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臨時vol 16「鈴木寛・現場からの医療改革推進協議会事務総長インタビュー」

医療ガバナンス学会 (2007年5月18日 16:05)


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~ 政府与党の医師確保策は、ワークさせる気のない欺瞞です ~

(ロハス・メディカル発行人 川口恭)

――政府・与党が地方の医師不足に対応するために、国立病院機構などを利用した新たな医師派遣システム構築を決めたと一斉に報道されました。これが実際、ワーク(機能)すると思うか、お聴きしたいのですが。

昨年来、『現場からの医療改革推進協議会』でも問題提起してきたことですし、先日の参議院行政監視委員会でも質疑したのですが、政府の医師不足についての基本的な認識が誤っているということだと思います。つまり「医師不足なのか?医師の偏在なのか?」この議論を、私は歴代の厚生労働大臣と3年間続けてきましたが、いまだに平行線です。我々は医師不足だと言ってきました。人口10万人あたりの医師数が、OECD平均では300人を超えているのに、日本では210人しかいない。高齢化率が日本と同程度のドイツでは340人です。これで医師不足でなくて何なのか。しかも日本の場合、特に、病院の勤務医が少ないのです。こうした私の主張に対して、政府は、ベッド数が多いとか言っていますが、
医師の絶対数の不足は、ベッド数の多少とは、まったく独立したことです。それなに、政府は、医療費削減だけが頭にあるので、いまだに、医師は偏在していると言っています。

最近、与党が医師不足に関する緊急の対策委員会を作ったという報道をみたので、ついに政府・与党も医師不足を認めるような立場に変更したのかと思って、先日の行政監視委員会で確認してみたところ、結局、地方における医師不足を認めただけで全国トータルに関しては、いまだに不足を認めていません。しかも、その前提となる医師数データを対人口比に基づいて議論していないため、埼玉県・千葉県・茨城県などが、実は、日本で最も人口あたり医師数の少なく、首都圏においても、救急医療や小児・産科などはじめ医療崩壊が起こっているという認識に政府はなっていません。こうした誤った前提に基づいて首都圏の国立病院から地方への医師派遣が行われたら、既に小児救急が破たんしている多摩地区や埼玉、千葉などで軒並み医療崩壊が加速することになってしまいます。今、厚生省がやろうとしていることは、事態改善に役立たないばかりか、かえって事態を悪化させるのが目に見えています。

それから、政府の言っている医師の強制派遣がそもそも実効性のあるものなのか、という疑問もあります。一体どういう権限に基づいて強制派遣するのでしょう。地方への派遣命令を受けたら、そもそも、その時点で、国立病院をやめてしまう医師もでてくるでしょう。経済的インセンティブによって医師確保するといっても、すでに各地で試行錯誤が行われてきていますが、殆どうまく確保できていないわけです。そうしたなかで、こんな地方派遣義務をかければ、国立病院機構の各病院に若手医師が集まらなくなり、私立病院や大学病院に人材が再集中してしまうだけで、何の問題解決にもならなりません。国会でも、指摘しました。

こうしたずさんな案を、政策議論の前提となる事実認識を歪め、国立病院機構の現場の意見すらきかず、実効性のない内容のまま、医師不足対策法という名前を冠した法律にしたて、法案提出というアドバルーンだけを上げ、法案提出によって問題がさも解決に向かっていると世間の目を誤魔かし、そらしてしまう。まさに、政府・与党得意の「やったふり」「やっているふり」と言わざるを得ません。医療のようなわれわれの命にかかわる最も重要な課題で、こうした、意図的な事実誤認、世論のミスリードを故意に行うのは、極めて不誠実です。
――やはりワークしないとお考えですね。では、どうすればよいと考えますか。

今、短期的になすべきは、医師が燃え尽き、医療現場から立ち去る原因となっている(1)過酷な勤務状況(2)人手不足(3)民意訴訟・刑事訴追のリスクを少しでも緩和することです。人手不足と過酷な勤務の改善には、各病院が、歪んだ診療報酬体系を前提に、採算性・効率性を重視するがために、この数年、行ってきたリストラをまずやめさせることです。現場の人員を増やすためには、病院が人員を増やしても黒字でやっていけるような診療報酬体系に改善すること、つまり、病院での医師・医療者による治療行為に対して、きちんと十分な診療報酬が払われるように体系自体を見直すことが必要です。たとえば、同じ診断・治療行為であっても、診療所での点数と病院外来での点数が3倍違うといったような例もあり、こうしたことをひとつひとつ洗い出し、病院が成り立っていくように、変えていくことが不可欠です。

訴訟リスクを減らすには、医師・患者間の信頼関係を構築しておくことが重要で、そのためには、医師・患者間や医師・患者家族間で日常的に十分なコミュニケーション時間を取れるよう、相談業務に対しても診療報酬の対象にきちんと位置づけることが必要です。また不幸な事態が起きたときに機能する院内メディエーションを整えておくこと、また、当事者の実質的な理解・謝罪・和解が実現できるような対話型医療ADRを作ることも必要だと思います。

長期的には医師の養成数を増やすことが必要で、医学部の定員増とメディカルスクール設置を認めるべきだと思います。特にメディカルスクールは大学だけでなく大病院も設置主体になれるようにすれば教育研修上の問題はかなりクリアされるはずで、関係者の知恵を総動員して、医師養成体制の議論を進めなければなりません。
――お話で出てきた対話型ADRについては、改めて伺いたいと思います。今挙げていただいたような政策を実現するために何が必要でしょう。

現場の医師、医療者の方々が、まず政府・与党案の強制的に医師を地方へ配属するような制度は間違っている、実効性がないと、反対の声をしっかり挙げるべきです。それが政策を動かすのです。先ほどの話でも分かるように、医師不足の問題は診療報酬の問題ぬきには語れず、それは厚労省も分かっているはずです。しかし、診療報酬の問題にしたくないから、弥縫策しか言わないわけで、その場しのぎで世論の眼をかわそうという姿勢が根本的に間違っています。間違っていることには、間違っているときちんと主張する。この当たり前のことを、今からでも、遅くありませんので、病院で働く医療者の方々が始めていただきたいと思います。

小泉政権が行った診療報酬引き下げが何を引き起こしたのか、政府・与党はきちんと政策の誤りを認めて、現場のリストラを促進してしまった医療費削減方針を抜本的に見直すと表明すべきです。それが、医師の立ち去りを止める最良の策です。
このインタビューは、『ロハス・メディカル』ブログ(<a href=”http://lohasmedical.jphttp://lohasmedical.jp”>http://lohasmedical.jp</a>)にも掲載されています。

 

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