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臨時vol 38 「アニマルセラピーについて」

医療ガバナンス学会 (2006年12月28日 16:18)


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ペットを飼っているのは、飼い主がその動物が好きだからであることはいうまでもないが、同時に飼い主がペットと触れることによって精神的な安定を得ることもペット愛好の大きな原因とされている。

しかし、動物との触れ合いには上述のような精神的な面への好影響と同時に脈拍数や血圧の安定など、身体的な症状の改善効果もあることが証明されている。さらに動物との触れ合いが認知症や一部の精神障害に対して治療的に働くことが報告されており、動物を利用しての治療、すなわちアニマルセラピーの対象となる疾患の種類が最近増加する傾向にあるようである。
アニマルセラピーの方法としては、家庭でペットを飼う、ボランティアが動物を連れて施設を訪れる、老人ホーム、小児病院、精神科病棟で動物を飼う、乗馬療法やイルカ療法など、特定の施設で動物と触れ合うといった様々な方法があるが、その中で最も手軽な方法はペットとして動物を飼うことで、そのペットの中で犬や猫が最も一般的な動物であることは周知のとおりである。犬や猫は触れ合いやすさ、感情疎通度、動物自身の楽しさなどの点でほかの動物よりも優れているが、飼い主に運動を促すという点では犬のほうが猫よりもはるかに優れている。休日の朝など犬を散歩させている方々にお会いする機会が多いが、犬を連れての散歩と飼い主の運動量についての報告が最近あったのでご紹介したい※。研究を行ったのはアメリカの研究者たちで、犬を連れて散歩をする人たちと、犬を連れないで散歩をしている人たちとを対象にして、両群の間で散歩の質と量を比較している。対象となっているのは2,533人の歩行障害のない健康な71~82歳の高齢者で、3年間にわたって調べている。2,533人の中で犬を所有しているのは394人であったが、その394人の中で1週間に3回以上犬を連れて散歩しているのは142人(36%)であった。これらの人たちの散歩の状況を調べた結果、犬を連れて散歩している高齢者は犬を連れていない高齢者に比べて1週間に150分以上散歩する割合が優位に高く、また、より速い速度で散歩をしていたとのことである。この状態はその後も続き、3年後に再度調査した時も犬を連れて散歩をしている高齢者のほうが週に150分以上散歩している割合が2倍近く多かったと報告されている。
散歩が最も手軽で安価な運動であることはだれもが認めるところであるが、犬はその散歩の促進剤としての役割を果たしていることになる。また、犬を連れて散歩すると、その途中で犬を連れている人々に会い、その出会いをきっかけにして交流が始まる場合が少なくない。高齢者にとって社会との接点を広げる機会をつくることになり、その点も犬の利点の一つとされている。

※R.J.Thorpe, et al. J.Amer.Geriatric.Soc. 54:1419, 2006

 
■著者紹介
高久 史麿(たかく ふみまろ)
自治医科大学内科教授、東京大学医学部第三内科教授、国立病院医療センター院長、国立国際医療センター総長を歴任後、平成7年5月東京大学名誉教授、平成8年4月から現職(自治医科大学 学長、日本医学会 会長)

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