臨時 vol 61 「異常死議連にお答えする。」
■ まずはじめにお詫びを
話題の医療事故調査委員会と異常死議員連盟との連想で、論点を異常死と事故
調査に結びつけ議論したことが反論を招いたようです。事故調の議論は医療界を
分裂させ、厚労省との間にも不信感が増幅され、何よりも重要な遺族の方々とも
対立関係になってしまいました。医療に於ける死の問題は、医療者にとって非常
に関連が強く、かつ誤解を解消できない微妙な問題が随所にあって、つい過敏に
なってしまいました。また、厚生局に所管を置くと誤解したのは、事故調が出来
ればこれに代行させるという記事を新聞で読んだものでしたが、勉強会の演者の
コメントだったとわかり、お詫びいたしします。是非事故調とは関連が無いこと
をきっぱり言明して活動を始められるようにお願いします。
■ 異常死に関連して
仰せのとおり異常死という言葉は定義が難しい。異常死の反対は正常死であり、
正常死は定義が難しいから、異常死という定義も難しいのだと思います。異常死
の反対を自然死と定義されていますが、これも無理があり行き倒れを異常死とす
れば、野外で起きた突然の心筋梗塞での死亡は病死であり、自然死に含まれるこ
とになります。線引きはもともと難しいのだと思います。
相撲部屋の事件に沿うのであれば犯罪死とはっきり定義し、犯罪死を見逃さな
いための議連であれば分らないことはないと思います。それが検死であり、その
結果犯罪が疑われてから法医学的なアプローチが登場するのではないかと私は思っ
ています。このあたりも明確に犯罪死が対象であると定義をお願いしたいと思い
ます。
■ 医療と異常死の関係について
医の理念は生命の存続と苦痛の軽減であり、病に苦しみ悩む人であれば、犯罪
者と正行の人を区別する考えはもともとありません。人体の知識があり、生命が
失われる現場にいるという状況で、やり手がいないからやむを得ず協力している
という感覚です。
閻魔様は人間社会の存続に必要で、お釈迦様は苦しみをもつ人間にとっての救
いです。閻魔様に仕えても、お釈迦様に仕えても同じように意味のあることです
が、きれいごとを言うつもりはありませんが、仕える者として見れば、持ち物も
考え方も違うと見る必要があるのです。簡単に区別出来るものであればその差は
出ませんが、精密に区別を要求され、見逃しは許さないとなると、まったく方向
性の異なる勉強と技術が必要となり、責任を追及されれば役割を降りるしかない
のではないかと思います。これが検死と医療との関係に関する答えです。犯罪の
捜査であれば医師でなくても教育により検死の専門家を養成することはできると
思います。
■ 死因究明制度の目的
死因究明の法案化は必要と感じられれば検討いただくことに依存はありません
が、何を目的とされているのでしょうか?死因が分らない状況で犯罪を検挙する
精度を高め、犯罪を許さない風土をつくろうという正義感はよく伝わります。し
かし、多大な労力と税金を投じてすべてを明らかにすることで犯罪が減るのでしょ
うか?再発が予防できるのでしょうか?死因に疑問を持つ家族の満足感のためで
しょうか?
日本は今、世の中の動きの中に運命的に生存できない多くの人たちを生んでい
ます。メディアによる犯罪者への攻撃が犯罪者を減らしているのでしょうか、わ
たしは運命的に社会から排除された人たちが生存できない環境に目を向けること
のほうが、検死の精度を上げるよりも安定した社会に近いと思います。数の少な
い医師たちは優先度の高い役割において使っていただきたいと思います。小さす
ぎる政府の中で、大きな死因究明制度にはなぜかアンバランスを感じるのです。
■ 高齢化による死亡の増加
いま人口の高齢化により死亡が増加しています。最高点に達するのにまだ半分
来た所です。死亡は増えますがほとんどが老化による寿命、つまり自然死の範疇
に入るものと思います。犯罪による死がどのくらいあるかは知りませんが、年間
三万人に及ぶ自殺死や孤独死よりは少ないのではないでしょうか?
犯罪による死は異常なるがゆえに発見者や遺族のアクションに繋がり易い。つ
まり日の目を見る可能性が高い死といえます。今回のように検死が正確に行われ
なくても、遺族の訴えで動く仕組みを円滑に作動することで同じ効果が得られま
す。それより、自らが命を絶つ、また孤独でさびしい死の裏には、孤独できびし
い生活があったかもしれません。このことを正視する必要があると思います。
■ 亡くなった人は自らを語ることはない
死体は自らを語ることがないように、亡くなった人の気持ちを知ることはでき
ません。人の目に触れず、語られることの少ない自殺や孤独死は異常死ではない
のか、この実態を国として、国民の利益を代表する議員さんとして正視していた
だきたいと思います。論点を外すようですみません。税金と人力を投入するので
あれば、是非この種の死の問題にチャレンジしてほしいと思います。そのような
目的に医師を使っていただけるのであれば、よろこんで協力することと思います。
ご丁寧にいただいた記事に対する反論というよりは感想に近い話ですが、何か
のお役に立てていただければありがたいと存じます。