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Vol.235 現場からの医療改革推進協議会第十回シンポジウム 抄録から(4)

医療ガバナンス学会 (2015年11月20日 06:00)


*このシンポジウムの聴講をご希望の場合は事前申し込みが必要です。

http://plaza.umin.ac.jp/expres/genba/symposium10.html

2015年11月20日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp


2015年11月29日(日曜日)

【Session 05】10年を振り返り 10:00-10:50

●現場からの医療改革推進協議会の歩みとこれから
鈴木 寛

福島県立大野病院事件。産婦人科医が全力を尽くして治療にあたったけれども、患者さんを救えなかった。そして、その医師が業務上過失致死容疑で、病院で逮捕される事件でした。司法と警察により日本の医療は破壊される危機に直面しました。この時の刑事告訴に反対する署名活動を経験し、現場の医療者が声を上げることの重要性に思いが至り、2006年に第1回シンポジウム開催するに至りました。以後、年1回のペースで開催を続けてきました。
大野病院事件で、自らの生命を賭して解決に尽力された故佐藤章福島県立医科大学名誉教授の姿は未だにまぶたに焼き付いています。会のテーマは、その時々の問題に即して、多様な問題を提起してきました。医療事故調査のあり方、不活化ポリオなどワクチン行政の問題、医学部定員増につながった医師不足についての議論がありました。また、医療の受け手である患者さんも発表を行う場であることもこのシンポジウムの特色です。ほか、法律家、政治家、教育者、スポーツ選手など様々な立場の方にも、医療を良くするために議論いただきました。
いま、日本は少子化と高齢化という二つの事態に直面しています。医療は、今までよりも国民の関心事となります。今後も生じるであろう様々な問題について、是非シンポジウムで議論を重ねて参りましょう。
『現場からの医療改革推進協議会』シンポジウムが15回、20回と続きますよう、引き続き皆様のご指導、ご協力をお願い申し上げます。
【Session 06】がんの先進医医療 11:00-12:20

●ゲノム情報の医療応用とその課題
小川誠司

遺伝という現象は言うまでもなく、生物現象の本質に関わる概念である。子供がさまざまな点で親に似ること、血液細胞が分裂して神経細胞になることがない、などといったことは、わかりやすい例である。同様に、病気になりやすさも遺伝するし、がん細胞が分裂するとやはり、がん細胞になる。というわけで、遺伝という現象を理解することは、病気の原因を考えたり、診断や治療を行ったりする上で、不可欠の事案であるということになる。
遺伝現象を担っている物質的な実態は、細胞のDNA(いわゆる、ゲノム)とともに「染色体」と呼ばれる構造形作る一群の蛋白質であるから、遺伝学の研究はもっぱら、これらのDNAや染色体構成蛋白を相手にするのである。
近年の大きなニュースは、このDNA、30億塩基対によってコードされる生命現象のプログラムを、大変なスピードと精度で読み解くことができるようになったということで、このことが、医学研究に与えたインパクトは絶大なものがある。
すなわち、病気に関わるDNAの配列を比較検討することで、病気になりやすさがどのように遺伝するか、また、病気を起こした臓器、とくにがんでは、これがどのようにおかしくなっているかということに関する我々の知識は格段に増加したのである。そこで、こうして得られた知識や技術革新を、病気の診断や治療、あるいは予防に応用することによって、よりよい医療を実現できないかということになるのはごく自然な発想なのである。
しかし、こうした応用については、同時に、いままで予期しなかったような様々な問題も抱えており、単に医学や医療の現場のみならず、社会全体がともかくも向き合わなくてはならない課題となっている。
今回の講演では、こうした医学の進歩と社会が向き合うことになるかもしれないいくつかの課題について議論を深める契機となればさいわいである。

●「バリウム検査は危ない」を隠してきた“検診ムラ”とは
岩澤倫彦

年間約5万人が命を落としている胃がん。
自治体が行う胃がん検診は、国が定めたバリウム検査(=胃X線検査)で実施されているが、「内視鏡と比較して格段に劣る発見率」、「見落しが多い」、「放射線被曝」などの問題点を臨床医から指摘されてきた。
私の取材チームが調査した結果、バリウムが大腸などを「穿孔」する重大事故が、1年間で68例あると判明、過去には死亡ケースも確認した。健康な人を対象にした胃がん検診で、死に至るリスクを受診者が負担することは決して妥当ではないだろう。
国や自治体には、「バリウム検査は危ない」という説明義務があったはずで、これまでの対応は不作為としか言いようがない。
バリウム検査は、国立がん研究センターの検診研究部が中心となって作成した、「胃がん検診ガイドライン」が根拠となっている。2014年度版ガイドラインでは、内視鏡検査が推奨に加えられた一方、バリウム検査は実績評価もないまま、「死亡率減少効果が証明されている」として継続された。しかし、証拠として採用された論文は、日本と環境が大きく異なる中南米コスタリカでの研究や、選択バイアスの可能性が付記されたコホート研究でしかない。
実は、ガイドライン作成委員の国がん・検診研究部の二人は、10年間で5億7622万円という多額の厚労科研費が交付されており、9人の委員中8人が共同研究者に名を連ねていた。検診研究部の部長は、国内最大の検診グループ・日本対がん協会の評議員を務めている。バリウム検査は、がん検診の中で最も売上高が大きい事業であることから、同部長には利益相反の疑いがある。 同グループ各支部に自治体幹部の天下りが常態化している他、バリウム検査で様々な企業が多額の利益を得ている。私は胃がん検診をめぐる資金と人間関係、組織を『検診ムラ』と命名した。2年間の取材で解明した事実を報告したい。

●子宮頸がん予防HPVワクチン:世界の動き
Sharon Hanley

HPVワクチンは125ヶ国以上で認可され、64ヶ国では公費助成制度があり、ワクチン事業に組み込まれています。この数年、英国、オーストラリアのような高所得国だけではなく、ルワンダ、パナマ、ブータン、マレーシアなどの低・中所得国でも90%以上の高い接種率 を達成しています。他の医療介入と同様にワクチンにもリスクとベネフィットがあります。しかし、大事なことは、医学的な介入はリスクをはるかに上回る利益があるときにのみ導入されるということです。
HPVワクチンの効果と安全性には大きな実績があり、子宮頸がんの減少だけでなく、HPV 関連疾患の医療費や、この疾患に関わる精神的および身体的負担を軽減出来ます。
その為、経済力のある国のほとんどは、女性を守るために検診とワクチン接種事業を両輪にして子宮頸がん予防に積極的に取り組んでいます。
全ての子供は住む地域や両親の経済力に関係なく、平等に医療を受ける権利があると強く信じ、HPVワクチンの公費助成は不可欠なものと思っております。

●米国、医師による自殺幇助の適応についての議論
大西睦子

現在、医師による自殺幇助の賛否が、米社会を二分して議論されています。いつ、どのように死を迎えるかを、自分でコントロールすることが許されるかどうか、ということです。これまでに、余命6ヶ月未満の患者さんに対して、オレゴン、ワシントン、モンタナ、バーモントの4州とニューメキシコ州で判例が認められています。さらに、2015年10月5日、カリフォルニア州においても、ジェリー・ブラウン知事が、医師による自殺幇助を容認する法案に署名し、法律が成立しました。今後、別の州においても、合法化の動きは進むでしょう。
さて、そんな米国で、医師による自殺幇助の認知症への適応が議論になっています。
認知症は、自分の人生をコントロールできなくなり、今のところ根本的な治療はありません。これまでの報告で、認知症とうつ病の併発が自殺のリスクを大幅に増加させていることが見出されています。そこで、認知症の初期は意思決定が可能なため、安楽死の決断に関しても意思表示ができる、というのが容認派の主張で、これには賛否両論、議論が沸騰しています。
オランダ、ベルギー、ルクセンブルクは、本人に正常な判断ができる時期に、自ら医師による自殺幇助を要望する文書を残している場合には、進行した認知症患者さんの医師による自殺幇助が合法化されています。
認知症に苦しむ患者さんは、知的能力が悪化する中で生きるより、むしろ医師による自殺幇助を願う場合が少なくなくなってきました。高齢化率が高い国では、将来、医師が頻繁にこのような要求に直面することが予想されます。

 

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