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臨時 vol 263 「政府による新型インフルエンザ対策の見直しに関する提言」

医療ガバナンス学会 (2009年9月25日 18:04)


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新型インフルエンザから国民を守る会
共同代表:森兼啓太(東北大学大学院感染制御・検査診断学分野)、森澤雄司(自治医科大学感染制御部部)
ワーキングチーム:
海野信也(北里大学産科婦人科・教授)、大磯義一郎(弁護士・医師)、小原まみ子(亀田総合病院腎臓高血圧内科・部長)、嘉山孝正(山形大学・医学部長)、上 昌広(東京大学医科学研究所・特任准教授)、木戸寛孝(医療志民の会・事務局長)、久住英二(ナビタスクリニック立川・院長)、児玉有子(東京大学医科学研究所・看護師・保健師)、小林一彦(JR東京総合病院血液内科・医長)、境田正樹(弁護士)、高畑紀一(細菌性髄膜炎から子どもたちを守る会・事務局長)、田口空一郎(構想日本)、谷岡芳人(大村市民病院・院長)、谷本哲也(医薬品医療機器総合機構)、土屋了介(国立がんセンター中央病院・院長)、長尾和宏(長尾クリニック・院長)、堀成美(聖路加看護大学)
 2009年春に発生した新型インフルエンザに対して、日本政府は様々な対策を行いました。それに対して、今回の政府の対応は現場の混乱を招いたのではないかという批判の声も上がっています。今回の経験から日本が学んだことを、秋冬に起こる可能性が高いとされる更なる感染拡大への対策に生かさなければなりません。そのためには、国の対策の主たる目的を新型インフルエンザの「まん延防止」としている「新型インフルエンザ対策行動計画」とそれに関連する感染症関連各種法規が大きな障害になります。対策の目的は、「ピーク時の感染者数を抑えること」と「感染者数のピークを遅らせること」であり、そのことが医療機関に集中する負担(患者数)を分散させ、医療の破綻を防いだり、ワクチン接種が開始可能となるまでの時間を稼いだりして、罹患・重症患者数を減らすことにつながります。
 以下に、社会的介入・医療・情報収集と公開の3つに分けて、新型インフルエンザ対策の考え方および提言を記します。その各項目を踏まえた、検疫法・感染症法・予防接種法など感染症関連各種法規の改正、および政府が策定した新型インフルエンザ対策行動計画の修正を政府に対し提言します。
【1】社会的介入について
<考え方>
 撲滅に成功した天然痘は、1)症状によって他の疾患と区別できる、2)潜伏期に感染性がない、3)ほぼ100%ワクチンが効く4)ヒトが唯一の宿主である、といった特徴を持っていましたが、インフルエンザ(致死率の高さに関わらず季節性も新型も含む)は、1)症状によって他の疾患と区別できない、2)潜伏期に感染性がある、3)季節性インフルエンザワクチンの効果は、型が合っていない場合10~30%、型が合っていても40~80%程度しかない(新型インフルエンザワクチンも同程度の効果と推測されている)[i]、4)様々な生物に共通する感染症である、といった特徴を持っているため、発生防止も感染拡大防止も不可能なのです。新型インフルエンザ対策において、「まん延防止」「感染拡大防止」「封じ込め」「国内侵入防止」のような誤解を招く用語の使用を避けるべきですし、「1例も漏らしてはならない」という発想で広範な社会的介入を行うことは、投入するコスト・マンパワーや発生する社会的・経済的ダメージに対してあまりにわずかな効果しか得られないと言えるでしょう。
 「ピーク時の感染者数を減らす」「感染者数ピークを遅らせる[ii]」という発想から、社会的・経済的ダメージとのバランスを考慮しつつ、社会的介入を検討する必要があります。「ピーク時の感染者数を減らす」「感染者数ピークを遅らせる」ことにより、1)医療機関に集中する負担(患者数)を分散させること、2)ワクチン接種が開始可能となるまでの時間を稼ぎ、罹患・重症患者数を減らすことの2つが可能になると考えられます。
<提言>
1.水際対策
 インフルエンザの疾病としての特徴を考えれば、潜伏期にすり抜けて入国した患者が相当数存在するはずです。厚労省が4月末から5月にかけて行った機内検疫・隔離・停留といった措置が、「国内侵入防止」に果たした効果は極めて小さく、むしろ身柄の拘束に近い人権侵害を行ったという弊害のほうが大きいと言わざるを得ません[iii],[iv]。国内で感染したことが明らかである症例の発症日は、最も早い人で5月5日ですので、この人を感染させた海外からの入国者(あるいはその人に感染させた別の人)は、4月28日に機内検疫を開始してわずか数日で(潜伏期の間に)入国していることは確実です。この経験を踏まえ、厚労省は、隔離・停留が、まん延の防止に効果を有する場合に限り、隔離・停留を行うことができることとし、検疫法の患者に対する隔離・停留に関する罰則を削除しなければなりません。
 一方、入国者は感染症その他の疾患にかかっているかどうかの検査や医療を求めることができ、検疫所長は、検疫所に設置された診療所において可能な範囲の検査や医療を提供しなければならないこととする必要があるでしょう。また、検疫所は、感染症その他の疾患に関する症状・予防・治療の方法や、渡航先における医療へのアクセス等の情報を提供しなければなりません。
2.「新型インフルエンザ等感染症」定義の見直し
 2009年9月20日現在、2009年新型インフルエンザA(H1N1)は感染症法[v]における「新型インフルエンザ等感染症」から外されていません。一旦当該感染症に指定してしまうと容易に除外することができないのがその主因と思われます。従って、「新型インフルエンザ等感染症」の定義や、その指定・指定解除の要件を見直すことを提言します。
厚生労働大臣が指定するものを「新型インフルエンザ等感染症」と定義し、その指定と指定の解除については、都道府県知事、公衆衛生に関し学識経験を有する者、医療に関し学識経験を有する者、法律に関し学識経験を有する者その他の学識経験を有する者及び医師その他の医療関係者は、厚生労働大臣に意見を述べることができることとします。厚生労働大臣は、この指定と指定の解除に当たっては、当該疾病のまん延による死亡率、当該疾病にかかった場合の致死率及び病状の程度その他の事情を総合的に勘案するとともに、上記のような意見並びに海外における当該疾病の状況及びこれに関する施策の動向を参酌しなければなりません。厚生労働大臣は、この指定の後、短い期間(1ヶ月程度)ごとに、新型インフルエンザ等感染症に対するこの法律の施行の状況について検討を加え、必要に応じて指定の解除その他必要な措置を講じなければなりません。
3.学校・保育所、事業所等の閉鎖、知事による就業制限の対象から除外
 知事からの相談などもあり、厚労省は、近畿地方のかなり広範囲にわたる学校・保育所等の閉鎖を指示したため、学校、保育所等の現場の判断が尊重されたとはいえない状況でしたが、疾患の重症度など、その時点における状況に応じて柔軟に対応する必要があります。厚労省は、多様な選択肢を国民に示すため、新型インフルエンザの重症度を3段階程度に分類して、学校・保育所、事業所等の閉鎖を推奨するか否かのガイドラインを示します。国や地方自治体は、その時々の状況に応じて柔軟に対応し、一方的な指示を下すのではなく、現場の混乱に配慮して学校、保育所、事業所等の判断を尊重しなければなりません。都道府県知事が行
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