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臨時 vol 18 「参議院行政監視委員会傍聴記」

医療ガバナンス学会 (2007年5月22日 15:55)


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(ロハス・メディカル発行人 川口恭)

~ 大蔵省出身の文科大臣にダメ出しされる厚労省 ~


鈴木寛・現場からの医療改革推進協議会事務総長が14日の参議院行政監視委員会で医療をメインに質問したので傍聴してきた。

ちょうど国民投票法案が可決成立した日であったため国会周辺は非常に騒然としていた。が、一歩院内に入れば、やはり静かなものである。同時刻に参院決算委員会も開催されており大臣が出て来ない可能性もあったと思うのだが、鈴木議員と対峙する政府委員席の中央には右に柳沢伯夫厚生労働大臣、左に伊吹文明文部科学大臣と、共に大蔵省出身の「政策通」が並んだ。改めて2人並んだ後姿を眺めると大蔵出身者が医療と教育を仕切っているわけだから、そりゃ渋チンにもなるわなという感慨を抱く。

さて医療をメインに質問するとあっては見逃せないと思う反面、行政監視と医療とそれほど関係あるかな、と疑問に思っていた。が、蓋を開けてみれば、なるほど見事に土俵へと引きずり込んでいく。

行革推進法によって、国立病院には5年間で5%の定員削減義務が課せられ、公立病院にも4.6%の削減要請がなされた →それでなくても過酷な医師や看護師の勤務がよりひどくなり、訴訟リスク、刑事訴追リスクの上昇と相まって、従事者の立ち去りを加速する悪循環が止まらなくなっている →行革以上に重要な「命」への配慮が足りなかったのでないか。医療崩壊を加速させていないか。

こんな論法である。地方公立病院では医師や看護師の定員を満たすことができず大騒ぎしているのだから、この問題提起は実態とちょっと違うと思う。が、鈴木議員もそんなことは百も承知だろう。ともかく、これで行政監視と医療とが結びついた。

対して柳沢伯夫・厚生労働大臣は「医師、看護師、助産師、薬剤師といった直接医療行為にかかわる職種については、できるだけ減員を避け、総定員の中でやりくりしている。地方公共団体でも同じような努力をしているのでないか。定員の問題か実員の問題かという問題が別途あり、定員に関してはこのように努力している」とかわす。

さて、この答弁で果たして問題ないのだろうか。零細企業経営者として疑問に思うのは、ある事業にどれだけの人員が必要かというのは業務量から逆算されるべきだし、逆に陣容を定めてしまったら行うことのできる業務量も定まるのでないか、ということである。雇う側が自分で人の何倍働こうがそれは自由だが、雇われる側には1人に対して1人分の働きしか要求できないはずで、たくさん働いてもらおうと思ったら処遇で報いる必要がある。

もちろん役所にムダがたくさんあるのは皆知っていることだが、医師、看護師など医療従事者の働きぶりの実情を知る人なら、医療現場にムダが多いとは誰も思っていないのでないか。むしろ、それこそ2人分、3人分働いている人が大勢いる。

で本題に戻すと、1人分を超えて働いている人が大勢いるのに、そういう人が多い分野について「できるだけ減員を避け」ても意味ないのでないか。その員数が1人分ムダなく働いたとしてできる業務の総量を割り出し「これしかできません」と周知すべきである。あるいは総業務量に見合った員数を確保すべきである。

とまあ、こんなことを考えていると、鈴木議員が、いよいよ本題に入っていく。

「ここ3年くらい厚生労働省と議論を続けてきた。厚生労働省は一貫して、医師は全体として足りている、偏在しているだけだ、と主張し、我々は絶対的に足らないと主張してきた。現場の医師たちは労働基準法をはるかに逸脱した過酷な勤務をしている。これが我々の絶対的医師不足説の根拠である。しかるに新聞報道などを見ると、与党が医師不足対策のプロジェクトチームを立ち上げたそうだが、厚生労働省は引き続き医師偏在説を取り続けるのか」

柳沢厚労相「OECDなどと比べると、確かに人口あたり医師数は決してゆとりのある数ではない。今の状況では特に病院の医師の勤務時間が長い。対して診療所の医師はそれほど勤務が長くない。結果として病院の医師にしわよっていることはよく認識しており、これが一つの偏在として読み取れる。地域的にも医師数の多い地域と少ない地域があり、また科目ごとにも偏在がある。与党が医師不足とタイトルにうたったPTを作ったといっても、これは私どもの認識の延長線上にある話で、私どもの努力をさらに後押ししていただくお考えであろうと」

よくもまあ言ったものである。一つは日本医師会の支持基盤である開業医に、もっと働けと言っている。でもそれ以上に凄いなあと思うのは、もともと「ゆとりがない」ところで偏在を解消しようとするのだから、要するに「国民みんなで我慢しましょう」と言っているのに等しい。しかし、この政権を選んだのは国民だから、巡り巡ると仕方ないのかもしれない。

ここで質問の話題は先日来話題になっている「医師確保法」へと移る。

鈴木議員「地方の医師不足を解消するために国公立病院から派遣を行うとのことだが、このような構想が近々まとめられるのは事実か」

柳沢厚労相「現実に研修医を引き付けているところを拠点病院と位置づけ、そこから地域で不足しているところへ派遣する。このネットワーク化は、そもそも私どもが進めさせていただいているシステム。明らかに不足しているところ10県くらいについては将来の養成数を先食いする形で医学部定員を増やすというのもあるけれど急場には間に合わないので、急場の対応としては派遣ネットワーク制をどう使うのか新しい知恵をいただけるのかなあと考えている」

政府与党案のようなことは、既に以前からやっていたのだそうだ。以前からやっていたのなら、さも新しいことを始めるかのようにマスコミにリークするのは、いかがなものか。

鈴木議員「卒後臨床研修のアンバランスが医師不足の原因と認識していると思う。しかし、ないパイの中でどうやりくりしても足りないところは出てくる。
(中略)
問題は研修医だけなのか。たとえば女医さんの問題。産婦人科などでは卒後10年経つと女医さんが臨床現場から離れてしまうという現状がある。この状況を放置したままでは抜本的な解決にならないのでないか。
(中略)
今の方法論だと都会は足りているという前提でないと成り立たないが、都会だって医師は足らない。人口あたり医師数が一番少ないのは埼玉県で10万人あたり134人、その次が茨城県で10万人あたり150人、その次が千葉県。地方だけが足りないという政策論議や報道は明らかにミスリードしている」

一般には意外と知られていない事実だが、まさか厚労省が知らないはずはあるまい。さらに鈴木議員は続ける。「短期的には、医師は人手不足が解消して休みが取れることを願っている。そのためには人手不足を解消できるよう、診療報酬で配慮してあげることが必要ではないか」

これに対して初めて大臣ではなく保険局長が答弁に立つ。「診療報酬設定については、医師や病院団体の関係者らが参画する中医協の場で議論され決まるものであり、平成18年度改訂では医師偏在の議論を踏まえて、産科・小児科や救急に手厚い評価を行ったところである」

この答弁に対して面白いところから矢が飛んできた。

鈴木議員「この点に関しては、まだまだ足らない。さらに努力をお願いしたい。長期的には医学部定員を増やす必要があると思う。これは文部科学大臣の所管だが、報道によると医学部に自治医大方式の地方枠が検討されているそうだが」

事務方が答えようとしたのを制して伊吹文部科学大臣が答弁に立つ。「(医学部の地方枠については)新聞報道などで存じているだけで与党からまだ話はない。しかしながら、現在の医師不足に関して二つの大事な原因があると思う。今回の医師不足は新研修制度で人手が足りなくなった大学医局が大学院修了後の中堅を引き揚げたことに本質がある。研修制度をいったいどうするのか、大きな問題があると思う。それから、市場経済で動いているわけだから、子どもと新生児が減ってその分野の医療需要が減っているわけだから、診療報酬の単価を上げて、その従事者のトータルの報酬を確保してあげないとなり手が減っていくのは当たり前。対症療法的にふるさと枠を設けるだけでは解決しない。少し事柄を深めて議論していただく必要があるのでないか」

明らかに厚生労働省を能無し扱いし、ツケを文部科学省に回すなとケンカを売った答弁であり、逆に言うと質問者である鈴木議員への共感を示したとも言える。
鈴木議員もこれだけ引き出せば十分と考えたのであろう。質問を再び厚生労働省へ向ける。いよいよ例の『診療行為に関連した死亡に係る死因究明等の在り方に関する検討会』が俎上に上がる。

「まさに大学医局が人を引き揚げたのが医師不足激化の理由。契機になったのが福島県立大野病院の産婦人科医が逮捕されたことで、大学医局が1人医長の現場などから医局員を引き揚げざるを得なくなった。萎縮医療・保身医療が急速に進んでしまっている。こうした事態を食い止め医療崩壊を食い止め現場を正常化しようと、このような検討会を開くことはまことに時宜にかなっている。ところでこの検討会では大野病院事件でも問題になった医師法21条について、どういう方向で議論が進んでいるのか。要望というか意見を言わせてもらえば、医師法21条は法律ができたときの趣旨と現在の運用とが乖離している。いわゆる医療関連死亡は異状死に含めるべきでないと考えるが、このようなことを議論しても
らえるのか」

医政局長「現在検討している診療関連死の届出制度と異状死の届出制度とを整理する必要はあると認識しており、法務省・警察庁との関係省庁連絡会議でも議論してきた。またこの問題に関して、パブリックコメントに多数の意見が寄せられたので、こうした意見と検討会での議論を踏まえて十分に検討して参りたい」

特に何ともないような答弁ではあるが、一点だけ語るに落ちている言い回しがある。建前から言えば「検討会でご議論いただく」と答えなければいけないはずを「検討会の議論を踏まえて十分に検討したい」と言っている。有識者はお飾り、決めるのは自分たち、という本音が出た。しかし、大した問題ではないので本筋を追おう。

鈴木議員「検討会では死因究明のための調査機関についても議論すると思うが、そもそも趣旨を読んでも、この検討会の目的がよく分からない。再発防止なのか、訴訟・訴追リスクを下げて医療崩壊を食い止めることなのか、はたまた公正な調査を実現することなのか。どれも重要だが、きちっと腑分けして整理しないと、結局は事態の改善につながらず悪化させるのでないかと心配している。再発防止はモデル事業があるので、そのカバレッジを増やすこと深めることで足るのでないか。あのモデル事業がありながら第三者機関を新しく作ろうというのは、何のためにどういうことを狙ってやっているのか整理していただきたい」

モデル事業が余りうまくワークしていないというのは、17日から始まった日本法医学会などでも発表されていることだが、その総括もきちんとしないで先に進むつもりではないだろうなという嫌味である。

医政局長「死因の調査や臨床経過の評価・分析、再発防止にあたるような専門的な機関が設けられていないため、結果として民事・刑事手続きに期待が集まるという現状認識があり、これが全ての出発点。3月に患者さんの納得が得られるような安心・安全な医療の確保や不孝な事象の発生予防・再発防止に資するための試案を提出した。専門性の高い組織による原因究明のしくみを構築することで再発防止、萎縮医療の回避にもつながると考えている。いずれにしてもパブリックコメントに寄せられた意見、検討会の議論を踏まえて今後よく検討して参りたい」

鈴木議員「医療事故は複雑なので専門的な機関を作ることは結構だが、それは一体誰のためのものなのか。ぜひ患者のためのものという本旨に基づいて制度設計を行ってほしい。誰のためという部分を間違えると屋上屋を重ねるというか、医師法21条の警察への届け出義務も残って、仮に第三者機関への届出義務なんかかけてしまうと、そんなことは考えていないと思うが、警察からも第三者機関からも立ち入り検査を受けるということになって、 手続き上の落ち度があった場合に両方から訴追リスクがあることになると、 何のためにこういう議論をしていただいているのか全く分からなくなる。検討会の内容で行政処分のありかたについても検討するとなっているが、民事訴訟、刑事訴追がある中で、さらに行政処分が強化されたら 結局、萎縮医療・保身医療がひどくなってしまう。結果として一番困るのは患者さんだ」

もう質問ではなく、厚労省に対するクギ刺しである。そして、伊吹文科相が深く何度もうなずく。こういう光景は珍しいと思う。何についてクギを刺したかといえば

医師法21条を現状で残したまま行政処分を強化するのではあるまいな

ということである。今後の検討会でウォッチする論点になるかと思う。鈴木議員は答弁を求めないまま、今度は対話型ADRへと質問を移す。

「司法の限界というか枠組みがどこまで医療に入るのかは難しい。医療には、医療従事者と患者・家族との間に濃厚な信頼関係が必要。その意味で対話型ADRについては検討会で議論されるのか」

医政局長「死因調査や臨床経過の評価を行うような専門機関が設けられておらず結果的に民事・刑事の手続きに期待されるようになってきたわけで、今般の死因究明制度が構築され事実関係が明らかになれば医療機関と患者の話し合いも促進されるものと考えている。また調査報告書の活用や当事者間の対話の促進などによって民事紛争解決の仕組みを探ることも検討課題になっている」

相変わらず第三者機関ありきの答弁からは一歩も出ない。実に不思議な話ではあるが、その目的・必要性を国会できちんと開陳できないような組織にそもそも予算がつくものだろうか。鈴木議員は最後に大臣にも念押しをする。

「大臣、この問題に関しては、患者さんを含む医療関係者が大変な関心を持っている。制度設計のいかんでは、医療崩壊が食い止められるか、さらに進んでしまうのかの岐路に立っている。現場の医療者たちも非常にここ1年で問題意識を深めており、たとえば、現場からの医療改革推進協議会ワーキンググループは5716人の賛同書名をつけてパブリックコメントを寄せた。学会なども多数の意見を出しており、どれも真剣に厚生労働省へ声を寄せている。ぜひこうした議論を重く受け止め遺漏なきようご対応願いたい」

柳沢厚労相「どのパブリックコメントも真剣な意見であると受け止めており、今後十分踏まえて、なかなか難しい問題ではあるが何とか取りまとめを一定の筋の通った体系的なものとしてまとめることに努めたい」

大臣はこの問題について、まだ余り説明を受けていないのでないかと思うが、恐らく事務方の用意した答弁から少しだけ踏み込んで「筋の通った体系的なもの」というお土産をくれた。これも今後検討会をウォッチする際のポイントにしたい。

この後、鈴木議員は抗がん剤のDPC適用の問題と築地市場の移転問題について質問を行い、あっという間に45分が過ぎた。この傍聴記を書くにあたって、参院ホームページで質問を何度か聞きなおしたが、実にホレボレする論理構成である。誰のことを難詰したわけでもないが言うべきことは言っている。惜しむらくは野党議員なので、官僚がノラリクラリと逃げた時に、決定打を放てないこと
だろうか。

なお、鈴木議員はもう一つのライフワークである教育問題に関しても22日14時ごろから、参議院文教科学委員会で首相相手の質問に立つという。この質問はNHKでも中継されるそうだ。実に理に適った見事な質問をするので、ぜひご自分の眼と耳で確かめていただきたい。

このインタビューは、『ロハス・メディカル』ブログ(<a href=”http://lohasmedical.jphttp://lohasmedical.jp”>http://lohasmedical.jp</a>)にも掲載されています。

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