医療ガバナンス学会 (2006年12月13日 16:20)
北海道大学大学院医学研究科
社会医学専攻
社会医療管理学講座
医療システム学分野
http://www.med.hokudai.ac.jp/~i_sys-w/
助手・医師 中 村 利 仁
皆さんにお詫び申し上げなければならない。このメルマがをお読みの皆さんと、名誉ある産科医の皆さんの両方に。
申し訳ありませんでした。
具体的に何人の医師が産婦人科を離れたのかという数字を確認するのは容易ではない。厚生労働省が2年に一度行っている医師・歯科医師・薬剤師調査(三師調査)では、統計表は公開されているが、個別の医師が記入した調査票のデータ(個票)は公開されていないし、使用に当たっての手続きは厳しく難しい。
そこで推計を行うこととした。
手許にあるのは平成10年から16年までの2年ごと4回の医師調査である。平成10年度の5歳階級コホートが平成16年にどうなっているかが知りたいのだが、平成16年の一つ上の5歳階級ではコホートと1歳分のズレが生じている。
このズレは、上下階級との間で各々平均を取り、これを差し引きすることとした。
結果を御覧頂きたい。
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ここで明らかなように、まず男性の場合、平成10年に29歳以下、30歳代~40歳代前半であった産科・婦人科・産婦人科のうち、他診療科に転科したのはごくわずかであったと推計できる。むしろ平成10年の29歳以下階級では、6年間にわずかながら新規参入があった可能性が高い。
若い医師の公共心を云々されることが多いが、根拠がない。むしろ日本の若い医師の心意気は賞賛に値するのではないか。
因みに、平成16年の各年齢階級コホートを、お隣の一つ上の平成10年の年齢階級コホートと比べていただければ、診療所開業の件数は、これまでと同じようなベースで、年齢相応であったことも分かる。
平成10年から16年にかけて30歳代~40歳代前半の医師が急減したのは、あまりにも新規参入が急激に落ち込んでいた事による影響が大きい。
次いで女性医師の場合、一般に離職率が問題である。ところが、今回の推計では、実際に問題になるほどの離職は発生していない。もちろん、新規参入の増加が著しい。しかも、一般の女性労働者に見られるようないわゆるM字カーブは見られない。
ただ、診療所への移動の割合がやや大きくなってきているようにも見受けられる。
むしろ問題なのは、現在の産科医不足が、平成10年に30歳~34歳の年齢階級にいた産科医達が入局した時期である、15年前に根を持っていることにある。
そして、結果が出るのはこれからであり、妊産婦死亡、新生児死亡率が上昇しはじめるまで、おそらくあまり時間の余裕がないであろうことでもある。
いつだって、いまここにある危機は過去に原因があり、結果が出るのは将来なのだから。