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vol 9 厚生労働省「第2回 診療行為に関連した死亡に係る死因究明等の在り方に関する検討会」傍聴記

医療ガバナンス学会 (2007年5月13日 16:06)


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~ 厚労省、そんなに急いでどこへ行く? ~
ロハス・メディカル発行人 川口恭

11日金曜日に九段会館で開かれた表題検討会を前回に引き続き傍聴してきたので、ご報告する。大いに盛り上がってよいだけの材料はあったはずだが、あまり盛り上がらなかった。その責任は、明白に事務局にある。なお、ところどころ、誰がしゃべったのか分からないコメントがある。これは私が会場を間違え時間ギリギリに飛び込んだため傍聴席が後ろになってしまったからで、その責任は、明白に私にある。申し訳ない。

この日まず行われたのは、厚生労働省たたき台に寄せられたパブリックコメントに関する説明。先日「現場からの医療改革推進協議会」が5716人の賛同署名つきで出した意見書もこの中に含まれている。寄せられたものを全部印刷したら600ページ近くなったそうで、いかにこの問題に関心が集まっているかよく分かる。これらのパブコメは委員には前もって届けられたそうだが、傍聴席には配られなかった。確かに資源のことを考えると仕方ないし、600ページの書類を受け取っても扱いに困る。が、せっかく大勢の人間がコメントを寄せたのだから、webに載せてもよいのではないか。web掲載自体は、そんなに大した手間ではないはずだし、こんなことを疑いたくはないが、大変忙しい人ぞろいの委員たちが本当にちゃんと全部読んでいるのか検証するためにも是非お願いしたい。

もっともそこは前田座長、さすがに言及して「他の審議会に寄せられたパブコメと比べても、密度が高く数も多く充実しているのに驚いた。基本的に十分に踏まえて議論していきたい」と述べ、次の参考人質疑に移る。前田座長、心苦しそうに「まことに恐縮ですが、説明はそれぞれ10分でお願いします」。

座長が恐縮するのも当然である。なぜそんなに議論を急ぐのか。10分で話せる内容などタカが知れている。当人たちがこれだけは伝えたいと考えて最低限の内容をまとめたのであろう資料が配布された、近日中に厚労省のサイトにアップされるそうなので、是非そちらも見てほしい。それを見れば、1人2時間かけてもいいくらいだと思うはずだ。

参考人は「医療過誤」被害者家族2人と医療者2人の計4人。それぞれ非常に立派な意見陳述をした。ただし、なぜこの4人が選ばれたのかは、よく分からない。後ほど述べるが、事務局が人選の際、どれだけ網羅的にリサーチしたのか疑わしい。10分しか時間を取らないことといい、参考人というのは所詮その程度の扱いなのかもしれないが、事務局はこの検討会の持つ重大性を分かっていないのではないか。

1人目の稲垣克巳さんは「克彦の青春を返して~医療過誤18年の闘い」という本の著者。被害者の心情を訴えるのかと思いきや、死因究明機関では再発防止と被害者救済がなされなければならないと、制度・組織のありかたまで、まるで専門の研究者であるかのような体系立った提言をした。

あまりに体系的だったので、座長も驚いていたが私も驚いた。と同時に、この種の提言を一人で作れるはずもなく、誰と組んでいるのだろうと訝しく思った。答えは1時間半ほど後にあっさり分かった。検討会委員である加藤良夫・南山大学法科大学院教授が資料として提出した「医療事故を防止し被害者を救済するシステムをつくりたい」という冊子の説明をしたのだが、そこに載っている「医療被害防止・救済センター構想」と稲垣さんの提言とは、かなりの部分が共通で、なおかつその代表呼びかけ人に稲垣さんが名を連ねているではないか。加藤教授たちの主張が妥当かどうかは別にして、委員が所属しているグループから参考人を呼んで、一体どういう意味があるのか。事務局が、加藤教授の構想に乗って新
制度を立ち上げようと、最初から落としところを決めているのでないかと邪推すらできる。

話を検討会に戻そう。

樋口範雄東京大学大学院教授が稲垣さんに問う。「医療被害者には願いがいくつかあって、再発防止と同時に関係した人たちを処罰したいという気持ちもあるはず。今回の提言は前者が強調されていたようだが刑事処分も大事な仕組み。犯罪性が認められるもののみ刑事処分の対象にするというときの、犯罪性をどう認定するのか教えてほしい」

稲垣「刑事事件でやると再発防止につなげるのが難しい。犯罪性に関しては、調査委員会が認定すればいいことで、行政処分まで含めて医療界が自ら律してほしい」

辻本好子・COML代表「補償費用を、患者が一部負担するのが当然という意味を教えてほしい」

稲垣「第一には国の予算による支援を期待し、それから医療・製薬など関係業界の拠出も期待しますが、患者もしくは一般市民も受益者なのだから患者だけが負担しないのはおかしい」

ここで話が終わってしまったのだが、受益者というのが、「医療」に関してなのか「補償制度」に関してなのかハッキリしなかった。どちらなのかによって、ベースにある考え方が違うと思う。

次の二川雅之さんは、父親を心臓手術で亡くし、病院との間で民事訴訟を闘っている現在進行中の当事者だという。二川さん側の主張する経過が本当だとすれば(アップ後に本人の提出資料を是非ご覧いただきたい)、確かに病院側の対応は不誠実極まりないのだが、まだ民事・刑事とも結果が出ていないので、確定的に言及するのは控えたい。特徴的なのは、事故発生から司法解剖結果が出るまで4年かかり、しかもその結果開示を求めたところ拒絶されたという経験を持つこと。

前田座長「専門機関は医師が中心になると思うが、医師以外のメンバーで構成した方がよいと思うか」

二川「私の場合、手術室の中で起きたことは内部告発がなければ分からなかったので、その病院は信用できない。専門機関の委員は医者どうしでも結構だが、ビデオなどの証拠を残すということと、遺族もそこに入りたい」

鮎澤純子・九大大学院准教授「市民を入れるのか、遺族を入れるのか」

二川「市民を入れるのは大賛成。でも遺族も必ず入らなければならない」

鮎澤「海外の例では、遺族が検討の場に入ることで、議論にスピード感がなくなり必ずしも真相究明につながらないという指摘がされている」

二川「海外のことは存じ上げないが、遺族が望む限り参加するべき」

男性委員「パブコメの中に一件だけ、医師を完全に除外すべきという意見があったが、それとは立場が違う?」

二川「はい」

辻本「ご遺族がいたら話すことが憚られるような内容が委員会には出てくると思う。リスクマネジャーなど中立的な人間が立ち会って、後で正確に内容を伝えられるとしたら、それでも構わないか」

二川「生々しいのがイヤな遺族は無理に入る必要はないが、すべての目標は真相解明だから遺族がいようがいまいが、議論の内容を変えてはいけない」

この短時間のやりとりでも「真実を知りたいのに、きちんと知る手段が担保されていない」ことへの憤りが、魂の叫びのように噴き出している。現在の制度が、患者家族の慰謝につながっていないことがよく分かる。

続いて「医療崩壊」の小松秀樹・虎の門病院泌尿器科部長。これも絶対に提出資料を読んでいただきたい。規範法で医療を扱うのは誤りであるということと、この議論を歴史の転換点として捉えて行えと正面から言い切った名文である。ただし陳述は超特急なので、台詞だけ拾うとあまり感動しないというか、あまりにも唐突な文言の連続である。アドリブで入った台詞で感心したのが「ガリレオ・ガリレイが『それでも地球は廻っている』と言ったのも、実際には正しい認知的予期類型が、規範的予期類型に従わされた例である」。何のことか分からないかもしれないが、文章を読めば分かるはずだ。

境秀人・神奈川県病院事業庁長「小手先の解決でなく根本的解決をめざせというのは、まことにその通り。一方で、死因究明機構を作ろうという社会の要請も確実にある。日本の場合一度変えてしまうと変わりにくいというのがあるけれど、議論を尽くすべきと考えるか、それとも柔軟に変更可能な制度設計にして走りながら検討するべきと考えるか」

小松「議論を尽くさないといけないが、しかし時間の問題もある。この制度は一度できてしまうと両刃の件になる可能性がある。フレキシブルに見直せる設計にしておくべきだ」

前田座長「私は刑法の専門なので、ご指摘のように法の限界は承知しているつもりだが、一方で国民生活の中に規範的なものは必要だし、それによって国民生活に安心が与えられるというのもあると思う。先生は、刑法で裁くのは故意のものに限るべきとの立場のようだが、故意と過失の線引きはクリアカットでない」

小松「少なくとも業務上過失に関しては司法の暴走が起こる」

大議論になって不思議でないほどの論点だが、時間のこともあってだろう、あと1人男性委員が質問しただけで終わった。
最後の参考人はリスクマネジャーとして活躍している富永理子さん(呉医療センター・中国がんセンター医療安全管理者)。ミスで障害の起きた医療事故にどう対応したかの実例を含めて述べた陳述はどちらかというと堅苦しかったが、委員の質問に対する答えは当意即妙で、いずれも委員の意表をついていたのでないかと思われ面白かった。

樋口「仮定の話で恐縮だが、障害ではなく、患者さんが亡くなられた場合は警察へつなぐことになるだろう。その場合、病院側はどういう対応になるのだろう。第三者機関があった場合、そこでどのようなことが期待されるだろう」

富永「死亡の場合も対応は変わらない。ただ、病院側の人間との話では納得してもらえないことはある。デッドロックになるようであれば第三者機関にきっちり調査してもらうのには意味があると思う。すべての事例が第三者機関へ届くのは望ましいことではない。個々の医療機関の中でできることが相当ある」

樋口「警察へ届けても、司法からプラスの影響もマイナスも影響もない?」

富永「警察がドカーっと来るとエライことになる。死亡から24時間以内に届け出るとそうなる。鑑識から何から大勢で来て、患者家族は待機させられるし、医療者も次々と事情聴取されるので、その作業中は大ごとになる」

楠本万里子・日本看護協会常任理事「リスクマネジャーが紛争調停にもあたるのだと思うが、そのために必要なものは何か、それをどのように養成すべきと思うか」

富永「リスクマネジャーがすべてするのは間違っている。紛争が発生してしまったら、メディエーターがいればその方に引き継ぐべき。国立病院機構では仕方なく兼務しているが、リスクマネジャーの本来の仕事は予防活動であり、紛争にかかわっている間、その作業がストップする。それは本来の趣旨から言っておかしい」

山口徹・虎の門病院院長「先ほどデッドロックになったら第三者機関という話だったが、医療機関の見解と第三者機関の見解とが一致すれば良いけれど、一致しなかったらどうするのか」

富永「院内で問題の所在を指摘できないような組織なら、なおさら第三者機関が必要。成熟した組織なら、少なくともシロクロが引っ繰り返るようなことは起きない。その意味でも各医療機関が組織を育てる必要がある」

加藤「情報を対外的に公表しているか」

富永「していない。今後やりたいとは思っているが、ホームページに載せるようなところまでは手が廻らない。機構内のリスクマネジャーでは共有している。」

と、こんなところで参考人質疑はおしまい。4人とも、もっと引き出しはあったはずでいかにも消化不良だが、それなりに見解の相違点はあり、そこは検討会の委員どうし議論を戦わせるべきだし、最終的に誰の意見が採用されるのか今後の見モノである。先ほど私の邪推した落とし所になっていくとしたら、後ろ2人の参考人の意見は全然生かされていないことになる。

続いて事務局から厚生労働省のモデル事業の概要について説明が行われ、前田座長が「全体を総括すると概ね目的を達しているということで今回につながっているということでしょうか」と事務局に尋ねる。

言葉に詰まった事務局に代わり山口委員が「私がモデル事業の中央事務局長なので答える」とマイクを握る。「スタートしてからここにいたるまで、特に最初の1年間はマンパワーが足りず、またどういう風に進めてどういうアウトカムを出すのか試行錯誤で、ようやく基本的な方向は固まったかなと考えている。ようやく固まったので、広く周知して広げたいということで今回につながっていると思う。モデル事業の方法論全てが正しいということではなくて、たとえばモデル事業では解剖が必須になっているけれど、原因はほとんど臨床経過で分かる。解剖はそれを確定させるに過ぎない。むしろ半分くらいは臨床経過の方に問題があるけれど、解剖ではそれが分からないというような事例だった。その意味で臨床評価が重要になってくると思うが、評価を一定の基準でやることが必要。現在は、事例ごと各学会に依頼して領域ごとに評価してもらっているので、評価基準がキッチリ定まっているとは言えない」

ちなみに今回の検討委員とモデル事業の運営委員とでは山口委員のほかに4人の重複がある。加藤・児玉・高本・樋口の各氏であり、樋口委員が「論点を補足する。モデル事業は死亡事例限定で地域限定で必ず解剖を行うことになっていた。このため解剖に遺族の同意が得られず、対象にならなかったものもある。ただし、何のevidenceもなしに事業を拡大するわけにはいかないから、今後のための基礎
データを集めたと思ってもらいたい。その上で見えてきた論点が三つあって、一つ目がモデル事業は現行法が前提になっているので入り口段階で警察とどちらで扱うのか迷うということがあった。今後制度改正をする場合、参考になるかもしれない」と話をつないだ。

随分と回りくどい言い方だが、法改正が必要になるかもしれないということと理解した。続いて「二つ目はマンパワーの話があったが、人員にとっても大変なので、費用がかかる。それがどの程度かかるものなのか、何らかのベースにはなると思う。最後に、そのコストに対してどういうベネフィットがあるのかも論点になる。当事者の満足度に加えて社会的影響も測らなければならない。そのためには、まだ事例数が少なすぎるかもしれないが」

その後で、前回各委員が要求したデータで事務局が調べたものの説明があり、鮎澤委員が「モデル事業だけでなく、現場レベルで行われている事例が既にこれだけある。この経験を是非生かしてほしい」と述べる。まったく、その通りだと思う。

最後には、加藤委員と木下勝之・日本医師会常任理事が、それぞれの提出資料について簡単に説明し、第二回の委員会は終わった。

結論として思うのは、盛り込みすぎということである。厚労省は、これだけ大事な話を、普段と同じようなセレモニー的仕切りで進めて構わないと思っているのだろうか。小松先生ではないが、将来の人間から自分たちのしたことがどう思われるのか少し考えた方が良いと思うし、こんなスピードで出口まで連れて行かれるのは真っ平ゴメンだ。

この傍聴記は、『ロハス・メディカルブログ』<a href=”http://lohasmedical.jphttp://lohasmedical.jp”>http://lohasmedical.jp</a>にも掲
載されています。

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