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臨時 vol 235 「『新型インフルエンザ対策』が爆発的流行を引き起こす」

医療ガバナンス学会 (2009年9月9日 08:25)


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        有限会社T&Jメディカル・ソリューションズ代表取締役
                  木村  知
 夏休みが終わった。
 厚労省は夏休みが終わる一週間ほど前に再び改正省令を出し、「新型インフルエンザ」の
感染症法に基づく医師の届け出を不要とした。
 これでようやく「新型インフルエンザ」はわれわれ現場の臨床医にとって「いつものインフルエ
ンザ」になった。
 正直そう思いたかったが、夏休みを終え、むしろ現場の状況はますます深刻になってきてい
るということを、先日痛感させられる事態に遭遇してしまった。
 そして、このような現状では「新型インフルエンザ」のいっそうの感染拡大は、もはや避けら
れないと考え、今回緊急記事として現場の実情を報告させていただくことにした。
 夏休みも明けて2~3日経ったある日、いつもの診療所に行くと、そこは真冬のピーク時とは
いかないまでも、いつものこのシーズンとは明らかに違う混雑となっていた。
 特に午前中は、1時間あたり約40人の受診者がおり、その約半数は「カゼ症状」や「発熱」
といった「急性の患者さん」であった。もちろんいわゆる「インフルエンザ様症状」を呈する患者
さんも若干名おられ、1時間に1~2人ペースで「A型陽性」患者さんが発生したのであるが、
これはこの診療所の真冬の状況からすれば、まだほんの少数であり、これら「急性の患者さん
」のほとんどは、むしろ軽微なカゼ症状での受診者であった。
 小児など、もともとコンビニ受診をする患者さんは多いのだが、あまりに例年の雰囲気と違うた
め、「37度の発熱のみ」で小学生を連れてきたある母親に、今回の受診理由を問うてみた。
すると、まさに耳を疑う意外な教育現場の現状を知ることになったのである。
 「毎朝登校前に検温をして、体温37度以上なら学校を休んですぐ病院に行き、新型インフル
エンザでないことを確認してもらってから登校するように」
 その子の通う小学校では、このように指導されているのだという。
 また昼過ぎにやって来た、いかにも元気そうな別の中学生は、「授業中咳をしていたら、保健
室に行くようにいわれてしまい、そこで検温をしたところ37度と出たのですぐ早退させられ、そ
の足でここに来ました。でも1時間以上も待って疲れちゃいましたよ」と当の本人も、なぜ元気
なのにここにいるのか腑に落ちない様子であった。
 そのほか、授業中の急な発熱の小中学生や、仕事中の咳を指摘されてあわてて退社してき
た一流企業のサラリーマンなど、受診者の多くは典型的なインフルエンザ様症状を呈していな
いか、もしくは症状発現ごく早期の状態であった。
 そこで、近隣3市の教育委員会に問い合わせをしてみた。教育現場にこのような対応を指示
しているのは、国なのか自治体なのか保健所なのか?
 聞くと、そんな通達など一切していないと、どの教育委員会も口を揃えた。毎朝の検温の実
施は指導しているが、体温の数値で強制受診させることなど、一切していないとのことだった。
おそらく教育現場の末端で、自主的に行われている対策でしょう、との見解であった。
 このような教育現場での「新型インフルエンザ対策」を妥当と判断する人はいったいどのくら
いいるのであろうか?
 厚労省は、各医療機関に「新型インフルエンザ対策」として引き続き院内感染の防止に努める
ように、との通達を出している。医師会も待合室を分離したり、発熱者の受診時間を別枠に設
けたりなど、時間的空間的隔離をなるべく行うように、各医療機関に呼びかけている。
 しかし、ほとんど発熱者が来院しないような診療科ならまだしも、小児科や内科などを標榜し
ている多くの診療所では、今後本格的なシーズンが到来すれば外来患者さんの半数以上
の主訴は「発熱」や「カゼ症状」になるであろう。
 空間的隔離として、これらの多数の人たちを別室に隔離することは物理的に不可能であるし、
待合室でのついたて(仕切り)や全員のマスク着用などは、少し考えれば院内感染予防策とい
うより気休めに近いものであることがわかるであろう。また、診察時間が来るまで自宅待機させ、
携帯メールで呼び出すなどというシステムを導入している施設もあるかと思うが、すべての患
者さんが扱えるシステムとはとても言えない。
 時間的隔離として「発熱外来時間枠」を設けたとしても、来院する発熱者がすべてインフル
エンザ感染者であるわけがないし、そもそも患者さんは素人である。インフルエンザの症状とは
まったく異なるのに「発熱外来時間枠」に来院したり、逆に典型的なインフルエンザ症状である
のに、無予告で「時間枠外」に来院することも十分あり得ることだ。さらに発症前の潜伏期の患
者さんなども考慮すると、同一診療所内で「感染者」と「非感染者」を事前に分別して、100%
接触させないなど、どう考えても不可能なのである。
 これは、空港検疫が無益であったこととよく似ている。機内でも空港でも待合室でも、空中
を漂うウイルスやそれを何食わぬ顔で保持している人たちをそれらと一切無関係な人から確
実に隔離することなど不可能なのである。
 つまり一般的な医療機関の待合室での院内感染を防ぐことは、不可能と考えるべきである。
 しかし、現場の医師でこのようなことを言う人はあまりいない。
 「新型」を報告した、神戸の先生が、その後とんでもない風評被害を受けられたという事実に
もあるように、世間は「院内感染」という言葉にかなり神経質になっている。「新型インフルエ
ンザの院内感染」となれば、なおさらだ。下手をすると新聞や週刊誌に自分の診療所名が載っ
てしまうかもしれない。「うちの待合室にはインフルエンザの患者さんがたくさんいるので、危険
です」などと言う医師などいるはずがない。何も対策を講じないというのは論外、実際無理と思
っていても、精一杯院内感染防止策を講じているという態度を示しておかねばならないと考え
ている医師がほとんどであろう。しかし一方で、「院内感染」は100%防止できないということを、
患者さんに十分示すということも医師の責任とし
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