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臨時 vol 234 「簡単に「発熱外来」と言うけれど・・・」

医療ガバナンス学会 (2009年9月9日 06:23)


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         ー理想と現実の狭間で困っていることー
                  長尾クリニック(尼崎市) 長尾和宏
 5月の兵庫・大阪の新型インフルエンザ騒動の時、当クリニックでは入口横に
テントを張り、「風邪外来」と称して風邪症状の患者さんをすべて屋外で診療し
ました。8月以降の第2波を迎え、手挙げをした開業医において「時間的ないし
空間的に動線を分離して」インフルエンザ診療を行うことになっていますが、多
くの問題点を孕んでいます。
1、発熱や臨床症状で見分けるのは現実には困難
 38度以上の発熱患者さんを発熱外来で診るそうですが、実際に36度台の新
型インフルエンザ患者さんもいすし、臨床症状で風邪とインフルエンザを見分け
るのは実際には意外と困難です。どこの診療所でも体温のチェック網を突破して、
一般患者さんにまぎれて診察室に入ってしまう患者さんがいるのではないでしょ
うか。当然病期によって体温は変化するので、ある一点の体温だけでトリアージ
することには限界があります。その観点から当院では「風邪症状を有する患者さ
ん全員」を屋外ないし別室で問診し、医師が許可したもののみを一般診察室に入
れるようにしています。
2、「動線の分離」とは絵にかいた餅?
  多くの医院では「時間的分離」を選択し、昼休みに予約制で診察しています。
しかし同線の分離は現実には難しいと思います。また分離を知らない患者さんが
通常診療時間内に紛れ込むことは充分ありえます。また患者さん間を2m以上離
すのも現実には困難です。ビル診などでは入口の分離自体も難しく、お役所的通
達だと思います。さらに、医療機関内での動線分離ができても、院外薬局での動
線分離も同時に行わないとまさに片手落ちです。当院では調剤薬局の待ち合いも
屋外として、「発熱薬局」を提唱してきました。
3、簡易検査の功罪
 簡易検査陰性でもPCR陽性の患者さんが少なからずおられ、検査キットの入
手困難という現状も相まって簡易検査無用論も議論されています。一方、疑わし
きもの全例をPCR検査というわけにもいきません。また、A医院で簡易検査陰
性であった人が、翌日のB医院で陽性であることはよくあることで、無用な医療
不信や混乱を引き起こす可能性があります。保険診療では簡易検査は原則1回の
みですが、特例を定め緩和するべきです。簡易検査陽性となるまでのタイムラグ
があること、簡易検査陰性であっても臨床診断のみでタミフル投与もあり得るこ
と、一方48時間以上経過すれば検査やタイフル投与の臨床的意義は低いことな
ど、簡易検査の意義と限界を政府は国民に分かり易く啓発すべきです。また多発
地域によっては検査キットが足りないこともローカルニュースなどで広報し無用
な混乱を避けるべきです。
4、予防投与に関する啓発活動
 インフルエンザ患者さんの周囲には必ず濃厚接触者が存在します。リスクを有
する濃厚接触者への予投与はエビデンスは充分でないうえに、健康保険が適応さ
れません。臨床現場ではこの説明に多くの労力を要し、混乱を招いています。予
防投与の適応、意義、実際の方法、医療費等をマスコミを通じて国民に早急に啓
発すべきです。
5、在宅医療や公益活動への多大な支障への理解
 国は、強力な在宅医療への誘導政策を行ってきました。全国1万件にもおよぶ
在宅療養支援診療所の多くは、昼休みに往診や訪問診療を行うミックス型診療所
です。また届けを出さずに昼休みを往診・在宅医療に当てている診療所も多くあ
ります。そもそも昼休みとは、医師会の会議や公務、勉強会、学校医や産業医出
務など極めて活発な活動が行われる時間帯でもあります。うまく昼の時間をやり
くりしながら頑張っている医師がほとんどです。その時間帯に手間がかかるイン
フルエンザ診療をするとなると、在宅医療のみならず多くの医師会を中心とした
公益活動に多大な支障が出ることは必至です。このような現実を全く想定してい
ない乱暴な丸投げ政策だと思います。
6、一刻も早い第一戦現場への感染症対策費の投入を
 新型インフルエンザ対策を国策と位置づけるなら、マスク、消毒薬、防具など
の消耗品を一刻も早く公費で協力医療機関に投入するべきです。感染症対策には
当然コストがかかりますが、診療報酬上の配慮はなく各医療機関が自前で行って
います。過酷な医療費削減政策が続く中、地道に地域貢献している医療機関は今
こそ国を挙げて支援すべきです。医療従事者は身を呈して診療しています。私た
ちは常に濃厚接触者であり、家に帰れば当たり前ですが家族もいます。しかし病
気になっても何の保証もありません。にもかかわらず高い職業意識を持って現場
で奮闘している医療従事者に、国として相応の予算を早急に投下すべきです。時
期を失うと現場スタッフの士気を失う結果になると危惧します。
 10月以降は、以上に加えて「季節性インフルエンザ」と「新型インフルエン
ザ」の予防接種という外来業務も加わり、大混乱が予想されます。早急に上記の
問題点に対する国の具体行動を期待します。
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