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臨時 vol 247 「リハビリ棄民政策と混合診療禁止政策 」

医療ガバナンス学会 (2009年9月15日 08:44)


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澤田石順・清郷伸人

1. 混合診療には二種類─厚労省政策の裏表

A) 厚労省が”強要”する”不当”な混合診療
たとえばリハビリ治療の制限である。リハビリ治療に日数制限・回数制限を設けて、それ以上は患者の状態からどんなに医師が必要と認めても保険は適用されない。患者が治癒途中であっても、それ以降は「選定療養」という保険外診療扱いで自費となってしまう。その結果、費用の負担できない患者は治療を継続できず、病状が悪化し最悪は死に至る。働き盛りでも職場復帰できず家計は破綻する。このような政策は、選定療養を定めた保険外併用療養費制度そのものが例外的に混合診療を認めたものだと厚労省がいう趣旨からは全く外れた悪用といっていいやり方で、保険支払い削減のみが目的で、患者のことなど全く顧慮しない不当な混合診療の強要政策である。繰り返すが、厚労省のリハビリ制限は、医師が”必要と認める”治療を患者に自費でやれという”悪辣な混合診療”強制である。保険でカバーすべき保険治療を保険外に追いやって患者に自己負担を強いるという歪んだ政策である。このほかに療養病棟の入院基本料や老健施設や特別養護老人ホームへの診療報酬があまりにも低いため患者の保険外負担が高額になっている問題もある。
リハビリ制限のごとき悪辣な混合診療は法律で明確に禁止しなければならないことは言うまでもない。同時に患者に必要な診療ができるように、保険から払われる患者一日あたりの入院料を少なくとも4000円増額しなければならない。ちなみに、澤田石のいる病院は一日X円もの保険外負担を強いている。それなりに名前が売れているので遠くからでも患者がくるが、もしも自分がいる病院が→一日5000円もの保険外負担を患者に強いている療養病院もある。それなりに名前が売れていて患者が来るとしても、もしそのような病院が一日2000円程度の保険外負担としたら、医者、管理栄養士、リクリエーショントレーナーなど一円も稼げない職種の数を半減して、劣悪な医療を提供するほかない。
療養病棟が保険から得られる収入は患者一日当たりの入院基本料がほとんどで、検査や薬には一円も払われない。いわゆる包括(丸め)である。包括料金の値段が妥当であれば良いがそうではない。厚労省の定める人員基準ではまともな診療を実現するのに全く不足し、診療報酬の範囲内で基準を超えた人員を雇用するのは不可能である。厚労省は、おむつ代などの保険外負担を規制してはいるが、実際は多く徴収しても見て見ぬふりをしている。まともな医療をしたい療養病院は、保険外負担を一日あたり1000円から5000円徴収して基準を超えた人数を雇用してなんとか最低限の医療を実施している。いうまでもなく保険外負担が高額なほど医療の質が高いわけである。当然貧乏人は安いところにしか入れなく、安いところは何ヶ月待ちで、しかも医療の質は劣悪である。このような実態は、厚労省が知るところだが、知らん顔を決め込んでいる。
すなわち厚労省の療養病院政策の本質は次の通りである。
a)人員配置基準の規定を意図的に劣悪にしている。
b)適正な診療報酬よりも遥かに低額の報酬を意図的に規定している。
c)その結果、療養病院に患者負担増を強いる事実上の混合診療を強要している。
d)こうして必要な医療に対しても保険からの支出を削減して棄民政策を貫徹する。

B)厚労省が”禁止”する”正当”な混合診療
がん患者が求め、医師が科学的根拠を有すると認める先進治療(LAK療法など)と保険

診療との併用のことである。先進治療のほかにも世界標準だが未承認の抗がん剤が使えな

い、あるいは承認された抗がん剤を適応外使用するというドラッグラグ問題もこれに入る。

清郷ら患者の主張は、そのような先進的だが未承認の治療については、保険収載の評価が定まるまでは混合診療を容認しろというものである。治療経過・結果については公的機関等への報告を義務づけて、一定の条件を満たした時点で公的機関などが保険を適用するかどうか判定するのである。医学的に「有効とはいえない」と確定したなら、「いつまでも自費で、ただし保険診療には保険を給付する」とする。「有効とはいえない」治療を自費でやりたい患者などほとんどいないだろうから、これで問題はないと思う。
現行制度に対するがん患者の主張は「医師が”有効あるいは有効の可能性を認める”未だに保険収載されてない治療は自費でもいい。しかし自費でそういう治療を受けたことを理由に健康保険で認められた治療も自費でやれという厚労省の主張は人権侵害であり、生存権の否定であり、健康保険法や療養担当規則違反だ」というもので、”正当な混合診療”の容認論である。つまりこの分野での混合診療禁止は不当、不法であり、理不尽きわまりない。

2.厚労省の本末転倒した無法政策への反論

厚労省は清郷の混合診療裁判で、評価療養や選定療養といった保険診療の併用を認める保険外診療(混合診療)は例外的措置だといった。医師や患者の要望を例外的に認めたのだと書面に書いた。ではリハビリ制限の混合診療も医師や患者の要望から設けた例外なのか。まったくそうではない。これは国が勝手に作り上げ、医師や患者に強要しているものである。国は国策として禁じている混合診療を、自分たちの都合で臆面もなく悪用しているといわざるを得ない。これは恥ずべき無法政策である。

混合診療を解禁すると保険診療が新に収載されにくくなるだけでなく、既存の保険診療も保険外になるという危惧が解禁反対論者から指摘されるが、禁止されている現在でもそれは生じているのである。いっそ原則解禁にして、既存の保険診療は恒久化すればいい。

そもそも保険承認と混合診療は別問題である。保険は要するに保険財政と国民負担のバランスの問題である。保険は多数弱者救済を目的に、救済規模と負担を数理的に勘案して決めるものである。保険の能力を上げるには負担を増やすことになる。どれくらいの能力にするかは国民が決めることである。一方、混合診療は保険外診療を自費でやり、保険診療には保険を使うという当然の行為、権利の行使である。保険治療が尽きてしまったがん患者が、保険未承認でも保険医と協議して自ら選んだ科学的治療を自由に受けられるという当たり前の医療選択権、自己決定権の行使なのである。

3.混合診療の正当な制度設計

A.リハビリのような科学的根拠が十分にある治療において、患者の病状を顧慮しない一律の制限、実質上の打ち切りによって、患者に重大な結果が予測されるような診療行為については、日数や回数を保険打ち切りによって制限することを健康保険法で明確に禁止しなければならない。保険打ち切りによって患者は自動的に選定療養という自費診療に誘導されるが、このような混合診療は明確に禁止すべきである。

このリハビリの日数・回数を制限する制度については何ら医学的合理性がなく、また被保険者がいつでもどこでも病気が治るまで保険治療を受けられるという国民皆保険制度の根幹を損なうものである。この政策は一番弱い者を標的にした単なる医療費削減、保険給付削減のつじつま合わせに過ぎないのである。

B.科学的な根拠があるものの有効性の根拠や普及性が不十分でまだ保険収載には至っていない治療(保険外診療)については、実施できない医療機関を規定し、実施の際の義務(患者への十分な説明と同意等)を規定し、違反についての厳罰を規定した上で、患者の自費あるいは医療機関や製薬会社の負担で実施できるものとする。同時にそのいかなる保険外診療を受けても、保険で認められている診療には保険を給付することを明確に規定する。

がんなどの重病・難病において保険治療では為す術をなくしたような場合、保険医の判断と患者の希望によってそのような混合診療を実施できるように制度設計する。保険外診療を受けたら、いかなる保険診療にもただちに保険給付を停止する現行の政策には法的根拠がなく、憲法の基本的人権を侵していることを明確にする。

またそのような科学的根拠があるものの有効性の根拠が不十分な治療については、実施や結果等の報告を当局に行うとともに、臨床データの公開による共有化をはかり、症例報告の数と質が満たされたら、学会等が有効性について判定することを法律で義務づけるべきである。

参考

上昌広東大医科研准教授 混合診療論文集(ソネット・エムスリー「医療維新」より)

http://www.kongoshinryo.net/pdf/ronkou.pdf

ロハス・メディカル 患者の経済負担を考える(国立がんセンター中央病院シンポジウムより)

http://lohasmedical.jp/news/2009/08/15204133.php

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