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Vol.236 現場からの医療改革推進協議会第十回シンポジウム 抄録から(5)

医療ガバナンス学会 (2015年11月20日 15:00)


*このシンポジウムの聴講をご希望の場合は事前申し込みが必要です。

http://plaza.umin.ac.jp/expres/genba/symposium10.html

2015年11月20日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp


2015年11月29日(日曜日)

【Session 07】2020年に向けて

●エリトリア国におけるスクール・ヘルス・プログラムのへの関わり
宮澤保夫

エリトリアは世界的に見ても最貧国のひとつとして知られている。多くの問題を抱える国であるが、資源が豊富であり、地政学的にも重要な地域に位置する。従って、経済制裁等の問題の解決が進めば将来は大変良い国になるだろう。
我々は1993年から小さな支援を行ってきた。現在はスポーツ支援を通し青少年に教育と医療分野での環境づくりを進めようとしている。そのような中、今年北京で行われた世界陸上競技大会において19歳のギルマイ選手が男子マラソンで優勝し、エリトリアの名を世界中に認知させた。
エリトリアは30年に及ぶ独立戦争を経て、1993年エチオピアからの独立を果たした。独立戦争中にいち早く手がけたのが次世代養成のための教育だった。戦闘地域にあってもこどもたちの教育は熱心に行われた。独立後このシステムがエリトリアの教育のベースとなった。更に、このシステムが、全国、特に遠隔地における医療・保健体制の整備につながった。
独立後間もない状態で全国に医者と病院を配備することはできない。だが、教育システムは既にあり、教師がどのような地域にもいた。そこで教育省と保健省が協働し、5年間で全国に446の初期教育センター(学校)を設立し、そこで教鞭をとる教師に保健ワーカーとしてのトレーニングも併せて開始した。教師は「こどもを守り、こどもたちへ保健教育をすることにより、その公衆衛生習慣を家族へ普及し、コミュニティ全体に普及する」というミッションを担うことになった。
これにより、「クラス担任が、生徒個々の健康に責任を持つ」という体制が出来上がった。教師は生徒の成長を定期的に観察し、皮膚、耳、目、歯に感染症がないかチェックする。そして病気が疑われる場合には、診療所で診察してもらうよう指示も出す。このようにして病状を早期に発見し、治療を受けさせるので、病気の重篤化を防ぐのに効果をあげている。また、その地域特有の健康問題の発見にも繋がっている。
ある地域では、クラスの中の数人が授業中集中力がないのに、教師が気づいた。その教師は「勉強嫌い」とは考えず、診療所に相談したところ、食事時の鉄分不足が原因であると判明し、その地域では同様の症状を抱えているこどもは14%にものぼっていた。そこで、学校は鉄分タブレットを無料で配布し、結果地域の貧血症割合は4%にまで低下したという実例がある。
エリトリアは、GNPでも世界最下位レベルであり、国土・人口も下位に属するが、こどもたちの将来のためには継続的に投資している。教育・保健分野はその好例であり、しかも教師が保健ワーカーの役割を果たすことにより、コスト的にも効果を上げている。
このようにエリトリアは教育・保健分野において独自の努力を続けてきた。我々も、エリトリアのこどもたちのより健康的な未来のために、スポーツや医療の分野で支援を続けていきたい。

●医療通訳の現場が抱える課題とテクノロジーを活用した新たな医療通訳システム構築の展望
澤田真弓

日本国内の在留外国人数は、2014年末には212万人となり、訪日外国人数は2014年には年間1,341万人を記録した。増加の一途をたどる国内の外国人数に比例して、外国人の医療ニーズは年々増加しているが、1) 外国人患者、2) 医療機関、3)医療通訳者という外国人医療課題のステークホルダー三者はそれぞれに課題を抱えている。
1) 外国人患者は、言語的な障壁により、国内の医療機関でのスムーズな受診が阻まれる状況がある。
2)医療機関は、全体の数%にしか満たない外国人患者の対応のために、プロフェッショナルな通訳者を雇用することがかなわず、外国人患者の受入は容易でない。
3)医療通訳は、左記の現状を受け、地域の医療通訳者がボランティアとして活動をし、外国人医療を支えてきた。
しかし、患者の生命・健康に関わる非常に高い専門性を求められる業務にも関わらず、あくまでボランティア活動であるため、医療通訳のみで生計を立てることは極めて難しく、必要なスキルを備えた担い手が常に不足していた。
これらの課題を解決するためには、テクノロジーを活用し、三者それぞれが容易にアクセスすることができる医療通訳システムの構築が必要である。具体的には、電話やビデオを活用した、外国人患者・医療機関と医療通訳者をつなぐ遠隔医療通訳システムである。本システムによって全国に薄く拡がる医療通訳ニーズを一箇所に集め、十分な能力を有した医療通訳者で対応する。
こうしたシステムが、外国人患者や医療機関に、自分たちで医療通訳者を雇用するよりもはるかに軽い負担で、品質の保証された医療通訳を利用することを可能にし、医療通訳者に対する正当な報酬の支払いの実現と活躍機会を創出できると考える。
本システムの構築により、国内の外国人医療課題を解決し、また、言語障壁の高い日本だからこそ生まれたイノベーションとして、日本がグローバルヘルスで世界におけるプレゼンスを示していく一助となることを目指す。

●国家戦略特区で未病発信!
黒岩祐治

神奈川県は京浜臨海部ライフイノベーション国際戦略総合特区、さがみロボット産業特区、そして全域が国家戦略特区と3つの特区に指定されている。我々はこれを最大限に活用しながら、超高齢社会を乗り越える神奈川モデルを作るべくヘルスケア・ニューフロンティアの取り組みを進めている。
そのキーワードは「未病」。健康と病気を二項対立の概念でとらえるのではなく、連続性の変化の中でとらえようという発想が「未病」である。病気を治すだけでは、超高齢社会を乗り越えることはできない。
食・運動・社会参加によって「未病」を治し、健康寿命を延伸しようというものである。
厚生労働省の激しい抵抗を突破し、政府の「健康・医療戦略」の中に、「神奈川県が進める」というまくら言葉つきではあるが、なんとか「未病」という言葉を入れるところまではこぎつけた。10月に開催した「未病サミット神奈川2015イン箱根」では、WHO、NIH、ハーバード大学、シンガポール大学などからも参加いただき、未病(MEBYO)コンセプトの共通認識を得て、世界に未病コンセプトを発信していこうとする「未病サミット神奈川宣言」を発した。
この未病プロジェクトを強力に推進するために、特に県全体の国家戦略特区というお墨付きは大きな意味を持っている。それは国内向けというより、むしろ海外への発信という意味においてである。神奈川県は「一国二制度」を実践しているように海外からは受け止められるからである。
サミットでも明らかになったが、このコンセプトを徹底していくと、医療の在り方そのものの革命的な変革にもつながってくるし、社会システムそのものの変革も必要になってくる。我々は国家戦略特区を最大限に活かしながら、未病革命をリードしていきたいと考えている。

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