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臨時 vol 265 「医療従事者の、医療従事者による、国民のための新型インフルエンザ対策」

医療ガバナンス学会 (2009年9月26日 20:41)


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森兼啓太
東北大学大学院医学系研究科 感染制御・検査診断学分野 講師
http://medg.jp
2009年9月中旬、世界保健機構(WHO)のインフルエンザ対策部門を訪問した。本部門は主に3つの機能を有している。すなわち、インフルエンザウイルスの変異に関する情報収集とワクチンに適したウイルス株の分与に関する調整、各国のインフルエンザ流行状況の監視や評価、そして情報公開である。
国立感染症研究所を経てWHOにて働く医務官・進藤奈邦子氏を知らない人は少ないであろう。進藤氏は現在、各国のインフルエンザ流行状況の監視や評価を行なう部門の責任者として大活躍している。同じ日本人として、そして時期は異なるが同じ感染研・情報センターに勤務したものとして、進藤氏の存在や活躍を大変誇りに思う。
さて、進藤氏の招きで訪問したWHOにおいて、週に1度行なわれる世界各国の新型インフルエンザ流行状況の情報共有と評価に関するミーティングに同席させて頂いた。10名弱のスタッフが集まり、WHOの地域事務局や各国政府から公表されている流行状況(患者数や死亡率など)を概観する。
その中で、日本の流行状況もさることながら、死亡率が非常に低いことに興味が集まった。世界各国の把握されている感染者数に対する死亡者数は、多くの国で0.5~1%程度である。把握されていない感染者数から計算した死亡率も、0.05%程度であり、これが今回の新型インフルエンザ(2009年A/H1N1)が季節性インフルエンザとその深刻さ(Severity)において大きな違いはないとされるゆえんである。
さて、日本における致死率はどの程度であろうか?厚労省が把握している新型インフルエンザA(H1N1)確定患者数は、7月下旬に5024名が発表されて以降、公表されていない。WHOへの報告も行なわれているのであろうが、WHOが国別の報告数を公表しなくなったので、一般には公開されない。それはさておき、8月に入り積極的に新型インフルエンザのPCRによる確定診断を行なわなくなったことを考えると、最終報告である5000人の2倍にはならないと推測される。
新型インフルエンザによる死亡者は、その死因と新型インフルエンザとの関連性に大いに疑問のある症例があるものの、現在までにおよそ20名である。報告された感染者数と1万人とすれば、死亡率は0.2%である。これは多くの国からの報告よりもやや低い値である。
実際の感染者数はどのくらいであろうか?実は日本は感染者数の推測を行なう上で大変有効なしくみをすでに持っている。約5000か所の定点医療機関から寄せられる、インフルエンザ様症状を呈した患者の数を報告するシステムである。インフルエンザは5類定点疾患であり、このサーベイランスは年中稼働しており、全国津々浦々の医療機関が毎週患者数を報告している。これらの医療機関の献身的な努力により、日本のインフルエンザの流行は国全体の規模が把握できるという、世界でもまれなシステムとなっている。先日のWHOのミーティングでもまずこの点に賞賛の声が聞かれた。
このシステムを使用すれば、全国の患者数が推定できる。詳細は省略するが、2009年5月中旬から第37週(9月14~20日)までのインフルエンザ累積患者数は、約85万人である。そのほとんどが新型インフルエンザの患者であることは、別の調査によって明らかにされている。
この数にもとづいた、日本における新型インフルエンザ患者の致死率は、約0.002%である。0.2%でも、0.02%でもない。桁が違う、誤植だと思われるかたは、20を100万で割ってみて頂きたい。これが日本の現状であり、一部の専門家が危機感をあおるがごとく指摘するような季節性インフルの致死率(0.05~0.1%)と同等という状況では、決してない。
WHOのミーティングで日本の分析になった際に、筆者はこの数値を示した。WHOのスタッフは一様に驚愕し、日本はなぜそんなに致死率が低いのか、と問う。それに対して、筆者は胸を張って答えた。「国民皆保険による医療アクセスの良さと、アクセス先であるクリニックや病院の医療従事者の献身的な努力のたまものである」と。
折しも、日本感染症学会が新型インフルエンザの診断治療に関する指針を発出し、軽症者も含めた積極的な抗ウイルス薬の投与を推奨している。これには、いわゆるコンビニ受診を助長するという否定的な意見もあり、筆者自身も全例に抗ウイルス薬の投与が必要だとは考えていない。しかし、基礎疾患など重症化のリスクがない症例にも重症者は出ており、抗ウイルス薬の投与が必要かどうかの見極めは現時点で困難である。
日本は季節性インフルエンザに対しても抗ウイルス薬を多く使用している国である。国民が加入できる医療保険制度では、インフルエンザの治療薬として抗ウイルス薬の保険適応が認められている。諸外国の死亡例には、医療へのアクセスが悪いために抗ウイルス薬の投与が遅れ、重症化してから初めて医療を受けたケースも少なくない。
8月の沖縄におけるインフルエンザの流行では、多くの医療施設で外来患者が増加し、平日も時間外救急外来のような忙しさであったと聞く。しかし、当地の医療従事者の献身的な努力でこの難局を乗り切ろうとしている。沖縄の定点あたりの患者発生数は減少している。
では、国が日本の新型インフルエンザに対して果たした役割は何であろうか?
まず、2004年からこの2月まで5年間、新型インフルエンザ対策行動計画を立案し、2度にわたる修正をおこなった。この作業には筆者も従事したが、鳥インフルエンザA(H5N1)を強く意識しながらも、どのような病原性をもった新型インフルエンザが来るかわからない中で、流行の進行に応じた対策を立案し、最終的なゴールを死亡者とピーク時の感染者を減らすことに置いた。当時考え得る最善の策であり、専門家と厚労省の担当官が一緒に苦労しながら策定したプランであった。行動計画の策定と共に評価される成果は、様々な予算確保、特に抗ウイルス薬の備蓄である。2008年度末までに国民の30%程度を治療できる量が備蓄されており、今回の新型インフルエンザA(H1N1)に対して安心して抗ウイルス薬を処方できる要因として高く評価されよう。
ところが、2009年の新型インフルエンザA(H1N1)発生に対する国の果たした役割となると、全く話しが異なる。水際対策・検疫重視による初期対応は、国内での集団発生に目を向ける機会を失わせ、大混乱の中で国内の患者発生を迎えた。その後に定めた「一国二制度」とも言える地域ごとの対応の相違は、まだ流行がはじまっていな

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