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臨時 vol 261 「民主党には現実認識に立脚した医療政策を期待」

医療ガバナンス学会 (2009年9月25日 10:01)


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     政治全般、医療を語る言語体系、医療の経営形態の視点から考える
                  虎の門病院泌尿器科 小松秀樹
初出 ソネットエムスリー http://www.m3.com/iryoIshin/article/107293/
●情けは人のためならず:民主党の存続には自民党が不可欠
 近年、日本の政治は迷走を続けており、日本の長期低落傾向の一因となってい
る。新政権に望むのはまずは安定である。安定が得られた後に、大きな戦略に基
づく着実な歩みを期待したい。当面、民主党政権を安定させるために最も必要な
ことは、しっかりした自民党の存在である。民主党が行き詰った場合に日本の政
治機構を保全するためにも、自民党の存在は重要である。
 政治とは「われわれ」と「やつら」を区別することから始まり、「われわれ」
と「やつら」の間のやりとりで動いていく。民主党が政党として存続するために
は、「やつら」すなわち、有力な政敵が不可欠である。自民党が今回の敗北から
立ち直れるかどうか分からない。知人の自民党の元幹部は、私に、「自民党は危
ない。敗因が分かっていない。敗因を、メディアを含む外部に求めている。自分
たちが被害者だと思っている」と語った。
 当面、民主党が留意すべきは、自民党を壊さないようにすることである。ソ連
の崩壊による冷戦の終結は、新たな混乱を生んだ。自民党が壊れると、必然的に
民主党が分裂し、混乱が拡大する。自民党に手を突っ込んで議員を引き抜くこと
は厳につつしむべきである。今後の自民党を担うべき若い議員が大量に落選した
状況で、引き抜き作戦が成功すると自民党を壊しかねない。
 政治の動きの根本を、中国戦国時代の韓非子は「勢」とした。「勢」は時に不
可逆的破壊を引き起こす。民意は、激情という非合理を多量に含む。この民意に
よってもたらされた「勢」を、適切にコントロールするのがプロの政治家ではな
いか。民主党指導者には、自民党再建の中核になる政治家と、今後の政治の進め
方について、大きな議論をすることを勧めたい。成り行き任せの、結果の見えな
い叩き合いなどするべきではない。数に任せて自民党を粗末にすることがあって
はならない。
●政界再編:長持ちする対立軸なし
 政界再編は原理的に無理がある。日本の保守政治家は基本的に政策について信
念を持たない。これは悪口ではなく、褒め言葉である。歴史家のE. H. カーは、
イギリスのインテリ特有の持って回った悪口の形で、「信念」を揶揄している。
「マッカーシズムという現象は、外交政策では自分固有の見解を持ってはならな
いとアメリカ人に納得させるために経なければならない必要な段階となった」
(ジョナサン・ハスラム『誠実という悪徳』現代思潮新社)。政治家は思想家で
はない。合意形成のプロであって、信念のプロではない。現に、今回の選挙での
民主党と自民党の政策は似通っていた。いずれも小泉政権の基本政策とは大きく
異なる。比較的均質な国民からなる日本で、持続的な対立軸など形成できるはず
がない。保守政治家がどの政党(民主党、自民党、国民新党、みんなの党)に所
属しているかは偶発的なものにすぎない。国民新党やみんなの党はサイズが小さ
すぎて長持ちするとは思えない。いずれも、政治の安定のための第三極にはなれ
ない。
 今回の総選挙で民主党は勝ち過ぎだった。移ろいやすい日本国民の性癖から見
ても、次の選挙では民主党への逆風が起こる。安定のための対策は今から講じて
おかねばならない。日本の政治が最も安定するのは、公明党が民主党政権に協力
する場合である。水が低いところに流れるように、いずれそうなるのではないか。
公明党は通常の政党と成り立ちが異質であり、今後も消滅することは考えられな
い。一部に公明党に対する嫌悪感があるのは間違いない。それでも、創価学会と
の関係の透明化を求めるなどの圧力をかけつつ、協力を求めることになると予想
する。
●マニフェスト、あるいは、強いられたポピュリズム
 今回の選挙では、マニフェストが脚光を浴びた。マニフェストは日本の政治風
土の影響を受けて、現代日本風のカタチを取る。日本国民の投票行動は、政治家
にポピュリズムを強いる。国民の政治的判断力と予想される反応を考慮せずに、
国民が受け入れると思えない正論を説き続けるとすれば、政治家としては失格で
ある。起草者は、虚実ぎりぎりの記述の中に主張を込める。マニフェストは強い
られたポピュリズムの表現でもある。理念上のあるべき「マニフェスト」ではな
く、「日本型マニフェスト09年モデル」として扱うべきである。マニフェトより
議会での議論がはるかに重要である。マニフェストに引きずられて政治判断を誤っ
てはならない。
●医療政策は、規範ではなく、現実の認識に基づくべし
 民主党のマニフェストの目玉は、金額の大きさからみて子ども手当てである。
子育て支援を主張してきた公明党も、ここまでの思い切った提案をしなかった。
民主党は、少子高齢化を日本の最重要課題と考えていることを大きくアピールし
た。子ども手当て、公立高校無料化、大学生への奨学金拡充が医療政策に優先さ
れたように見える。医療は最優先課題として大々的に取り上げられなかったが、
私は、落胆していない。
 医療政策を政治的言語で大議論すると弊害が出る。政治的言語は「あるべき論」
を競う。定性的な「あるべき論」は不毛の対立をもたらす。何より落ち着いた定
量的な議論が必要である。例えば、割り当てられた予算でどのようなサービスが
可能かを考えるべきである。費用が足りない場合、安易に現場に無理を強いるよ
うな状況ではない。現実の認識に基づいて、どのサービスを選択するのか、どの
サービスをやめるのか考えるべきである。議論に規範を持ち込むべきではない。
●規範優先の議論のもたらすもの
 日本の新型インフルエンザへの対応は、規範優先で現実に基づいていなかった。
危機を煽って、世界の専門家の間で無意味だとされていた”水際作戦”を強行し
た。”水際作戦”の遂行を規範化して、冷静な議論を抑
制した。反対意見による
歯止めがなかったために、意味のない停留措置で人権侵害を引き起こし、日本の
国際的評価を下げ、国益を損ねた。
 実際の作業でも、医療現場のガウンテクニックの原則を無視して、防護服を着
たまま複数の飛行機の機内を一日中歩きまわった。これによって、インフルエン
ザを伝播させた可能性さえある。知人の看護師は、ガウンや手袋の使い方を見て、
唖然としたという。検疫の指揮を執った担当官に、非常時だから、医療現場の常
識と異なっても黙っているように言われたという。彼らも、水際作戦が役に立た
ないことを知っていたのではないか。インフルエンザの防止ではなく、義務を果
たしたというアリバイ作りが目的だったのではないか。言い換えれば、現実より
規範が医系技官を動かしたように見える。
 関西圏での新型インフルエンザの発生で「舞い上がった」担当者たちは、実質
的に強制力を持った現実無視の事務連絡を連発し、医療現場を疲弊させた。行政
発の風評被害で、関西圏に大きな経済的被害をもたらした。感染拡大後の対応に
ついての議論まで抑制し、対策を遅らせた。
 厚労省の医系技官の思考と行動は、大戦時の日本軍を思わせる。レイテ、イン
パール等々、現実と乖離した目標を規範化することで、膨大な兵士を徒に死に追
いやった。民主党の政治家には、政治的言語も規範優先であり、医療についての
議論に適していないことを自覚していただきたい。科学的、帰納の思考に政治家
は慣れ親しんでいない。現実を知る現場の医療者の意見を聞くことを勧めたい。
●公共財としての医療の経営形態をどうするか
 医療費抑制が医療崩壊の最大の原因とする意見があるが、単に医療費を増額す
るだけで問題が解決するとは思えない。
 日本では、実質的無保険者が増えているとはいえ、おおむね公的医療保険で医
療が提供されている(公共財としての医療)。一方で、例えば病院医療の場合、
約80%は民間の医療機関によって担われている(民間経済活動としての医療)。
病院への受診制限はなく、病院間には明らかに競争がある。
 競争があるにもかかわらず、公的病院を中心に、病院の施設が、しばしば、公
共事業や各種の補助金で建築されている。民間医療機関にも補助金が出ていない
わけではないが、補助金は経営者にとって極めて使いにくいと同時に、官による
支配の道具にもなっている。公的病院は不採算医療を担うというステレオタイプ
の見解があるが、民間病院の中にも、地域の基幹病院として救急医療を担い、高
度の医療を提供しているところがある。
 私立病院側から、公共事業としての病院建築や補助金をやめて、その分を診療
報酬でまかなえるようにすべきであるという意見や、経営努力の選択肢を増やす
ために混合診療を解禁すべきであるとの意見がでるのは当然のことであろう。
 議論がそれるが、混合診療の禁止については、2007年11月7日の東京地裁判決
で国が敗訴した。判決理由は、法令の文言からは、保険外併用療養費制度に該当
するもの以外の混合診療について、一切、保険からの療養の給付をさせないとは
解釈できないという技術的なものだった。東京地裁の判決は、混合診療のメリッ
ト、デメリットを総合的に考慮したものではない。また、判決はあくまで個別例
についての判断である。
 この裁判で問題となった保険外診療は、腎癌に対する活性化自己リンパ球移入
療法である。この治療法は、20年ほど前にNIHのローゼンバーグ医師が開発した
LAK 療法に端を発する。当時、世界的に大きな注目を集め、日本でも大々的に追
試されたが、治療成績が悪く、有益な治療法とは見なされなかった。私自身も追
試に参加し、惨憺たる結果に落胆した。その後も似たような治療法が現れたが、
有益だと評価されたものを知らない。混合診療を解禁すると、評価の遅れなどの
理由で、保険診療の組み込まれていない有望な治療を実施できるというメリット
がある。逆に、金儲け目的の効果のない治療法が蔓延したり、本来保険診療にす
べき有効な医療が自由診療に留め置かれたりする可能性もある。混合診療の解禁
は保険診療の根幹にかかわる問題なので、慎重な議論が必要である。
 話を戻す。日本の病院医療の80%を民間医療機関が担っていることを考えると、
補助金を削減し、診療報酬だけで医療機関がやっていけるようにせよとする要求、
補助金や税制などを公的病院と民間病院を同じ条件にせよという要求には説得力
がある。実際、社会保険病院は、財政が逼迫していた旧政管健保が購入した土地
と建物をただで借りていたという。筋が通らないということで、2009年2月、社
会保険病院を売却する方針が決められた。これに対し、「民主党政策集
INDEX2009」では、地域で中核的役割を果たしている公的病院は社会保険病院を
含めて存続させるとしている。
 現状では、自治体病院の大半は赤字である。赤字は、不採算覚悟の政策医療を
行っているという理由だけでは説明ができない。自治体病院の経営責任者は、自
治体の首長である。病院経営は首長の主たる業務ではない。病院の事務職員は役
所を見ながら仕事をする。さらに、一部の地方議員は、議員の権限外であっても、
法律上の問題があっても、病院に無理難題を押し付ける。あるいは病院を私物化
する。
 医療経営の問題は簡単ではない。公的病院を現在の形で温存することが、国民
への医療提供に益すると断言できる状況にはない。自治体病院を再建する方法と
して、地方公営企業法全部適用や地方独立行政法人化が提唱されているが、それ
でも経営者への制約は大きい。十分な権限を持った経営者が、適切なガバナンス
の下に病院経営に専念できる制度を真剣に考える必要がある。

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