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Vol.248 妊婦体験しながら世界一周の旅 ~エストニア、ドイツ、スペイン、モロッコの報告~

医療ガバナンス学会 (2015年12月3日 06:00)


北海道大学医学部医学科4年
箱山昂汰

2015年12月3日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp


現在、私は大学を休学し、妊婦体験ジャケットを携えて世界一周の旅をしている。この旅を通して世界の人々、とりわけ男性に妊婦体験をしてもらい、妊娠や出産、子育てに関して考えるきっかけを提供したい。
私の世界一周の旅はおよそ400日間を予定している。記事を執筆している時点で、243日が経過した。これまでにアジア、ヨーロッパ、アフリカの26か国で活動を実施し、合計669人に妊婦体験をしていただいた。今回のレポートではバルト三国から北アフリカに至るまでの道中で特に印象的であった4つの国について紹介したい。

【エストニア】妊婦体験をしてもらった人数 22人
エストニアの首都タリンは、これまでで一番美しい街であった。透き通るような青空の下、おとぎ話に出てきそうな教会や広場があり、高台に登ると整った街並みのむこうにバルト海が見えた。エストニアを含むバルト三国は、北欧の美しい街並みと東欧並みの物価の安さを併せ持っており、貧乏バックパッカーには嬉しい旅先である。
街歩きの楽しいこの街で、妊婦体験人数通算500人を達成することができた。500人目はデンマーク人のルベンさんという方で、喜びのあまり抱き着いてしばらく頬ずりをしていた。この世界放浪の中で最低でも1000人を目標としているので、折り返しを迎えられて本当に嬉しかったのだ。
しかし、次に訪れた街タルトゥでは考え込んでしまう出来事があった。タルトゥはエストニアの南東部に位置する学術都市で、ここの学生さんたちに妊婦体験をしてもらおうと考えていた。タリンから少し浮かれていた私は、妊婦体験ジャケットに加え、ふざけて付け髭もして、強引に勧誘をしていたような気がする。すると、一人の学生さんから「あなたのやっていることの意味が分からない」と言われた。その人からは「どの男性も良い父親になろうと既に思っている。さらに君のように世界の秩序を変えようとするのは見当違いで、自らを変えていくべきではないのか」とデカルトの言葉などを引用しながら諭された。この人に言いたいことはたくさんあったのだが、流暢な英語を聞き取るのに精いっぱいで、しどろもどろにしか発言できない自分が悔しかった。そして何より、痛いところをつかれたと思った。ちょこちょこと道を歩いてほんの数人に声をかけて行く。こんなちっぽけな試みに意味があるのか、今でも良く分からない。

http://expres.umin.jp/mric/mric_248-1.pdf

【ドイツ】妊婦体験をしてもらった人数 6人
ベルリンは、設備が整っていて落ち着いている雰囲気がどこか日本の街を彷彿とさせた。しかし、ベルリンの壁や戦争にまつわる数多くの博物館はこの街独特のものであった。ちょうど日本の終戦記念日の頃に訪れたが、史跡を巡る中でドイツの戦争に対する考え方に触れ、日本がした戦争について更に知りたいと思った。
この街で妊婦体験の勧誘を道端でするのは、かなり難易度が高かった。多くの人がしっかりと話を聞いてくれて賛同もしてくれるが、いざ着けてみないかと提案すると用事があると言われて断られた。アジアやアフリカの道端では暇そうなおじさんたちが必ずいて、そういう人たちがノリノリで着けてくれたりするのだが、ヨーロッパの都市部では忙しそうな人が多かった。
そして、この街では特に寂しさを感じた。私は現地の人との出会いを目的に旅をしているが、ヨーロッパでは人との心の距離を感じる。一方でアジアやアフリカでは放っておいて欲しい時でさえ笑顔で絡んでくる現地の人がいて、鬱陶しいと思うこともあるけれど、どこか楽しかった。建物や芸術、史跡など見どころが多いけれど、知識の不足している私にはヨーロッパの旅は難しい気がした。

http://expres.umin.jp/mric/mric_248-2.pdf

【スペイン】妊婦体験をしてもらった人数 10人
バレンシアに滞在中、22歳の誕生日を迎えた。一人旅をしているため、お祝いをしてくれる知り合いの人などおらず寂しい誕生日になると思っていた。しかし、当日になって何もしないままでは悔しいので、普段は参加しないようなPub Crawl(居酒屋巡りのようなもの)に宿で同室だったドイツ人を誘って突入した。すると、世界各国の酔っぱらいたちに誕生日であることを後悔するくらい強烈かつ盛大にお祝いしてもらえた。パブでもみくちゃにされながら、自分次第でどうとでも転ぶのだから、挑戦し続けて行こうと心に決めた誕生日であった。
スペインではかの有名な奇祭トマティーナにも参加した。日本人もたくさん集まるイベントでグループになってお祭りに参加する人が多いのだが、せっかくのスペインなのに日本人と騒ぐのももったいないので、会場となるブニョールへ単身乗り込んだ。前夜祭では、少しもスペイン語が話せなかったけれど地元のおじいちゃんと意気投合して、なんと家に泊めてもらえた。本番のトマト投げは、あまりにも人が多くて押しつぶされそうになるし、飛んでくるトマトが意外と硬くて非常に痛かった。目に当たった時は眼球破裂を疑うほどだった。でももちろん、トマトを投げての大騒ぎはクレイジーで楽しかった!

http://expres.umin.jp/mric/mric_248-3.pdf

【モロッコ】妊婦体験をしてもらった人数 44人
舟でジブラルタル海峡を渡り、モロッコの港街タンジェに着くと要塞のような壁が見えた。タンジェは旅の中で少しずつ読み進めていたPaulo CoelhoのThe Alchemistの舞台ともなっている憧れの街だ。本の中にもあるとおり港町独特の治安の悪そうな感じが印象的で、これから始まるアフリカ縦断を予感させた。ここで泊まった宿では南京虫に遭遇してしまい、腕と足、おしりを数十か所噛まれて、しばらく痒くて痛くて仕方がなかった。
イスラム教の国であるモロッコでは多くの人が、コーランには「妊婦さんやお母さんは一番に大事にすべし」と書いてあると語ってくれた。イランやトルコ、アゼルバイジャンでも同じことを言ってくれる人がいて、こんな共通点があったのはイスラム教だけだ。
家々が青色に染められていることで有名なシャウエンで活動をしていた時、上記のコーランの一節を紹介しつつ妊婦体験の重要性について深く理解を示してくれる青年がいた。私も嬉しくなって「ムスリムのそんな考え方が大好きです」と答えていた。すると、「イスラム教は恐い宗教ではなく、妊婦さんを大事にする優しい宗教です。これから色々な人にこのことを伝えてほしい」と彼は言っていた。ISなど一部の人たちによるテロリズムのせいで、イスラム教の国や宗教自体の印象が悪くなってしまっていることを多くの現地の人が感じているようであった。
日本でテレビやネットからの情報を吸収しているだけでは、イスラム教の国の人々のびっくりするくらいの優しさに気付くことはなかったと思う。これからも私なりに放浪の旅を続け、体当たりで世界を勉強して行きたい。

http://expres.umin.jp/mric/mric_248-4.pdf

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