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Vol.190 震災が壊し、そして再生させつつある日本人の美点 ~日本が世界に誇れるソーシャルキャピタル、福島で新たな息吹~

医療ガバナンス学会 (2015年9月25日 06:00)


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※このコラムはグローバルメディア日本ビジネスプレス(JBpress)に掲載されたものを転載したものです。

http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/44589

相馬中央病院内科医
越智 小枝

2015年9月25日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp


「震災の前は・・・13人家族だったね。息子夫婦も娘夫婦も越しちゃって、仮設に来てからお父さんも亡くなったから、今は一人暮らし」

仮設住宅に今でも住まれている80代のAさんは、苦笑するように話されました。

「仮設の集会も、知らない人ばっかりだから全然出ないの。しゃべりたくなるとバスで街中まで行ってお友達に会うけど、だんだん友達も減っていっちゃって」

震災によるコミュニティー崩壊は、震災から4年以上が経った後もまだ続いています。数十年来の顔見知りばかりいる集落を突然失ったお年寄りにとって、再び顔見知りを増やすということは容易なことではありません。

◆孤立する高齢者

「前は家でとれた野菜を持って近所に配ったりしてたけども、それもないと人のところに訪ねていかなくなったね」

ある農家の方は、農作物がなくなることでコミュニティーの手段も失ってしまった、と話されていました。山海の幸の贈答や祭事など、これまで人付き合いの潤滑油であった様々な文化が失われたこともまた、人付き合いの回復の障壁となっているようです。

社会的孤立が引き起こすリスクは、孤独死や引きこもりによる認知症、寝たきりのリスクなどを引き起こすと言われています。一人暮らしや社会的な孤立は平均余命を縮めるという報告もあります*1。

それだけでなく、周囲に知らない人間が増えることによりお互いの許容範囲が狭まり、他人に対するが警戒感も高まります。

「この近所は普通、家に鍵なんてかけなかったよ。震災の後になって周りに知らない人が増えたので、家に鍵をかけるようになってしまった」

このような話を、何人もの方から聞きました。

*1=Steptoe A, et al. Social isolation, loneliness, and all-cause mortality in older men and women. PNAS 2013; 11(15): 5797-5801.

◆よそ者による崩壊

そのような地域社会の崩壊には、避難による崩壊だけでなく、支援に入る「よそ者」の増加も少なからず関わっています。

「近所のお寺にはね、5人の建築作業員が無縁仏として眠っているんですよ」

建設会社の社長さんのお話しです。

「履歴書の連絡先が全くでたらめだったために、どなたにもご連絡できない人もいますが、家族に連絡が取れる人もいるんです。それでもご家族が引き取りに来ない。つまり、そういう人たちがこの地域に入ってきているんです」

災害復興における人員不足に伴い、復興途上の地域は多くの人に広く門戸を開く結果となっています。それが人の交わり合いを生み、良い方向に転がることもありあます。しかし一方で、社会から孤立した人たちもまたこの被災地に集まってきます。

病院でも、診察の時に名前を呼んでも反応しない、生年月日が言えない、などということから、他人の医療保険証を持って受診された、と判明する方もいらっしゃいます。内部、外部のいずれからも孤立者が増えつつある相馬市。その結果、地域の治安や安全に対する不安を口に出される人もいます。

「朝と夕方は、コンビニに体の大きな男の人たちがいっぱいいるので、怖い」

「居酒屋も、0時過ぎたら看板を下ろして、知っている人だけ受け入れているところも多い」

都会では珍しくない光景のように見えますが、これまで家に施錠もしないほど安心して暮らせていたコミュニティーにとっては、深刻な問題です。

◆いまでも残る「受援力」

しかしそのような中で、人々の中にまだ根強く残る文化もあります。それは、受援力です。最初に書いた、独居で周囲に友人がいない、と嘆くAさんもその1人でした。

「集会なんかは行かないけど・・・周りはみんないい人。いざとなったら助けを求められる人は、いーっぱい、いるよ」

その言葉を裏づけるように、話しを終えたAさんは、「じゃ、帰るね」と言いつつ、とても自然に私に手をさし出してきました。
腰が曲がり、膝が悪いAさんは、1人では椅子から立ち上がることも辛いため、もちろん周りの手助けが必要です。しかし、「手を貸して」などとの言葉もなく、ふと手を差し出す様子はあまりに自然で、そこにはへりくだったところも横柄なところも全くありませんでした。

周りが自然に助ける文化、そして周りが助けてくれることを疑わない文化とはこういうものなのか、と、東京育ちの私は目を開かれる思いでした。

◆ソーシャルキャピタルは伝染する?

このような人々の受援力を支えるものは、人々への信頼と協調性、そして助ける側の人間の結束力です。このような概念を、英語では「ソーシャルキャピタル」と呼びます。

日本の田舎は、世界の中でも特にソーシャルキャピタルが高いと言われています。確かに、Aさんのように人に助けられ、そして人を助けることをとても当たり前に受けとめている方々を大勢見るにつけ、そのことを実感します。

では地域の仕組みが壊れ、よそ者が増えたとき、この地域の人々のソーシャルキャピタルは崩壊する一方なのでしょうか。

私自身の話になりますが、都心で一人暮らしをしていた頃には、隣人との交流をできるだけ避け、エレベーターにも乗り合わせないように細心の注意を払っていました。

女性の一人暮らしと知られるのが危ない、という警戒心が解けなかったためです。しかし今では、散歩の途中に人に話しかけられれば、他愛もない話でひとしきり盛り上がったりもします。

私だけでなく、家の近所でも引っ越してこられた作業員の方も、時折お隣の方と庭の手入れの話で盛り上がっているようです。まだまだ垣根はありますが、少しずつ、地元の方と作業員の方との交流も始まっているのかもしれません。

確かに昔なじみの人々が減ることで、震災前のような「ツーカー」の関係は失われ、地元の方にとっては、信頼関係は弱まってしまったかもしれません。しかし一方で、被災地は、支援に入る人々の生き方に影響を与え、生き方を変える大きな力を持っていると思います。

よそ者が被災地に影響を与えるのであれば、被災地のソーシャルキャピタルが支援者である「よそ者」に伝染していくことも十分可能です。

Aさんから受けた感動を私も誰かに伝染させられる日が来ればよいな、と考えています。

越智 小枝(Sae Ochi):
相馬中央病院内科医、MD、MPH、PhD  1993年桜蔭高校卒、1999年東京医科歯科大学医学部卒業。国保旭中央病院などの研修を終え東京医科歯科大学膠原病・リウマチ内科に入局。東京下町の都立墨東病院での臨床経験を通じて公衆衛生に興味を持ち、2011年10月よりインペリアルカレッジ・ロンドン公衆衛生大学院に進学。留学決定直後に東京で東日本大震災を経験したことから災害公衆衛生に興味を持ち、相馬市の仮設健診などの活動を手伝いつつ世界保健機関(WHO)や英国のPublic Health Englandで研修を積んだ後、2013年11月より相馬中央病院勤務。剣道6段

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