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MRIC 臨時 vol 276 「新型インフルエンザワクチンに思うこと」

医療ガバナンス学会 (2009年10月5日 08:12)


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- 10 mL-バイアルなんてウソでしょ~! -

森澤雄司
自治医科大学附属病院・感染制御部長、感染症科(兼任)科長、感染免疫学准教授
栃木県新型インフルエンザ対策専門委員、厚生労働大臣政策室アドバイザー

残念至極であり、誤聞であることを願うばかりであるが、やはり新型インフル
エンザワクチンが(少なくとも一部は)10-mL バイアルで供給される方針となっ
たらしい。製剤の生産効率を優先したということであり、苦渋の選択であったと
は思われるものの、返す返すも残念でならない。

一般の方々にも理解していただく必要があるので、10-mL バイアルを使用す
るとどのようなことになるのか、少し諄くなるが説明したい。一般的にはインフ
ルエンザワクチンは 0.5 mL を皮下注射(海外では筋肉注射)とすることから、
10-mL バイアルは 20 人分ということになり、小児では接種量がさらに少ないの
でもっと多くの患者に 1 バイアルから投与されることとなる。接種の際の注意
事項として季節性インフルエンザワクチンの添付文書に記載されている内容を抜
粋すると、a) 接種用器具は、ガンマ線などにより滅菌されたディスポーザブル
(使い捨て単)品を用いる。 b) 容器の栓およびその周囲をアルコールで消毒し
た後、所要量を注射器内に吸引する。雑菌が迷入しないよう注意、また、栓を取
り外し、あるいは他の容器に移し使用しない。 c) 注射針の先端が血管内に入っ
ていないことを確認。 d) 注射針および注射筒は、被接種者ごとに取り換える。
等とされており、逆に言うとこれらの点に注意しなければ事故を生じる可能性が
あるということで、バイアルから小分けして接種する際は、(そんなことはあっ
てはならないが)誤って注射針を使いまわしたり、ワクチンを取り分けた注射器
が汚染した後に保管されている間に環境由来の雑菌が増殖したりする場合がある
かもしれない。先進国で使用されているワクチンは、薬液が出荷されたときには
すでに注射針のついた注射筒に入っていて、”あとは打つだけ” というプレフィ
ルドタイプが少なくない。取り扱いが簡易であるだけでなく、ヒューマンエラー
を生じる要素が少ない。しかし、今回の新型インフルエンザワクチンが 10-mL
バイアルで供給されるということであれば、これらのエラーの可能性が出てくる
かもしれない。医療安全を進める立場でいうならば、物理的にエラーを生じるこ
とが出来ない仕組みが重要であり、”個人個人が注意すればよい” というのは
対策ではない。これまでわが国ではインフルエンザワクチンは 1-mL バイアルで
供給されるのが一般的で、分割して投与する習慣が現場に根付いているが、
10-mL バイアルは同じバイアルから分注しなければならない回数はずっと多くな
ることからエラーを一層に誘発しやすくなる。また、今回のワクチンは数千万人
に接種するという話であり、エラーが生じる可能性は数万回に 1 回であっても
許容しづらい。

ここまでの記載では一般の方に大きな不安を与えたことと思う。しかし、それ
でも実は私の意見はより多くの方に新型インフルエンザワクチンを接種していた
だき、個人の重症化を予防する観点だけでなく、社会防衛を達成できるような高
い接種率を達成したいと考えている。であればこそ、今回の 10-mL バイアルと
いうのは残念でならない。現実的な医療安全の考え方で言えば、次に考えられる
対策は、被接種者が当事者意識をもって関与してもらうことであり、内心忸怩た
るものがあるが、「その針は清潔で安全ですか?」と接種を受ける際に本人から
確認していただく必要があるかもしれない。執拗いがそのような事態に陥ってい
るのが残念至極であるけれども。

ちなみに新型インフルエンザワクチン接種は保健所や保健センターだけでなく、
一般医療機関でも実施される方針である。そのような場合に 10-mL バイアルが
使用されるようであれば、予約した方々には必ず時間を守っていただきたい。予
定の人数が揃わないためにバイアルの中の残液が廃棄されるような事態になれば、
数を揃えるための苦肉の策である 10-mL バイアルが本末転倒に足を引っ張る理
由にもなりかねない。

感情的で散文的な物言いに過ぎるのかもしれないが、もし 10-mL バイアルに
よる供給を決定された方が三日三晩も寝ずに苦しんでこの結論に至ったのであれ
ば止むを得ないかもしれないがけれど、机上の計算に基いた資料だけをみて数字
に飛びついたのであれば(そんな気がしてしまうところが寂しいところであるが)、
国家の危機的な状況に対応するための計画としては軽率この上なく、杜撰極まる
と申し上げざる外にない、と個人的には慙愧に耐えない。ちなみに “先進国で
唯一” というレッテルは聞き飽きた。単純に本当は “先進国でない” だけで
はないか。

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