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臨時 vol 13 「速報・福島県立大野病院事件第四回公判傍聴記(上)」

医療ガバナンス学会 (2007年4月30日 16:07)


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~ 勝負あったか、綾は残ったか(上) ~

(ロハス・メディカル発行人 川口恭)

 

一月に一度の公判に今回も行ってきた。

福島は天気晴朗なれど風強し。法廷内はかなり寒く、そして検察側と弁護側とのやりとりも随分とあっさりしたものになっていた。検察が戦意を喪失したようにも見え、勝負がついたかなと思っていたら、弁護側からボーンヘッドが飛び出して、はてさて。

いつものように、もう少し待つと、詳細な傍聴録が「周産期医療の崩壊を食い止める会サイト」に掲載される。それまでのつなぎとしてご報告する。

過去3回と今回とで色々変わったことがあった。まず傍聴券を求めて並ぶ人数が激減した。全部で78人。傍聴できるのは23人なので、これなら当たっても不思議ではない。しかし今回も当たり前のように外れた。

今後のことを考えれば、適度に倍率が下がるのはありがたいことだ。倍率が下がった理由としては、どう見ても警官という集団がいなくなったこと、マスコミのアルバイト動員も少なくなったことが大きく影響しているように思えた。地元記者の顔ぶれも随分変わった。新顔の記者たちは何だかつまらなそうだ。たぶん4月に福島へ異動して来た面々なのだろう。確かに途中から加わっても面白くはないわな。

裁判所の職員も随分見慣れない顔がいる。法廷に入れば、何と!! そり込みの検事がいない。。。前回公判でH医師に対して諭すような尋問をした女性検事もいない。弁護団は同じ顔ぶれでホッとするのも束の間、裁判長も新しい人。はきはきテキパキという感じの人で、記録を取る立場からするとありがたい。

この日は裁判長交代に伴う手続きの後、まず弁護側書証の説明が行われた。

興味深かったのは、検察側が証拠として出している産科の参考書や教科書の執筆者に対して、検察側の引用意図が正しいか照会の手紙を出し、ことごとく検察側の意図を否定する返事を受け取っていたこと。相手の論拠を完膚なきまで叩き潰す「完封」を狙ったものだ。

これまでだったら、そり込みの検事が「異議」を連発して激しくやりあったのだろうが、ほとんど異議も出ないまま淡々と進む。後から振り返っても、戦意むき出しの彼がいなくなった結果、検察側の闘い方は実に淡泊になった。この局面で交代させたということと併せて考えると、検察側が彼らを傷つけないよう、上手に負けることを志向しているのかなと思わせる。もはや決着はついたということだろうか。

法廷をこれまでにない気だるい空気が包む中、1人目の証人が出廷する。当該帝王切開手術の際に手術室に入って、薬剤の準備や出血量の記録を行っていたというO看護師。現在は県立大野病院の手術室主任看護師らしい。

検察側で尋問をするのは第二回公判でチョンボをした若い検事。非常に丁寧に話そうとしているところは好感が持てるものの、ただ時間だけが過ぎていき、まだるっこしい感じもある。60分の予定のところ1時間15分程度かけて尋問したのだが、出血が多かった客観的事実を主観的にも裏付けた程度で、出血が多くなるきっかけがあったかどうかは記憶がハッキリせず、結局のところ加藤医師の過失を立証するための材料は何も引き出せなかったと思う。
検察側から見て手応えのあるやりとりだったと思われるのは以下のことくらいだろうか。ただし手応えといっても、若干のことでしかない。

検事   手術の間、加藤医師が話していたことで覚えていることはありますか。

O看護師 印象に残っているのは、加藤先生が麻酔医の先生と子宮を取るのかどうか、血液がいつ届くのか、話していたことです。それと加藤先生から、血小板を持ってくるように直接指示を受けたのは覚えています。

検事   血液がいつ届くか、なぜ話していたのでしょう。

O看護師 血液が届くのに合わせて子宮を摘出しようとしていたのだと思います。

検事   医師の応援については話していませんでしたか。

O看護師 双葉厚生病院のK先生(注・第二回公判で証人出廷したK医師)はいつ呼ぶのですか、と麻酔医の先生が尋ねていました。

検事   それに対して加藤医師は何と答えましたか。

O看護師 その時は、大丈夫です、だったか、いいです、だったか、そんな風に答えました。

検事   証人としては、その答えを聞いた時、どのように思いましたか。

O看護師 カンファレンス(注・当日午前中に看護スタッフの間でもった打ち合わせのこと。呼ぶ作業がスムーズに進むよう、あらかじめ電話番号を控えておいたという)の時には、双葉厚生病院の先生をお呼びすることになっていたので、お呼びするのがいつなのか知りたいなと思いました。

検事   どうして知りたいと思ったのですか。

O看護師 出血量が多くなってきたのと、カンファレンスの時には、お呼びするタイミングが明確でなかったので、いつお呼びするのかなと思いました。

検事   大丈夫です、という答えを聞いて、どういう印象を持ちましたか。

O看護師 その時は、先生が出血の原因を分かっていらっしゃって、それで一生懸命対処しようとされているんだろう、じゃあ大丈夫なんだなという風に受け止めました。

検事   手術室の雰囲気はどんな感じでしたか。

O看護師 重い感じがしました。

検事   重いと言いますと。
(この間にメモの記入漏れがあるかもしれません)

O看護師 院長が来られて、外科の先生を呼ぼうかとおっしゃいました。

検事   それに対して加藤医師は何と答えましたか。

O看護師 大丈夫です、と答えました。

検事   大丈夫です、と聞いて証人はどのような印象を持ちましたか。

O看護師 あ、大丈夫なんだと思い込もうとしていたというか、大丈夫なのかなという感じはしました。

検事   大丈夫なんだと思い込もうとしていた、と言いますと。

O看護師 思い込もうというのが、適切な表現かは分かりませんが、きっと先生は分かっていらっしゃるんだろうと考えました。

検事   一方で大丈夫なのかな、とは思ったわけですね。

O看護師 はい。

前回のT助産師と違い、O看護師は歴15年以上のベテランである。そのO看護師も内心不安を覚えるほど修羅場だったことが分かり、応援を呼ぶべきであったという検察側主張の傍証にはなっている。ただし、それが加藤医師の有罪立証へとつながるには、応援を呼べば救命できたことの立証が不可欠であり、その点は、これまで全く立証できていない。

弁護側の反対尋問では、特にこの点を潰してしまおうというものはなかったが、検察側再尋問との関連で少し関係の出てくるやりとりがあった。

弁護側  加藤医師から血小板を頼まれたとき、加藤医師の様子はどんな感じでしたか。

O看護師 特に慌てている感じはしませんでした。落ち着いた口調で、こちらを振り向いて「血小板をお願いします」とおっしゃいました。

弁護側  加藤医師の様子は、どこで変わりましたか。

O看護師 最後まで落ち着いて一生懸命やっていらっしゃいました。最後のVTになった時だけは慌てたようになりましたが、それ以外ずっと落ち着いて処置されていました。

渋いルックスの中年検事による再尋問である。

検事   手術の際、加藤医師は帽子をどのようにかぶりますか。

O看護師 眉毛だけ出るくらいまで、きちんとかぶっていらっしゃいます。

検事   マスクはどうですか。

O看護師 します。目だけが出る感じです。

検事   目しか出ていないのに、なぜ表情が分かるのでしょうか。

O看護師 先生は常日頃落ち着いている方ですし、声が高くなるとか荒々しくなるとか、動作が荒くなるといったことがありませんでしたので。

ここで初登場の男性検事に交代。

検事   どうなんでしょう。手術中、人が亡くなるということに対する危機感がなかったということではないでしょうか。

O看護師 こういう時だからこそ、落ち着いて対処されようとしていると考えました。

検事   しかし危機感は感じられなかったわけですよね。

O看護師 心の中までは分かりません。

あまり思いつきで尋問しない方が良いと思う。「あなたこそ、人1人の運命を左右しようとしていることへの危機感が感じられないですね」と、天ツバで言葉が跳ね返ってくる覚悟が必要だ。

いずれにしても何とも盛り上がらない法廷であった。
(つづく)

なお、この傍聴記は、「ロハス・メディカルブログ」http://lohasmedical.jp にも掲載されております。

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