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vol 24 「企業のマネジメント現場の実態」

医療ガバナンス学会 (2006年12月20日 16:18)


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インテグラス株式会社代表取締役社長
http://www.integrus.co.jp
諸橋 清貴

皆さん

はじめまして。私はインテグラスという会社を経営しております諸橋と申します。弊社は主に企業の管理職を対象としたマネジメント研修、コーチング研修を事業の柱としています。これから月に一回程度になると思いますが、約1年間にわたり私と弊社創業メンバーである渡部、木村の3人で組織における人に関わる問題やコミュニケーションのスキルであるコーチング等を題材としてこのメーリングリストに執筆させていただきことになりました。第一回目は諸橋が担当させていただきます。どうぞよろしくお願いいたします。
企業のマネジメント現場の実態

私は現在、インテグラス株式会社という主に管理職を対象としたマネジメント教育、コーチング研修の会社を経営している。事業を始めるにあたり他にもいくつかの選択肢はあった。その中で人材教育に関するビジネスを選択したのは、企業の中で、本来持っている能力が活かさせずに人材が見殺しになっている現場を見てきたこと、また何人かのうつ、人格障害などの後輩や部下と接してきた経験から問題意識が芽生えたこともあるが、自分自身が組織の中で潰れそうになった原体験によるところも大きい。
「お前いてもいなくても同じだな。」
約20年前、当時富士ゼロックスの新人営業マンであった私が配属先の上司にいわれた言葉である。メーカーの宣伝マンを希望していた私はロサンジェルスオリンピック直前の時期、カールルイスの走り幅跳びのテレビCMのイメージの良さだけに引かれて入社した会社であった。今にして思うと非常にはずかしいが、半年間の研修を終えトレーナーには「宣伝部を希望します。」といってみたもののそんな希望が通るはずもなく、配属されたのは東京の下町地区を担当している営業拠点であった。

非常にヒエラルキーの強い職場であり、営業の実績を上げないと人としてまともな扱いはされないことは研修中から情報として持っていたので、上野アメ横の周辺を、来る日も来る日も原付バイクで新規の顧客開拓のため必死に駆けずり回った。ただ結果は思うようにはいかず、2か月経っても売り上げゼロといった惨憺たる結果に非常に落ち込んでいた。そんな時期に言われた言葉が冒頭の言葉である。存在自体の否定である。実績が出せない理由を聞いてくれることもなく、約20年間のサラリーマン時代を通じて一番辛い瞬間であった。周りから見ても相当に悲壮感が漂っていたとように思う。この先どのようにこの会社の中で生きていけばいいのか方向もわからず、目に前は真っ暗になった。
心理学で「ストローク」という考え方がある。ストロークとは、ゴルフやテニスでは「打つ」ということあるが、心理学では人の心に与えるインパクトのことをいう。人は、誉められたとき、満足ゆく仕事ができたとき、家族に喜びごとがあったような場合にプラスのストロークを得る。一方、叱られたり、仕事に失敗したりした場合には、叱られたり、怒られるといったマイナスのストロークを得る。マイナスのストロークよりもさらに辛いのは、心理学でいうディスカウント、いわゆる無視、存在の否定である。いじめ問題が最近よく取り上げるが、とかく子供は残酷なものなので、相手が一番いやがる無視するという行動をいじめの対
象に対して無意識に行うものである。

新人時代、私が上司から受けたものはまさにディスカウントそのものであった。当時の上司は営業の成果を上げることには関心があったが、部下育成には興味が薄かったように思う。その証拠に3か月目に諸先輩方を上回る営業成績を上げてからというもの、私に対する扱いがまるで手のひらを返したようであった。一方成績の上がらない先輩の中には、なかばノイローゼになりかかっていた人も少なくなかった。ただそんな上司に対して今はとても感謝している。辛い経験が人に対する洞察力を育て、今会社を経営するうえでも非常に役に立っている。また反面教師としてそれ以上の人に多くは出会っていないし、学生気分がいっぺんに吹き飛び、その後のサラリーマン生活は、最初が辛かった分非常に楽に感じられた。先日、産業再生機構のCOOである冨山和彦氏とお会いする機会があったが、氏の言葉をそのままお借りすると「世の中良い上司なんてそんなに多くない。運悪くひどい上司にめぐり合った新人は、高地トレーニングをするマラソンランナーのように空気の薄い中で訓練を積んでいると思えばいい。そのほうが平地にいる時には楽に感じられるから。」といっていたが、私自身の体験からも実に的の得た例えである。
話の視点は少し変わるが、組織の中で人材が育ちにくくなっている。あるいは折角採用した人材がすぐに会社を辞めてしまうという声をよく聞く。原因は様々なことが考えられるが、ひとつの理由は上司のコミュニケーションのとり方に起因する。大手企業の場合、いわゆる中間管理職は40歳前後から50歳代の世代である。これらの世代はおおざっぱなく括りをすると、多くの人が年功序列、終身雇用を前提としたいわゆる会社人間であり、若い時には上司から熱い指示、気合を入れられて育ってきた世代でもある。上からの指示には逆らうことをせず、忠実に使命感を持ち仕事をやってきた人たちである。結果として戦後の貧しさは遠い昔話となり、多くの人にとって生活水準が上がった。上司の言うとおりにすれば、自身の幸せも同時に得られた世代である。
ところが今の若い世代は生まれたときから物質的なものに恵まれてきたために、マズローの欲求5段階説による生理的欲求、安全欲求は満たされている人たちが多数を占め、自身の自己実現に価値を置いている人の割合が高い。中には自分の親がリストラにあったのを間近で見た経験を持つものもおり、会社に忠誠心を尽くすことに価値を見出せないものもいる。このように育ってきた時代、背景が違うがゆえに、上司世代と若者世代に価値観の大きなギャップが存在し、その価値観のギャップを互いに確認し、分かり合うことができないためにコミュニケーションが成立しないということがいえるのではないか。企業の管理職は、自身のマネジメントスタイルを見直す時期に来ている。冒頭に述べた元上司の例は極端にしても、従来の管理職の多くは文字通り部下を管理する、あるいは服従させるといった上下序列的なマネジメントを行ってきた。しかし、今後は管理をするという意識だけでなく、部下との信頼関係を築くことに重きを置く、また服従させる意識よりもコーチングの質問手法などを上手に使い、部下の自律心を促す、自己実現を支援するといった質問型コーチングマネジメントに移行する必要がある。そのほうが部下は生き生きと働くことができ、結果として組織としても強くなれる。ヒエラルキーの強い組織で育った管理職は、自身のマネジメントのスタイルを切り替えることは簡単ではないが、コーチングの基本である傾聴することだけでも実践してみてほしいと研修を通じて提案している。
人は自分の話をしっかり聞いてもらうと安心する。安心できると落ち着いてしっかり考えられるようになる。しっかり考えられるから自分の本来の能力が使えるようになる。受け入れられているという安心感を持てるために、責任感も芽生え、自ら考え、決断し、行動するといった時代が求める自律型人材を育てるのは管理職の重要な役割であるはずであるのだから。
著者ご略歴
1984年中央大学法学部法律学科卒業
1984年富士ゼロックス(株)入社
2005年(株)富士ゼロックス総合教育研究所入社
2005年法政大学大学院社会科学研究科(MBA)卒業
2006年インテグラス株式会社を設立し、同社代表取締役社長就任。

 

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