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臨時 vol 260 「日本のライフサイエンス研究強化の起点に-最先端研究開発支援プログラムの見直しに期待-」

医療ガバナンス学会 (2009年9月25日 09:00)


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-最先端研究開発支援プログラムの見直しに期待-
ベイラー研究所フォートワースキャンパス
ディレクター
松本慎一
◆極めて重大な決断
鳩山内閣組閣直後の9月19日に、文部科学省の新副大臣である鈴木寛氏は最先端研究開発支援プログラムの見直しを発表した(2009年9月19日付け毎日新聞東京夕刊)。このプログラムは、すでに採択研究課題が決定しており、この時点での見直しは異例と言える。
このプログラムは1件当たり30億から150億円、全30件総額2700億円という日本でかつてない規模の大型研究助成である。また、研究者中心という方針を打ち出し、複数年に渡る自由度の高い研究資金とした。これに呼応して500件以上もの研究課題の応募があった。
しかし、採択前からライフサイエンス分野の研究者らを中心に、選考過程に問題があると異論があがっていた。主な論点は(1)異例の大規模プロジェクトにも関わらず、審査期間が僅か1ヶ月という短期間であったこと、(2)単一の審査チームが申請された全プロジェクトを評価せざるを得なく、専門家間の十分な議論がなされたとは言えないことである。同様な指摘は実際に審査を担当した委員からも挙がっている。この選考過程に関する問題点は既報(MRIC臨時230号)で述べているので参照されたい。
今回の見直しという判断は、日本の今後のライフサイエンス分野の発展を考える上でも極めて重要なものと考える。見直しの理由に、選考課程の問題が指摘されている。本稿では米国立衛生研究所(NIH)でのグラント(競争的研究費)の選考過程を例示しながら考察したい。
◆米国立衛生研究所(NIH)の研究費の選考過程
研究課題の選考は科学技術立国を目指す戦略上、極めて重要である。このため、米国では、研究課題の選考には日本では考えられないくらいの労力を費やしている。米国で、ライフサイエンス分野での公的研究費はNIHから支給される。厳正な選考が行われることが知られているためにNIHからのグラントを獲得することは、一人前の研究者への登竜門とされる。研究課題選考方法の概略は以下の通りである。
審査でもっとも重要な役割を担うのがスタディセクションである。スタディセクションとは、300を超える専門分野に分かれた審査員からなるグループを指し、委託任命された一般研究者によって構成される集団である。スタディセクションの委員は、透明性を確保するために公開されている。各スタディセクションには1人の博士号を持つ生命科学研究の経験者である事務官が科学評価官としてつき、スタディセクションの運営から申請者のフォローまで行う。スタディセクションの委員は審議会が開催される約6週間前に申請書を受け取る。必要があれば、スタディセクションには、臨時メンバーが追加されたり、外部に意見を求めたりすることもある。
日本と大きく異なる点は、申請者は、グラントを提出した後であっても、スタディセクションが開催されるまでの間に、追加実験の結果や業績など、申請書に追加することができ、申請中であっても最新の情報を収集する仕組みがあることである。
スタディセクションが開催される1週間前に、下位50%の申請書は足切りされるが、足切りされた申請者でも、申請書に対する批評を書面で受け取ることができる。
スタディセクションは3日間ほど缶詰になって1次審査がおこなわれ、最終的に各課題に点数がつけられる。申請者にまず、点数が知らされ、その6週間後に詳しい審査結果が知らされる。3ヶ月後に、二次審査がおこなわれる。二次審査では、一次審査の正当性、目標達成の可能性、支援金額の妥当性、学術価値の優先度、科学倫理などが専門分野のエキスパート以外の人たちが加わり評価され最終決定となる。最終的に申請が通った研究者には数ヶ月後に研究費が支給されることになるが、通常、申請から研究費の交付までには10ヶ月程度かかる。
◆NIHグラントの特徴
1) 研究者を育成する審査過程
NIH のグラントの場合、不採択であった場合にも、その理由が示され、研究者はそれをもとに次回に再提出が行える。 不採択の理由は、建設的な内容で記載されていることが多く、次回の申請時に内容が大いに参考になる。また、一度の申請でグラントを獲得できる方がまれであり、何度かの再提出を繰り返すことで研究申請の質が向上し、その結果として獲得につながる方が一般的である。
2) 最新の生命医学研究を熟知したエキスパートが運営
申請書の作成から審査の過程および運営には、 NIH の役人である科学評価官とプログラムディレクターが実施する。ともに博士号を持った生命医学研究の経験者であり、常に最新の研究の動向を熟知しているのは当然とされている。
3) 研究費をとることは研究者にとって死活問題
NIHの最も一般的なグラントでは、3~5年間の期間で、年間$200,000~$300,000程度である。さらに、人件費や間接経費がこのグラントによって賄われる。即ち、研究者は自分の給料のみならず、スタッフの給料を研究費から出すこととなり、研究費が取れないということはスタッフを雇えないということになる。他に収入源が無い場合、研究費を取れないと失業という実に厳しい世界である。このため、研究者は必死になって研究費申請を行うのである。つまり、大型研究費が取れることは、若き研究者を雇用することを可能とし、次世代を担う研究者を育成することにもなる。研究者の研究に対するモチベーションをあげ、研究分野を活気づけ相乗効果を生むことにもつながる。
◆NIHグラントと最先端研究開発支援プログラムの比較
大型研究費を投じて研究を支援している米国においても、NIHの一般的なグラントから見ても選考過程は、通常10ヶ月を要している。今回、最先端研究開発支援プログラムの選考課程が、1ヶ月というのはあまりに短い。専門分野のエキスパートが数日間議論し、その後専門外の審査官で妥当性を検討するするNIHのグラントに対して、このプログラムは単一審査チームですべてを審査したことは、やはり無理がある。日本で初めての大型グラントの選考課程が、NIHの選考課程と比較すると、成熟していないことは明らかである。
NIHの仕組みがそのまま日本に適しているとは必ずしも言えないが、研究者を育成する審査過程や生命科学研究のエキス

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