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臨時 vol 242 「新型インフルエンザ患者を診療している現場医師が厚労省に望むこと」

医療ガバナンス学会 (2009年9月12日 12:32)


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   ~現場が必要とする臨床情報を出せない医系技官はもういらない~
  ナビタスクリニック立川 院長
  東京大学医科学研究所
  先端医療社会コミュニケーションシステム 社会連携研究部門 客員研究員
  久住 英二
 今年は例年以上の蒸し暑い夏を迎えているが、当初の予想に反して新型インフ
ルエンザの国内患者は増加の一途をたどっている。国内の患者数が5,000人を超
えたとの公式報告があるが、PCR検査で新型と確認されていないA型インフルエン
ザ患者(現在流行しているA型のほとんどは新型)が多いため、実数ははるかに
多い可能性がある。東京都の練馬区では、7月中旬までに50件のA型インフルエン
ザの報告があり、単純計算では23区だけで1000人を超える患者がいることになり、
都の公表数である200人を大きく上回る。
 発熱外来が廃止され、当院にも連日A型インフルエンザの患者が受診している。
東京都のホームページ (<http://www.fukushihoken.metro.tokyo.jp/iryo/kansen/butainfuruenza/index.html>http://www.fukushihoken.metro.tokyo.jp/iryo/kans
en/butainfuruenza/index.html)
には、「受診する前に、医療機関に事前に電話で連絡し、受診の時間帯、受診方
法等について指示を受けてからマスクを着用して受診するようにしてください。
(小児科の場合は、事前の電話が不要の場合があります。あらかじめかかりつけ
医に確認しておきましょう。)」と御触書が載っているが、こんな不親切な告知
を見てくる患者は当然少なく、普通に受診する人がほとんどである。情報は受け
手に届くようにしなければ、発信していないのと同じだと私は考えている。発熱
外来を廃止したり、制度を変えたなら、連日のようにテレビ、ラジオ、新聞で周
知徹底すべきではないだろうか?
 さて、実際に新型インフルエンザとおぼしき患者さんを診察するにあたって、
私が気になったのは、発症後48時間以上経っている患者さんに抗ウイルス薬を処
方すべきか?ということと、患者さんが重症化するリスクがどの程度あるのか?
ということである。国内での疫学、臨床情報は国立感染症研究所の感染症情報セ
ンター(http://idsc.nih.go.jp/disease/swine_influenza/index.html)から発
表されており、5月25日に神戸の臨床像(<http://idsc.nih.go.jp/disease/swine_influenza/2009idsc/clinical_epi_kobe2.html>http://idsc.nih.go.jp/disease/sw
ine_influenza/2009idsc/clinical_epi_kobe2.html)、
6月5日に大阪の臨床像(http://idsc.nih.go.jp/disease/swine_influenza/2009idsc/clinical_epi_osaka02.html)
が報告されている。有症状期間などの詳細な臨床情報が掲載されており、臨床医
として非常に有用性を感じた。しかしながら、その後更新されておらず、症例数
が増えていないこと、および、全国に感染者が増加しているにもかかわらず他地
域での感染者の情報が発表されていないのは残念である。また、新型インフルエ
ンザで肺炎など重症化した症例の報告や、基礎疾患を有する症例の臨床経過の報
告が少ないため、日本における重症化の危険因子が解析されていない。厚労省は
全例登録をあきらめ、クラスターサーベイランスをおこなうとの方針を打ち出し
た。すでにこれだけ蔓延しているのに、クラスターを見つけても仕方あるまい。
むしろ、サンプル集団における発生状況をきめ細かく情報収集し、推測患者数や
感染様式、臨床経過、危険因子等の情報を迅速に公開すべきではなかろうか。
 ソネットエムスリー社では、新型インフルエンザに関する情報を集めるにあた
り、最も役に立った情報源についてアンケート調査を行っている。医師を対象に
した調査でのトップは米国 Center for Disease Control and Prevention(CDC)
のホームページで22%であり、国立感染症研究所は15%、厚労省にいたっては5%で
あった。厚労省がいかに日本の医師にアテにされていないかを数字が物語ってい
ると言えよう。その米国CDCが発行する Morbidity and Mortality Weekly
Report には、米国における重症患者の臨床経過が、そして臨床医学のトップジャー
ナルである The New England Journal of Medicine 誌にはメキシコにおける重
症患者の臨床経過が報告されている。私自身、これらの報告が大変参考になった
ので、以下に要旨を記載する。日本でも、やがて必ず重症化し、亡くなる患者さ
んが出る。そのときに、迅速にこのような情報が提供されることを強く望む。
●メキシコより肺炎おこした18例の報告
Pneumonia and Respiratory Failure from Swine-Origin Influenza A (H1N1)
in Mexico N Engl J Med 2009 0: NEJMoa0904252
<http://content.nejm.org/cgi/content/full/NEJMoa0904252>http://content.nejm.org/cgi/content/full/NEJMoa0904252
対象 2009年3月24日から4月24日の間に急性呼吸器症状で入院した98人のうち、
S-OIV(新型インフルエンザ)感染及び肺炎が認められた18人
年齢:中央値 38歳(範囲:0.75-61歳)
基礎疾患:8人が有していた(高血圧+糖尿病1人、高血圧2人、糖尿病2人、喘息
2人、睡眠時無呼吸1人)
症状:咳(100%)、38℃以上の発熱(100%)、呼吸不全(100%)、筋・関節
痛(44%)、血痰(33%)、鼻水(28%)、下痢(22%)、頭痛(22%)、喘鳴
(11%)。
血液検査:LDH上昇(100%)、CPK上昇(62%)、リンパ球減少(61%)。
感染症検査:血液培養(6人)、気管支吸引痰(2人)、胸水(1人)培養では培
養陰性(うち3人は抗生剤投与受けている)。
画像検査:斑状の肺胞性陰影が肺底部優位に肺の3-4区画にみられる。線状、網
状、結節状の肺間質影もみられる。人工換気を要した全員でARDS様陰影がみられ
た。
治療
 オセルタミビル:入院前の治療歴は全員なし。入院後14人が発症後平均8日目
より治療開始(生存した11名のうち4名はオセルタミビル用いず)。
 併用抗生剤:17名がCTRX、1名がCAM併用開始。
 人工換気:入院24時間以内に10人が開始、ほか、経過中に2人が開始。
転帰
 死亡 39%(発症から死亡までの期間は中央値14日)(筆者注:重症化した18
例のうちの39%です。)、退院 61%
予後不良因子:補液に反応しない低血圧、腎不全、APACHEII高スコア、酸素化不
良(低PaO2:FiO2比)
剖検所見
 Necrosis of the bronchiolar walls
 Diffuse alveolar damage with prominent hyaline membranes, and fibroblast
proliferation
医療従事者への感染 div>

 ケアにあたった190人のうち、22人がインフルエンザ様症状もしくは呼吸器症
状を呈し、オセルタミビル5日間内服及び3-7日間の自宅待機の処置を受けた。
 うち3人のナースで S-OIV が検出された。
●米国:ミシガンより重症10例の報告
<http://www.cdc.gov/mmwr/preview/mmwrhtml/mm58d0710a1.htm>http://www.cdc.gov/mmwr/preview/mmwrhtml/mm58d0710a1.htm
対象:2009年5月26日から6月18日の間にミシガン大の surgical ICU に入院した
S-OIV 感染者10人(ミシガン大の surgical ICU は重症呼吸不全の専門的な治療
が可能で、従来の人工換気での酸素化が不十分や、重症ARDSという理由で入院し
た)
年齢:中央値 46歳(範囲:21-53歳)
基礎疾患:9人が肥満で、うち7人は高度肥満(BMI 58.9, 51.7, 50.5, 50.2,
48.7, 47.8, 39.7, 38.5, 34,2, 1人不明)。入院前に4人がステロイド治療歴を
有していた。
症状:咳(80%)、発熱(70%)、痰(40%)、嘔気・嘔吐・下痢(20%)
(注:臨床症状についての詳細な記述なし)
血液検査:CPK上昇(67%)、AST上昇(100%)、白血球増多は一定せず。
感染症検査:10人全員で、血液、BALF、尿培養では細菌感染の所見得られず。
画像検査:複数の肺葉にわたる肺炎、もしくはARDSと考えられる両側性の浸潤影。
CTでは4人が肺塞栓を有していた。
治療
 オセルタミビル:他院からの搬送が多く、抗ウイルス療法の開始時期は正確に
はわからない。発症してから中央値8日(範囲:5-12日)に治療を開始されてい
ると推測。
転帰
 死亡 30%(2009年7月8日時点で)
(筆者注:重症化した10例のうちの30%です。)
Editor note
 季節性インフルエンザの合併症を起こしやすい危険因子(高齢者、妊婦、慢性
疾患のある人、18歳未満の長期アスピリン治療患者、ナーシングホーム入所者)
は、3人にしか認められなかった。(筆者注:このBMIの高さは十分危険因子かと
思いますが・・・)
 抗ウイルス療法は早期に開始するのが望ましい。ただし、これまでの季節性も
しくは高病原性鳥インフルエンザでの報告では、治療開始が遅れたとしても、抗
ウイルス療法には患者の死亡率を低減させる効果がある。したがって、治療開始
が遅れたとしても、抗ウイルス療法はおこなうべきであろう。
 新型インフルエンザ感染が疑われる場合、入院時より抗ウイルス薬によるエン
ピリック治療をおこなうことが推奨される。
●米国:テキサスより神経症状呈した4例の報告
<http://www.cdc.gov/mmWR/preview/mmwrhtml/mm5828a2.htm>http://www.cdc.gov/mmWR/preview/mmwrhtml/mm5828a2.htm
対象:2009年5月18日から28日の間にダラスの病院に入院した S-OIV で中枢神経
合併症を起こした4人。
症例A 17歳黒人男子
 発症翌日に39.2℃の発熱、席、頭痛、めまい感、倦怠感出現し、病院受診。オ
セルタミビル処方され帰宅。発症2日目の朝、オセルタミビル内服開始。倦怠感
の増強、見当識障害、反応が緩慢となり入院。CT、CSF(脳脊髄液)異常なく、
オセルタミビル継続し、3病日に意識清明となり、4病日に退院。
症例B 10歳ヒスパニック男子
 40℃の発熱、咳、食欲不振、倦怠感にて発症し、4日目に3分間の強直性間代性
痙攣と意識障害あり、救急搬送され入院。入院後も意識混濁、痙攣発作あり。
EEG(脳波)は脳炎所見、MRI、CSFは異常なし。抗けいれん薬、オセルタミビル
にて治療行い、7病日に神経学的後遺症なく回復し、退院。
症例C 7歳白人男子、1年前に熱性痙攣の既往あり
 咳、鼻閉、倦怠感にて発症し、3日目に痙攣発作おこし入院。入院時は意識障
害、38.2℃の発熱あり。MRI、CSFは異常なし。EEGにて限局した大脳の異常あり。
オセルタミビルにて治療行い、回復した。
症例D 11歳黒人男子、喘息の既往あり
 38.9℃の発熱、嘔吐、頭痛、腹痛にて発症し、ビスマスと小児用バファリン内
服して、翌日受診。受診時、運動失調みとめ、オセルタミビル、アシクロビル、
リマンタジン開始。入院後2日間は幻覚、失見当識、脳炎による低呼吸、低酸素
血症みとめた。4病日までに神経学的所見は正常化した。
 最後に、診療所のほとんどは発熱者用に別の入り口や待合いを有さない。そも
そも、そんなスペースの設置は現在の診療報酬下では不可能である。ほとんどの
診療所は院外処方だが、調剤薬局にタミフルの在庫は無いか、あっても少ない。
厚労省は、少ない人手と物資で一生懸命診療している前線にいる医療者の努力を、
お触れの乱発で無にしてはならない。TBS日曜ドラマ「官僚たちの夏」に出てく
る通産官僚のように、前線の医療者をバックアップするため、ロジスティクスや
休業補償制度の整備などに汗を流す厚労省であって欲しいものだ。

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