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Vol.185 日本の医療にソシオエステティックを ~新しいカタチのエステティックを日本に普及させるために~

医療ガバナンス学会 (2015年9月15日 06:00)


ソシオエステティシャン 看護師
高塚静恵

2015年9月15日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp


あなたはソシオエステティックという言葉をご存知だろうか?
それは、人道的・福祉的観点から精神的・肉体的・社会的な困難を抱えている方に対し、医療や福祉の知識に基づいて行う、総合的なエステティックである。ソシオエステティックの目的は「QOLの向上」であり、「美」の追求や肌機能の改善、リラクゼーションの提供などは手段の一つでしかない。心の安らぎを回復する、自信を取り戻す、不安を軽減する、笑顔を取り戻す、人生に対しての希望を取り戻すことが目標である。

ソシオエステティックはフランスで一人の女性の熱い思いから始まった。フランス・トゥールにおいてエステティシャンであったルネ・ルジエール女史は、エステティックが決して表面だけを美しくするものではなく、心の奥まで入り込み、悲しみや悩みから救うことができると経験を通してつかみ取った。ルジエール女史の思いは日本にも届き、現在日本では65名のソシオエステティシャンが誕生している。

10年前、当時看護師として大学病院の耳鼻咽喉科病棟に勤務していた私は、手術や化学療法、放射線治療によるボディイメージの変化に戸惑う患者を目の当たりにし、自分に何ができるのかと模索していた。その時に知ったフランスでのソシオエステティシャンの活動をきっかけにフランスへ渡り、エステティシャンとなった。その後、今後ソシオエステティシャンの活躍の場になるであろうホスピスにおいて緩和ケアに従事し、現在はデイサービスにおいて看護師として勤務しながら、ソシオエステティシャンとしての活動を行っている。
ソシオエステティックでは実際にどんなことをするのだろう、と思われた方もいるかもしれない。ソシオエステティシャンは、フェイシャルマッサージ、メイクアップ、ネイル、手や足のマッサージを行ったり、ワークショップを開催して社会復帰の手助けをするなど、ソシオエステティックを受けられる方の身体・心理状態に十分配慮しながら美しさを取り戻すサポートをしている。

デイサービスでのソシオエステティックの日。この日を待ちわびていた利用者が私に声をかけてくれる。
「明日お客様が来るから爪を綺麗にしてもらいたい」「90歳の私でも、お化粧して大丈夫?」「今日も足のマッサージをお願いね。足が軽くなって妻も私もとても喜んでいるんだ」と、女性だけでなく男性からのリクエストも多く、それぞれのご要望に合った施術を行っている。施術はすべて無料であり、利用者の負担はない。ある女性は、骨折をきっかけに家から全く出なくなってしまったが、ソシオエステティシャンの施術を毎回受けることで、毎日が楽しいと口にし、家族を驚かせた。女性としていつまでも美しくありたいという思いが、この女性の行動変容につながったのである。

「こんなに優しく触れられたのは初めてです」、という感想をいただくこともある。エステの施術だけでなく、喪失や悲嘆、孤独など、言葉には出せない思いにそっと寄り添うこともソシオエステティシャンの重要な役割である。
緩和ケア病棟では、患者と同様に家族にも施術をさせていただいた。胃癌末期のある男性は、毎週ソシオエステティックを楽しみにされていた。自分が施術を受けることはもちろん、傍らで妻がマッサージを受ける姿を見てとても喜んでくださった。悲嘆の中にある家族にとって、ソシオエステティックは一時の癒しとなり、グリーフケアにもつながる。また患者にとっても、愛する家族が大切にされることは、安らかな最期を迎えるために非常に重要なことではないかと感じた。メイクアップやマッサージ、マニキュアといったソシオエステティックの施術が、多くの方の「生きる、生き抜く」を支え、人生に対しての希望を取り戻す手段として活用できるのではないかと思う。

ソシオエステティシャンは医療(または介護)チームの一員として活動すること、そしてソシオエステティックの施術は無料で受けることができ、患者様に負担はないが、ソシオエステティシャンはボランティアとしてではなく、病院、施設、政府の機関等から給与が支給されることが大きな特徴である。フランスにおいてはソシオエステティシャンの活動を企業がサポートし、ソシオエステティックの発展に大きく貢献しているが、日本で始まったばかりのこの活動は、どのように日本で普及していくのだろうか。日本におけるソシオエステティシャンの活動はまだまだ限られたものであり、その可能性は未知数である。普及の鍵は、患者からの声だろうと私は考える。ソシオエステティックという目ではその効果が確認しづらいアプローチが、患者の心を磨き、QOLの向上につながり、「私たちにもこういうケアが必要なんだよ」という声があがって初めて普及していくのではないだろうか?
今後病院だけでなく介護の現場、在宅ケアの現場で、日本でもソシオエステティックが根付き、必要とされるすべての方が施術を受けることができるように、私は努力を続けていきたい。

<プロフィール>
高塚静恵
富山県出身。
富山医科薬科大学卒業。看護師。ソシオエステティシャン。
大学病院勤務後、2005年渡仏。フランスでエステティシャン国家資格を取得。
帰国後ピースハウス病院で緩和ケアに従事。現在はソシオエステティシャンと看護師の両方を続けながら、ソシオエステティックの普及に努めている。

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