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Vol.027 中国・ロシアも福島に注目、ただ英語情報は玉石混交

医療ガバナンス学会 (2016年1月27日 06:00)


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※このコラムはグローバルメディア日本ビジネスプレス(JB press)に掲載されたものを転載したものです。

http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/45693

森田 知宏

2016年1月27日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp

これまで4回にわたって、ベラルーシで行われた勉強会について書いてきた。最後に、福島復興へ向けて必要なことをまとめたい。

まずは、情報を記録することだ。福島原発事故に関する論文は、「pubmed」という論文検索サイトで調べると、1000報以上ある。

チェルノブイリ事故の論文が4000報程度であることを考えると、大量だと言えるだろう。さらに、福島原発事故を報じた記事も大量にある。

しかし、このうちのほとんどが被曝量に関するものである。

●大切な専門家同士の連携

ベラルーシでの勉強会で参加者の興味を引いたのは、福島の被曝量だけでなく、高齢化などの社会問題についてであった。このような、原発災害が引き金を引いた社会構造の変化についてはまだ記録不足だ。

高齢化の進行や仮設住宅や復興住宅におけるコミュニティの崩壊などの問題は、孤独死や糖尿病の悪化など健康問題を引き起こすことが危惧されている。これは原子力災害だけでなく、高齢化社会にもヒントとなる分野であり、記録に残さなければいけない。

次に、専門家同士が連携することだ。

ベラルーシでは、原子力の専門家と教育者との緊密な連携を見た。その結果生まれたのが、高校生に食物の被曝量を計算させるという、実践的な放射線教育のプログラムだ。
大変残念なのは、この教育プログラムが始まるまでに、原発事故から10年以上経過していたことだ。このことは、現在までベラルーシで放射線被害への偏見が残っている一因だろう。

客観的な事実を積み重ねただけでは、被災地への言われなき偏見には打ち勝てない。福島でも、原子力や医学の専門家と、教育、文化、宗教の専門家との交流が望まれる。

幸い、チェルノブイリの時代と違い、SNSやイベントを通じて多くの専門家同士の交流が生まれている。

例えば、坪倉正治医師と、「はじめての福島学」などの著者である社会学者の開沼博氏とのトークショーが、南相馬市の市民団体「ベテランママの会」主催で開催された。このような交流が今後も継続・発展することを期待したい。

●世界交流の必要性

世界との交流も忘れてはいけない。

ベラルーシの勉強会では、フランスをはじめ多くの国々が福島について興味を持ってくれた。先日も、スロバキアの研究者から、「津波の写真を使わせてほしい」とフェースブックを通じて連絡が来た。

スロバキアはエネルギー資源に乏しく、電力の半分以上を原発でまかなっており、福島への関心は高い。

世界中で原発開発を進める中国やロシアも、福島に興味を持っている。

彼らは、3.11後には「日本の原発よりも安全」を謳い文句に原発シェアの拡大を図ってきた。同時に、原発災害の実態を把握したいという思いも強い。ロシアが原発汚染水の浄化に協力的なのも、そういった思惑があってのことだ。

しかし、英語での福島の情報は、日本語以上に玉石混交である。したがって、福島現地からの情報はできるだけ英語に翻訳して発信することが望ましい。

先述の「ベテランママの会」は、坪倉医師との協力のうえ「福島県南相馬発・坪倉正治先生のよくわかる放射線教室」という冊子を作った。

一般向けに放射線被曝の情報をまとめたものだが、英語翻訳版も作成されている。ベラルーシの勉強会でも、その英語冊子を関係者が喜んで持って帰ったのを見て、やはり英語で作成することが重要だと感じた。

●風化させないために

現地の情報をできるだけ記録し、様々な専門家と交流し、世界に向けて発信すること、これが福島復興へ向けた処方箋である。

折しも、もうすぐ震災5周年であり、様々なイベントやメディアでの特集も予想される。福島第一原発事故後に起きたことを記録、発信する良い機会である。

逆にこの機を逃せば、その後は東京オリンピックが控えている。福島の報道は脇に押しやられ、オリンピック後には忘れ去られてしまう可能性も高い。

今後も、福島の復興へ向けて、できる限りのことを行っていきたい。

森田 知宏
相馬中央病院内科医2012年3月東京大学医学部医学科卒業。亀田総合病院にて初期研修後、2014年4月より現職。

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