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Vol.026 「世界で唯一」に世界中の研究者が注目するフクシマ

医療ガバナンス学会 (2016年1月26日 15:00)


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※このコラムはグローバルメディア日本ビジネスプレス(JB press)に掲載されたものを転載したものです。

http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/45531

森田 知宏

2016年1月26日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp

第1回から第3回まで、ベラルーシでの勉強会で見聞した放射線に関する世界の常識について書いてきた。今回はその勉強会を通じて、私たち福島県民がすべきと感じたことを述べたい。それは、「記録に残すこと」だ。

福島第一原子力発電所事故の記録を残す意義は、大きく3つある。

まず、世界中が情報を求めていることだ。ベラルーシでも、現地の人の暮らしはどうか、放射線レベルはどうなのか、など「Fukushima」の状態に興味がある人は多かった。

一方で、公開されている情報はまだ少ない。現地ではすでに常識となっていることでも、世界では知られていない。

●日本人も知らない多くの事実

福島の住民が放射線被爆に怯えながら暮らしていると考えている人が、世界には大勢いる。日本人でさえ、浜通りを案内したときに「意外と普通ですね」と感想を述べる人が多い。

これまで発表された記録では、福島県浜通りに住む人のセシウムによる内部被曝量は健康被害を来すほどの量ではないことが分かっている。

しかし、情報を知らないと、先入観のまま印象が固まってしまう。前回述べた被災地民への差別問題などに対応するためには、正しい情報が必要だ。

世界中が福島の情報を知りたがるのは、チェルノブイリ事故当時の記録が不十分だという理由もある。

チェルノブイリでの原発事故当時は、ソビエト連邦の末期であったこともあり、戸籍などに基づく情報はほとんど残っていない。

急性放射線被曝で亡くなった人数もはっきりと把握できていないし、除染事業に関わった人の健康被害も不明だ。

被災地の高齢化問題などは、叙情的に語られるのみで、統計的データで語られることはない。ベラルーシ勉強会の代表であるジャック・ルシャール(ICRP=国際放射線防護委員会委員)氏も、福島の原子力災害の特徴を「詳細な記録が残っていること」だと述べた。

次に、このような災害の記録は今後の対策にも役立つ。

●頻度の低さが情報価値を高める

原子力災害は頻度の低い災害である。福島第一原発以前の大規模原子力災害は、1986年のチェルノブイリ原発事故にまで遡る。21世紀に起きる原子力災害対策に活用できる情報は少ない。そのため、一つひとつの記録の価値が重要となる。

頻度が低いとはいえ、原子力災害は将来必ず起きると考えた方がいい。今回のように自然災害後に起きる可能性もあるし、昨今では核兵器がテロリストの手に渡る危険も否定できない。

現に、米国では、原子力災害対策はテロ対策として捉えている文献が多い。こうした有事の際、役立つのは福島で記録された事実である。

したがって、福島で起きていることは大小にかかわらず記録することが望ましい。例えば、食品の流通を管理したことで原発事故後に内部被曝量を防ぐことができたというのは貴重な知見だ。
さらに、被災地域の高齢化問題も、先進諸国では共通問題だ。これらの記録は、被災地域に対して適切な支援を行うために有用な情報である。

21世紀に起きる原子力災害に備えるために、福島の記録が貢献できることは大きい。

最後に、情報発信が復興の助けになることも重要だ。

情報があれば、それに魅力を感じる人が集まって来る。相馬地方にある南相馬市立総合病院は好例だ。

●研修医が集まる南相馬市立病院

この病院は、震災後から情報発信を盛んに行った。ホールボディカウンターを使った内部被曝検査の結果や、震災直後の取り組みを、論文や各種メディアで発信し続けている。

その成果は、研修医の応募数に表れている。2012年に募集を開始して以後、この病院で働く研修医の数は、2人→2人→4人といずれも定員一杯で推移しており、来年も4人の研修医が勤務予定である。

4年連続で定員が埋まった研修病院は、福島県では会津の有名病院である竹田綜合病院くらいである。

研修医の動機は、最初は「被災地医療を見たい」「現地で貢献したい」というものが多かったが、現在では「面白そう」という動機の研修医も出てきた。出身地も、千葉、東京、静岡、大阪、熊本など多彩である。

世界からのニーズのため、将来の事故に備えるため、現地の復興に役立つため。引き続き福島について情報を発信していきたい。

森田 知宏
相馬中央病院内科医2012年3月東京大学医学部医学科卒業。亀田総合病院にて初期研修後、2014年4月より現職。

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