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臨時 vol 277 「抗インフルエンザ薬の考え方」

医療ガバナンス学会 (2009年10月6日 10:13)


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森澤雄司
自治医科大学附属病院・感染制御部長、感染症科(兼任)科長、感染免疫学准教授
栃木県新型インフルエンザ対策専門委員、厚生労働大臣政策室アドバイザー

 

現場における混乱を防ぐため、自治医科大学附属病院としては、新型インフル
エンザの診療にあたる医師に向けて、以下のような文書を配布して対応するよう
にお願いしている。御参考になれば幸いである。

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平成 21 年 9 月 28 日(月)
インフルエンザ診療担当医 各位

自治医科大学附属病院における抗インフルエンザ薬処方の基本方針
病院長、感染制御部長・感染症科科長

新型インフルエンザ症例が増加していることを背景に、抗インフルエンザ薬の
処方について様々な議論がなされています。厚生労働省新型インフルエンザ対策
本部は 9 月 18 日付の事務連絡において、「1. 臨床所見や地域における感染の
拡がり等の疫学情報等から総合的に判断した上で、医師が抗インフルエンザウイ
ルス薬による治療の開始が必要と認める場合には、治療開始にあたって簡易迅速
検査や PCR 検査の実施は必須ではないこと。 2. 診療報酬上も、抗インフルエ
ンザウイルス薬の投与にあたり簡易迅速検査の実施は必須でないこと。」と述べ
ており、また、日本感染症学会では 9 月 15 日付の提言「一般医療機関におけ
る新型インフルエンザへの対応について・第 2 版」などで「タミフルやリレン
ザ等の抗インフルエンザ薬で早期に積極的に治療すべきです」と強調しています。
一方、世界保健機関(WHO)では 9 月 25 日付けの文書 briefing note 12 で耐
性ウイルス出現への危惧から「抗ウイルス薬を予防目的で使用することは推奨し
ない」としており、抗インフルエンザ薬の使用については様々な立場がある状況
になっています。

この際、自治医科大学附属病院としては、診察した医師が患者のリスク、重症
度などに応じて抗インフルエンザ薬を処方すべきであるという立場を明確にした
いと考えます。自治医科大学・新型インフルエンザ対策本部が作成して、職員専
用ホームページに掲載している「自治医科大学(栃木)における新型インフルエ
ンザ対策(2009 年 9 月 9 日版)」に基き、以下のように提唱します。

****************************************

抗インフルエンザ治療薬の適応

・抗インフルエンザ治療薬の保有数にも限りがあり、リスクの低い症例におい
ては原則的にアセトアミノフェン投与などの対症療法でよいと考えるが、抗イン
フルエンザ薬を処方するか否かは(迅速検査の結果に関わらず)担当医の判断に
よる。
(必要により感染症科へコンサルテーションしてもよい。)
?重篤な症例
?心疾患や気管支喘息などの基礎疾患や背景があり、重篤化の可能性がある症例
*慢性肺疾患(気管支喘息、慢性閉塞性肺疾患、など)、免疫不全状態(T 細胞
性免疫不全など)、慢性心疾患(先天性心疾患、冠動脈疾患、など)、糖尿病、
肥満、5 才未満の小児、65 才超の高齢者、妊娠
?担当医が、患者の背景から特に薬物治療を必要と判断した症例
・患者への抗インフルンエザ薬の予防投与は原則として実施しない。なお、当院
のみに通院している妊婦が新型インフルエンザ症例に明らかに濃厚に接触した、
など、特別な事由により予防投与を例外的に検討する必要があると判断した場合
は感染制御部(感染症科)に相談して手順などの指示を受ける。
・なお、抗インフルエンザ薬の処方に関して、薬剤部からチェック(疑義照会)
がある。

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(以上、引用終り)

ただし、前述したような状況に鑑みて、患者が強く抗インフルエンザ薬の処方
を希望された場合には、説得してまで処方を断る必要はないと考えますが、わが
国における備蓄量が人口の約 40% をカバーできるとはいっても、インフルエン
ザの診断が臨床判断に従うべきである以上、現状ですべての疑わしい症例に投与
すれば流行の極期に薬が不足する事態にもなりかねません。総合的な判断が必要
であると考えます。

繰り返しになりますが、原則的には診察した医師の判断に従います。現場に困
難な判断を強いるのは恐縮ですが、御理解いただき、先生方の臨床判断を尊重さ
せていただきたいと考えます。また、この病院の方針についても患者の理解を得
るよう努めていただきますようにお願い申し上げます。

(以上。)

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