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Vol.188 《番外編》 震災4年半の被災地から

医療ガバナンス学会 (2015年9月18日 06:00)


この原稿は朝日新聞の医療サイト「アピタル」より転載です。

http://apital.asahi.com/article/fukushima/2015082500019.html

坪倉正治

2015年9月18日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp


久しぶりの投稿です。震災からもうすぐ4年半になります。

東京と福島を行ったり来たりの勤務を続けていると、全くといってもいいほど原発事故や放射線について触れられることのなくなった東京と、入居者がだいぶ減ったとはいえ仮設住宅が並び、帰宅困難区域の看板と、除染作業や大型トラックの行き来が続く南相馬周辺を比べて、何となく不思議な感覚になります。

良い話もあります。先日、福島と南相馬を結ぶ路上、飯舘村に初めての商業施設であるセブンイレブンが開店しました。ただ一軒で、お茶を買ったりするぐらいですが、何となくうれしい気持ちになります。

放射線に関する検査も、淡々とではありますが、続いています。小中学校の検診も続いていますし、今年度で2年目のBabyscanによる検査も、小さい子どもを持つお母さんが自由に検査を受けられる形になっています。

毎週20−30人ぐらいが検査に訪れ、やっぱり水の話や家庭菜園の話をする方もいらっしゃるし、外から原町に戻ってきて、今後の生活について相談される方もいます。どちらかというと、冷静に情報をという方が増えたと感じます。

先日になりますが、南相馬市の小児を対象とした、外部被曝検査(ガラスバッジによる検査)と内部被曝検査結果を突き合わせてトータルの被曝量がどの程度になるかをまとめた論文が発表されました。

少し前の結果ですが、
2012年4月から2013年3月まで、3カ月ごとに3回(合計9カ月)行われたガラスバッジ検査を全て受け、その期間に内部被曝検査も受けた881人の小児を対象にしました。

結果は、外部被曝と内部被曝を併せて、1年間のトータルの追加被曝線量の中央値は0.7mSv/年(範囲は0.025〜3.49mSv/年)でした(=グラフ)。既にこの2012年度の段階で、多くの小児の追加年間被曝線量は1mSvを切っていたことが分かります。

Tsubokura et al. 2015 Jun 8;10(6):e0129114. PLoS One より抜粋

トータルの被曝量としてはそのような状態ですが、その内訳を見ると、ほとんど(90%以上)が外部被曝であることも示されました。ほとんどの小児から放射性セシウムを検出しない状況で、最も保守的に、内部被曝が高くなるように計算して(WBCで検出限界以下でも、検出限界値ぎりぎりに体内に放射性物質が残存し続けていると仮定で計算)この割合なので、実際にはもっと外部被曝の割合が高いことになると思います。これは、場合によっては数十%が内部被曝でしめられていた、チェルノブイリ事故後の状況とは圧倒的な違いです。内部被曝が非常に低いことを示しています。

ガラスバッジの検査については、バッジをちゃんとつけている or つけていないによる計測値の差があります。別の手法でまとめている最中ですが、外部被曝に関しては、家にバッジを置きっぱなしにしていた子どもの方が、ちゃんとつけて学校に行っていた子どもに比べて値が高く出ている傾向にあることも分かってきています。(まだ精査中ですが、家に比べて、学校の中の線量の方が低いケースが多いのかもしれません。)
どうであれ、一つずつ状況を残していくしかありません。

もうそろそろ震災から5年を迎えます。多くのメディア関係者が言うように、5年という節目のその瞬間は、現地がどうなっているのか、全国的な報道は急激に増えるのでしょう。しかしながらその後は、何かよほど悪いことや興味を引くようなことがない限り、急速に顧みられない状況になるだろうと思っています。

もう触れないで欲しい、そっとしておいて欲しい。日常をやっと取り戻したのだから(または取り戻したい)、という意見も多く聞きます。しかし、残念ながら全員が完全に自立独立してやっていける状況でもまだありません。
あたたかく目を向けてもらえるよう、淡々と奇をてらわず、状況を伝える努力をするしかないのかなと思っています。

坪倉正治
東京大医科研医師(血液内科)、南相馬市立総合病院非常勤医。週の半分は福島で医療支援に従事。原発事故による内部被曝を心配する被災者の相談にも応じている。

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