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臨時vol 268 「選定療養導入による時間外受診への影響について」

医療ガバナンス学会 (2009年9月29日 08:44)


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-200床以上の国公立病院における検討-

江原朗
小児科医

 

●要旨

軽症患者のいわゆる「コンビニ受診」を抑制するために,選定療養(時間外診
療)による保険外負担を徴収する医療機関が現れてきた.しかし,軽症患者の受
診抑制に限らず,緊急を要する重症患者の受診が抑制されてしまう危険性も否定
できない.そこで,200床以上の国公立病院について,保険外負担の徴収前後に
おける時間外受診数の変化について検討を行った.

保険外負担徴収後の各月期の受診数(中央値)は,徴収前の80%(外来),98%
(入院)であった.統計学的には,外来の受診が有意に減少したが,入院では有
意な減少は認められなかった.しかし,現時点ではこうした制度を導入した施設
数は少なく,今後さらなる検討が必要である.

時間外の救急外来は,軽症者の「コンビニ受診」により,重症患者の治療に支
障を来しかねない状況にある.このため,いくつかの病院においては,選定療養
(時間外診療)による保険外の自己負担を徴収し,軽症者の受診抑制を図る動き
が出てきた1-3).選定療養(時間外診療)とは,緊急ではない時間外受診におい
て,保険診療による自己負担とは別に,保険外負担の徴収を認める制度である4).

しかし,窓口負担の増加は,入院を要する重症患者の受診さえも抑制してしま
う危険性がある5).そこで,地域の基幹病院である200床以上の国公立病院に開
示請求を行い,選定療養(時間外診療)による保険外負担の徴収が時間外の受診
数(外来・入院)にどのような影響を与えるのか検討することにした.

●方法

平成20年10月,選定療養(時間外診療)による保険外負担の徴収を開始した医
療機関について,各地の厚生局に開示請求を行った2).そして,うち200床以上
の国公立病院12施設に対して,保険外負担の徴収前2年間および徴収後1年間にお
ける各月期の時間外受診数(外来・入院)に関する開示請求を行った(平成21年
5月15日).なお,国公立病院を対象としたのは,時間外受診に関する資料を開
示請求で入手することができるためである.

保険外負担の徴収前後における受診数の変化は,以下のように求めた.
(受診比率,%)=(徴収開始後の各月期の受診数)÷(前年と前々年の同月期の受診数の平均)×100(%)

こうして得られた各月期の受診比率を外来と入院に分けて解析した.受診数の
増減に関する統計的な検定は,受診比率が100%(保険外負担の徴収により受診数
の変化がない)との帰無仮説を設定し,符号検定を用いて行った(危険度は5%と
した).

●結果

開示請求の結果を表に示す.200床以上の12の国公立病院が選定療養(時間外
診療)による保険外負担を徴収し,各施設における徴収の最高額は850円から
8400円であった(初・再診の違いや時間帯の違いで徴収額が異なる施設が存在し
たので,最高額を表では記載している).このうち,4医療機関では,時間外の
外来・入院受診数に関する資料が開示されなかった(平成21年8月3日現在).し
たがって,月期別に外来・入院の時間外受診件数の変化を解析できたのは,8医
療機関,92か月期分であった(一部の施設は,該当する月期の資料を有していな
かったため,12か月期×8医療機関=96か月期分とはならなかった).

保険外負担徴収の前後における,医療機関および各月期別の時間外受診比率を
図に示す.横軸に外来,縦軸に入院の変化を示している.

保険外負担徴収後における時間外の外来受診数は,徴収前・前々年の同月期の
平均に比べて78%(中央値)および80%(平均)であり,有意な減少が認められ
た(P<0.001).一方,時間外の入院数は,徴収前・前々年の同月期の平均の98%
(中央値)および100%(平均)であり,統計学的にも有意な減少は認めなかっ
た(P=0.76).しかし,保険外負担徴収後の徴収前に対する受診比率(外来・入
院)は,最小値で51%および59%,最大値で132%および157%とばらつきが大き
かった.

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●考察

保険外負担の徴収により,時間外受診が減少することは十分予想される.しか
し,重症で入院を要する患者が受診を控えてしまう危険性も否定できない5).し
たがって,こうした制度の導入にあたっては,通達4)にあるように,「緊急やむ
を得ない事情による時間外の受診については従前通り診療報酬点数上の時間外加
算の対象となり,患者からの(著者注:保険外の)費用徴収は認められない」こ
とを周知させなければならない.

本研究においては,選定療養(時間外診療)による保険外負担の徴収が,外来
受診数を減少させるものの,時間外の入院数を減らすとは統計学的に言えなかっ
た.こうした制度の導入施設数が少ないこと,保険外負担の徴収前後における受
診数の比率にばらつきが大きいことから,現時点では「保険外負担の徴収は時間
外の入院数を減らさない」と一般的な結論を下すことはできない.しかし,保険
外負担の徴収が乏しい時間外の医療資源を温存する方法のひとつとして保険外負
担の徴収を検討する余地は残されているのではないだろうか.

もちろん,各医療機関における保険外負担の最高額が850円から8400円とばら
つきが大きい.また,時間外受診において大半を占める乳幼児6)が保険外負担の
徴収対象外である施設もあり,保険外負担の徴収方法にも統一性がない.したがっ
て,今後こうした制度を導入する施設が増加してきた場合には,保険外負担の徴
収額や徴収対象年齢など,徴収条件を検討する必要があろう.特に,受診抑制に
より重症患者の予後が悪化しないことを再確認することは必須である.

なお,選定療養による保険外負担の徴収は,受診抑制だけではなく,受診時間
帯を変更させる手段としても効果があると考えられる.時間外とはいえ,午前0
時以前の準夜帯においては,多くの成人が就寝していない.したがって,日中に
受診できない患者の診療を,0時以降の深夜帯から0時以前の準夜帯に誘導できれ
ば,当直体制で維持されている救急外来の医師・看護師の疲弊を軽減することが
可能である.具体的には,準夜帯の保険外の自己負担金を低額に,深夜帯の自己
負担金を高額にすることで,受診する時間帯を深夜帯から準夜帯に誘導できるの
ではないだろうか.重症患者が受診できない悲劇を防ぎ,医療者の疲弊を最小限
にする方法としては,一考の余地があると思われる.

医療資源は無尽蔵ではない.限りある資源を有効活用するために,制度設計を
どうするのか.医療政策の設計者と病院の管理者に負わされた責任は重い.

表 選定療養(時間外診療)による保険外負担の徴収を厚生局に報告した200床
以上の国公立病院(平成20年10月現在)
http://pediatrics.news.coocan.jp/MRIC/sentei_ryoyo.pdf

施設名             県名  徴収開始 病床数 徴収の最高額
共立蒲原総合病院*       静岡  H12.2.1   320    850
一宮市立市民病院*       愛知  H12.7.1   530  4410
北海道大学病院*        北海道 H12.10.2 936    650
国立病院機構宇多野病院     京都  H16.7.1   400    893
国立国際医療センター国府台病院 千葉  H17.10.1 772  1000
磐田市立総合病院        静岡  H18.11.1 500  6950
福島県立医科大学附属病院    福島  H20.3.1   778  7300
焼津市立総合病院        静岡  H20.4.1   572  4800
市立島田市民病院        静岡  H20.5.7   550  4800
藤枝市立総合病院        静岡  H20.5.7   654  4800
山形大学医学部附属病院*    山形  H20.6.1   604  8400
榛原総合病院          静岡  H20.6.2   408  4800
*時間外の受診数(外来・入院)に関する資料の開示がなされなかった医療機関
(平成21年8月3日現在)

●参考文献
1) 読売新聞.軽症なのに救急外来…123病院で「加算金」徴収,2008(平成20)年12月28日.
2) 江原朗.時間外受診における保険外負担(選定療養)徴収について:都道府県,病床規模,徴収開始時期別の解析.日本医師会雑誌,In Press.
3) 島田市民病院.救急医療の崩壊を防ぐために?:志太榛原地域救急医療体制協議会の役割 特集記事 第9号 2008(平成20)年9月16日発行.
http://www.municipal-hospital.shimada.shizuoka.jp/030-kakushu-annai/050-kouhousi/tokushuu/tokushuu-009.html
4) 厚生労働省保険局医療課長.「「療担規則及び薬担規則並びに療担基準に基づき厚生労働大臣が定める掲示事項等」及び「保険外併用療養費に係る厚生労働大臣が定める医薬品等」の実施上の留意事項について」等の一部改正について.保医発第0328001号,2008(平成20)年3月28日.
http://www.mhlw.go.jp/topics/2008/03/dl/tp0305-1ay_0001.pdf
5) Manning WG, Leibowitz A, Goldberg GA et al. A controlled trial of the effect of a prepaid group practice on use of services. N Engl J Med 1984;310:1505-1510.
6) 田中哲郎,市川光太郎,山田至康他.二次医療圏毎の小児救急医療体制の現状評価に関する研究.2001(平成
)年度厚生労働省研究.
http://www.mhlw.go.jp/topics/2002/07/dl/tp0719-2c.pdf

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