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Vol.108 教育は復興の要

医療ガバナンス学会 (2015年6月3日 06:00)


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※この文章は『福島民報』2015年4月16日「民報サロン」欄に掲載された寄稿エッセイを、許可を得て転載したものです。

一般社団法人ふくしま学びのネットワーク事務局長
前川直哉

2015年6月3日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp


神戸から福島に転居し、非営利団体ふくしま学びのネットワークを設立して一年がたちました。おかげさまで県内外のたくさんの方から力強いご声援を頂き、県内の高校生を対象とする無料セミナーや合宿など、多くの活動を実現できています。

福島の復興を考える際、なぜ教育が重要なのか。理由を尋ねられた時、私は次の三つをお話しています。

一つは、地域の復興には地元での人材育成が不可欠だということ。これはいまさら強調するまでもないでしょう。これからの福島を担う次世代の力なくして、復興はあり得ません。

二つ目の理由は、私自身が阪神大震災後に検証した、あるデータがもとになっています。震災が起きる前の一九九〇年、私が生まれ育った尼崎市は人口約五十万人の工業都市で、隣の西宮市は四十三万人弱。尼崎の方が七万人ほど多いという状況でした。阪神大震災の直後、被害がより大きかった西宮市は一時的な転出が相次ぎ、三十九万人まで人口を減らします。尼崎市も被害はあったものの約四十九万人と、大きな人口流出はありませんでした。

ところが、です。阪神大震災から二十年を迎えた現在、西宮市の人口はV字回復を成し遂げ、四十八万七千人。震災直後から十万人近い人口増となっています。一方、尼崎市はじわりじわりと人口を減らし、四十四万六千人。西宮市に逆転を許し、四万人以上も差をつけられてしまいました。

西宮市と尼崎市。川を一本隔てて東西に並ぶ阪神間二つの市の明暗はどこで分かれたのか。さまざまな要因はありますが、私は教育環境の違いが大きかったと考えています。

震災前から西宮は、教育熱心な街として知られていました。関西学院大や神戸女学院大、兵庫医科大など有名な大学が多くあり、全国的に名を知られる私立の中高一貫校もあります。公立高校からの大学進学率にも大きな差があり、西宮市の67・8%と比べ尼崎市は44・0%と、大差をつけられています(二〇〇一年度の数値)。震災後、新たにファミリーが阪神間に越してくる際、尼崎ではなく西宮を選ぶ人が多かったのは、こうした教育環境の差も大きかったことでしょう。

私が、復興に教育が不可欠だと考える二つ目の理由がここにあります。どんなに雇用を創出しても、教育環境の良いところにしか、家族連れは越してこないのではないか。そのためにも、福島ならではの、教育の強みの創造が必要だと、私は考えています。

そして、最後の理由は単純なことです。私たち大人世代が、次世代の子どもたちにできることは、「今ある難題を少しでも解決しておくこと」そして「どうしても積み残してしまう課題に立ち向かえる力を、子どもたちに付けてもらうこと」の二つしかないからです。東日本大震災や東京電力福島第一原発事故からの復興はもちろん、財政再建、格差や貧困、沖縄の基地問題など、この国に数多くある課題を少しでも前に進めつつ、残る難問に立ち向かう次世代を育てる。それが、私たち大人が果たさねばならない大きな責任なのです。
※「ふくしま学びのネットワーク」は非営利の団体で、活動の趣旨にご賛同いただける皆様からの会費・寄付により運営されています。団体の活動や賛助会員・寄付のお申込方法については、下記の公式サイトをご覧ください。

http://www.fks-manabi.net/

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