議論を挑むのは、単なる吊るし上げである。

厚生労働省の怠慢のとばっちりを受けて吊るし上げられた2人の課長に心から同情する。そして、この遺恨が尾を引かねばいいが、と思う。

(この傍聴記はロハス・メディカルブログ<a href=”http://lohasmedical.jphttp://lohasmedical.jp”>http://lohasmedical.jp</a>にも掲載されています)

 

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