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Vol.237 現場からの医療改革推進協議会第十回シンポジウム 抄録から(6)

医療ガバナンス学会 (2015年11月23日 06:00)


*このシンポジウムの聴講をご希望の場合は事前申し込みが必要です。

http://plaza.umin.ac.jp/expres/genba/symposium10.html

2015年11月23日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp


2015年11月29日(日曜日)

【Session 08】地域医療 14:20-15:40

●地域包括ケアの骨格となる論理
小松秀樹

現在、ケアについての考え方が大きく変化しつつある。病気の治癒を目指す医学モデルから、高齢者や病者の生活の質の改善を目指す生活モデルにケアシステムが転換しつつある。厚労省の目指す地域包括ケアは、医学モデルから生活モデルへの転換に他ならない。
従来、医師は、生物学的医学研究、新しい治療方法、新しい手術の開発などに大きな価値を見出してきた。ケアについての考え方の変化とともに、在宅医療、総合内科、家庭医を目指す医師が増えてきた。WHOも健康格差を解消するのに、不平等の解消と人々の日常生活条件の改善が重要であると主張するようになった。医学の中心が生物学から社会科学に移行しつつある。 医学モデルでは病気の定義、治癒などケアの目的を、現場と関わりなく、医師が学問の営為の中で決めてきた。これに対し、生活モデルはニーズすなわちケアの目的を、当人を含めて、現場に近い人たちそれぞれが感じ取る。このため、地域包括ケアのサービスを向上させるためには、現場に近いところでニーズを把握し、現場の複数のサービス提供主体が、地域固有の状況を踏まえた上で連携しなければならない。医師が医学モデルに閉じこもってふんぞり返っている限り、地域包括ケアの中心的役割を果たせることはない。実際、要介護状態の人にとって、医師よりヘルパーのサービスがはるかに重要なのである。
国は、国を頂点とするピラミッド型の階層構造によって、国→都道府県→市町村→サービス提供主体へと同じ情報を反復して流すことで、医療、介護、福祉サービスの統合を図ろうとしている。これに強制力や裁量幅の大きい補助金が伴うと、各サービス主体は行政しか見なくなり、現場のニーズに対応できなくなる。地域の状況を踏まえた横方向の連携が阻害される。地域包括ケアが目指すべきは、階層構造ではなく、ネットワーク構造による多元的アプローチである。

●成田に『医の英知』の結集を‼ -地球的課題の実験村づくりの第一歩-
宇都宮高明

〔三里塚闘争と地球的課題の実験村〕
1966年7月に新東京国際空港(現成田国際空港)の建設地が、成田市に決定されてから来年で半世紀になる。戦後日本の民主主義のあり方を問い、四半世紀を超えて闘われてきた三里塚闘争の対立構造解消のひとつの到達点が、「地球的課題の実験村構想」であった。私達が依頼した船井総合研究所は、この構想の座標軸として「健康」を取り上げた。その後成田空港を襲ったのが、サーズであり新型インフル騒動であった。
〔2009年新型インフル騒動時の上先生の講演が、成田市・医学部新設の原点〕
空港勤務者、成田市民の不安解消のため、2009年に上先生に成田で新型インフルの講演をお願いしたのをキッカケに、2010年に「地域医療とメディカルツーリズム・成田医療ハブ構想を考える」、「国際都市成田の将来と新しい医科大学構想」という2回のシンポジウムを成田市で開催したことが、成田市が医学部新設を提案する流れをつくった。
〔成田市・医学部新設の現状と今後〕
現時点では大学は未定であるが、成田特区の共同提案者である国際医療福祉大学を前提に進められている。
政府の特区方針では、成田市の医学部は、世界最高水準の国際医療拠点という観点で国際的な医療人材の育成が定められ、地域医療への貢献は謳われていない。諸々の感染症をはじめ医の地球的課題に取り組む国際拠点づくりと共に、現在の日本の医学界の課題に立ち向かう医学部新設であるべきである。
成田市は、今回の計画に市として最大約133億円(千葉県補助を要請中)の事業費の想定をし、2017年4月開学を目指している。今後とも成田市は不交付団体との予測ではあるが、これだけの市税を出す以上、開学後の大学運営を大学側だけに任せるわけにはいかないのでは。
1979年以来の医学部新設は、単に一大学の枠に留まるのではなく、日本の医の英知を成田に、との思いでお話したい。

●医師の移動と偏在
岡田直己

近年医師の偏在が問題とされている。特に田舎での医師不足が深刻だと指摘されており、これは医師が田舎から都会へと移動するからである、と説明されてきた。たしかに医師の偏在を説明する上で、医師の移動という要素は重要である。しかし、医師の移動に関する情報は今のところ数値ではっきりと示されておらず、先の説明は類推の域を越えない。
そこで筆者は、医師の移動に関するデータを集め、それを整理・解析した。今回は、この医師の移動に関するデータを示すとともに、医師の偏在について考察したい。
高齢化が進行し医療資源が不足する中、その適切な分配が求められている。医師の偏在はより深刻な問題になると予想される。
今後は類推ではなく、データに基づいた議論がより必要となってくるのではないだろ
うか。

●医療事故はこうして起こる ~コミュニケーションはマナーから~
高月清司

よく知られる通り、医療ミスもゼロにすることは出来ません。従い、医療安全ではミスや事故を減らす対策(Before)と同時に、起きてしまった後の対策(After)も重要です。当日はBefore & After両面の効果が期待できる「医療者のマナー」について考えます。 実際にいろいろな現場を見てみると「マナーの良い病院や医療者は、ミスもトラブルも少ない」ことを実感します。それは、マナーの良い人は周りに好い感情を与えると同時に周りから多くのアドバイスをもらえるOpen な雰囲気を作っているからです。
逆に優秀といわれる人やあまり好印象でない人には話しかけにくいムードが漂い、言いたいことがあっても人は一歩踏み込むのをためらってしまうのです。
今回は不幸にして医療スタッフ間のコミュニケーション不足が死亡事案につながってしまった実例を題材に、医療ミスに潜むこうした人間の心理を探りながら医療者にとって必要なマナーの基本をみていきます。
医療者のマナーは「おもてなし…」といわれる接客マナーと異なり、医療者と患者、あるいは医療者同士が皆イコールパートナー(協働者)であることを基本とします。
『マナーは人の為ならず』です。良い医療者であると同時に、今世界から注目される日本人の良いマナーも身に付けて、明るくミスの少ない風通しの良い職場作りに役立てて下さい。
最後に「女性がより美しく見えるしぐさ」についてもお話しできればと思います。

●地域医療-神奈川
松村有子

神奈川県立病院が2010年に独立行政法人化し、神奈川県立病院機構となった。現在4つの専門病院(県立がんセンター、県立こども医療センター、県立精神医療センター、県立循環器呼吸器病センター)と、1つの地域総合病院(県立足柄上病院)がある。
県内の高度専門医療、人材育成を担い、県民のための医療を提供することがその役割である。加えて、独立行政法人化してから、柔軟な病院経営を実施し、経営改善に努めることも求められている。
2014年4月から土屋了介理事長のもと、本格的な改革に乗り出した。
県立病院機構は、実質上は赤字補填で、高度医療という名目等で県から税金をいただいてきた。「県から委任された事業について堂々と県から費用をもらって実施する。
民間病院が通常、自力でやっている診療は税金をもらわずに自前でやっていきます」、という考え方の転換をはかることから始まっている。
また、人事面でも県からまだ独立できていない。県立病院は、通常の病院の診療はもとより、重粒子線治療など県のプロジェクトを遂行せねばならないため、幅広い人材が必要である。
高度専門医療にたずさわる医療機関に必要な臨床研究支援センターを設置した。おかしいと思うことに対し職員が内部から正々堂々と声をあげることができ、それを改善につなげるため、監査・コンプライアンス推進体制ができた。
神奈川県全体の医療を考えるときに、人口と規模、高齢化、受療行動の変化、県の未病へのとりくみと特区の活用、医師・看護師など人材育成、課題は数多い。しかし、知事の政策が旗振りとなり、神奈川県でなら実現可能性がある事も数多くあるので、ポテンシャルは高い。
県立病院が真に地域の医療を担うためには、その組織自身が実力をつけるしかない。
大きな公的な歴史をもつ組織が変わるのには、時間がかかる。県立病院の資質を活かしながら、一歩一歩前に進もうと取り組んでいるところである。

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