●届かなかった私たちの要望
医薬品の用法の厳格化を求めるなどの第一次提言を出した厚労省の『薬害肝炎事件の
検証及び再発防止のための医薬品行政のあり方検討委員会(以下、検討会)』に対して、
2009年7月10日、ドラッグ・ラグやワクチン・ギャップに悩む6つの患者団体が連名で要望
書を提出しました。
検討会の第一次提言において、医薬品の適応外使用などに対して記載が薬害被害者の
視点であり、偏りを感じたため、私たちのようにドラッグ・ラグやワクチン・ギャップに苦しんで
いる患者も含めた広い立場で適応外使用を考えてほしいと願ってのものでした。
日本CRO協会が検討会に対して「お願い」とした文書を提出したのが5月21日、同月27
日の検討会では資料として同文書が配布されていましたので、私たちの要望も、7月29日
に開催される第15回検討会で配布・検討されることを期待してのものでした。
残念ながら、私たちの期待とは反して大臣官房に要望書をお渡ししたにもかかわらず、
検討会では配布されることがなかったと、要望書のとりまとめをしてくださった「細菌性髄膜
炎から子どもたちを守る会」の高畑事務局長から伺いました。
しかし、この日の検討会で、寺野彰座長(獨協医科大学学長)から「インターネットなどを見
ると、ラグ問題で患者団体から、この検討会への異論に近いものが出されている。これも私
たちはもちろん検討しなければならないものなので、秋の陣でヒアリングを含めてやってい
きたい」という意見が出されたそうです。
この発言を見ると、私たちの要望書が座長の手元にすら渡っていなかったことが伺えます
が、インターネットの情報にも気を配り、私たちの声を「検討しなければならないもの」として扱っ
てくださった座長の言葉から、さまざまな声にアンテナを張ってらっしゃることが伺えました。
座長がこの検討会が将来の医薬品行政、医療環境に与える影響力の大きさをご存じであり、
責任を持って取り組まれていることが伝わり素晴らしいと感じましたし、感謝しました。
●意見聴取に否定的な委員も
しかし、残念ながら私たちラグ被害者たちからの意見聴取に否定的な見解を示した委員も
おられました。水口真寿美委員(薬害肝炎弁護団)は「ヒアリングばかりしていても仕方ない。
もっと議論の時間がほしい。ヒアリングするのでも、第一次提言に対してパブコメを出した人
たちから意見を聴くべきでないか。その人たちが厚生労働省に対して厳しい意見を持っている
のだから」という意見。重ねて「もっと早くスケジュールを示してほしい。ヒアリングに呼ぶのも、
この人がよいという意見を言いたい」と述べられたそうです。
この発言は一見、水口委員が「話を聞く」姿勢に見えますし、薬害被害者の方の思いを汲
んで早く進めていきたいという思いも感じます。しかし、先に記載したように、この検討会は今
後の医薬品行政、薬害だけでなく多く患者、患者予備軍(全国民)の未来に大きな影響を与
えるものです。
ヒアリングに呼ぶ人をパブコメに限定、ましてや委員が選ぶのであれば、それは、「薬害被
害者にとって都合のいい人」を選んでしまうのではないでしょうか。
●要望を出した背景
私たち「卵巣がん体験者の会 スマイリー」には,卵巣がん患者だけでなく,卵管がんや
腹膜がんの患者・家族が参加しています。卵管がんや腹膜がんは,病理学的に進行卵巣
漿液性腺がんに類似していることから,しばしば上皮性卵巣がんと同一の範疇として取り扱
われます。しかし、たとえば標準治療として選択されるタキソールの添付文書を見ると,効能・
効果の欄には「卵巣癌,非小細胞肺癌,乳癌,胃癌,子宮体癌」と記載されており,卵管が
んや腹膜がんに関してはいわゆる「適応外」で使用されているのが現状です。併用するカル
ボプラチンなどの効能・効果も同様であり「適応外」です。
2007年4月,がん対策基本法が施行されました。基本法では,がん医療の均てん化が求
められており,がん診療連携拠点病院なども整備されてきていますが,まだまだ一般への
認知度は低く,拠点病院などが存在することを知らない患者も少なくありません。
「第一次提言」には、「適応外使用に関しては個々の医師の判断のみにより実施されるの
ではなく、原則として医療機関の倫理審査委員会等への報告と定期的なチェックを受けるべ
き」という旨の提言が盛り込まれていますが、患者は,倫理審査委員会の存在や役割に関
する基本的な知識を持っているわけではありません。患者は「倫理審査委員会等を持つ医
療機関」を選択し,アクセスするための情報を持っているわけではないのです。第一次提言
で示された内容が具体化するとすれば,患者にとってはさらに情報を把握しづらくなり,混乱
が起きることが予想されます。がん診療連携拠点病院すら情報が広くいきわたっていない
現状でのこの提言は”患者の医薬品へのアクセスを妨げる高いハードルになりかねない”
と感じました。
また,安全性と有効性が認められる薬剤を早期承認する旨も第一次提言に記載されてい
ますが、がん領域では,効能・効果の追加はなかなか進んでいません。一部の薬剤では特
許切れも起きており,適応拡大に関しては深刻な薬剤もあります。
社会保険診療報酬支払基金が2007年9月,適応外の薬剤47品目を保険償還しました
が,その後,学会や患者会などから追加の要望がなされているにもかかわらず,保険償還
される薬剤の追加は行われていません。
そのような日本の現状のなかで示された「第一次提言」は,卵管がんや腹膜がんのように
適用外使用によりいのちを繋いでいる患者にとっては,”適応外使用禁止”といわれている
のも同然です。つまり「がんになっても抗がん剤治療するな」ということと同じであり、「いのち」
を訴える薬害被害者の方たちが、私たちラグ被害者の「いのち」を危機に追いやる可能性を
知ってほしいのです。
●薬害肝炎被害者の未来のためにも慎重に考えてほしい
薬害肝炎で、もしインターフェロン治療(ペグイ