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Vol.056 看護師などの派遣禁止 むしろ医療の質に悪影響

医療ガバナンス学会 (2016年3月2日 06:00)


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梅村聡(内科医、前参院議員、元厚生労働大臣政務官)
(この文章は『ロハス・メディカル』3月号に掲載されるものです)

2016年3月2日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp

医療機関に対して、看護師などの有資格者(医療専門職)を人材派遣することは、原則として禁じられています。派遣スタッフが入るとチーム医療の質が保てないという表向きの理由と裏腹に、質の悪い人材紹介業者が跋扈して、医療機関を疲弊させています。本当に「派遣禁止」が必要なのか、再検討してもよいのではないでしょうか。

全国どこでも、看護師などの医療資格者が不足しています。箱(病院や診療所)だけあってもスタッフがいなければ機能せず、しかも箱を遊ばせるとあっという間に赤字が積み上がるというのが医療の特徴なので、応募が殺到するような都市部にある一部の大病院を除くと、どこでもスタッフ確保に四苦八苦しています。

そして現在、多くの医療機関は、人材紹介業者に頼らなければ必要なスタッフを確保できません。その紹介料は、雇う人の年収の2割から3割というのが相場です。

各医療機関のニーズや特色に合った人が紹介され、そのまま何年も働いてもらえるなら、この紹介料は決して高くないと思います。しかしそうは問屋が卸しません。
●見分けられない

現実には、色々と問題のあるような人が、何の警告もなく紹介されてきます。困っているから紹介を頼んでいる医療機関側に、何か怪しいから雇わないなどという選択肢はありません。しかし当然のことながら、雇ってはみたものの働き続けてもらったら患者さんに被害が及びかねないという状況になることも一定割合で生じるわけで、その場合は解雇に伴うコストがかかるのに加えて、再度紹介を受けなければならないという踏んだり蹴ったりです。

一方の人材紹介業者は、再紹介すれば売上が増えますし、解雇されて再び「商品」となった人たちを別の医療機関に紹介することでも売上が立ちます。その人たちは、再紹介先でも似たようなことになるのでしょう。もちろん良心的でしっかり努力している人材紹介会社もありますが、その「努力している人材紹介会社」を医療機関側が見分ける方法は、今のところありません。
●チームの質を担保?

この現状、あまりにも医療機関側にリスクが偏り過ぎていないでしょうか。医療機関側にリスクが生じるということは、当然患者さん側にも悪影響(良質な医療が提供されないリスク)が及ぶことになります。

これがもし人材派遣の形態であれば、スタッフ側の原因で働き続けられなくなった場合には、医療機関側は派遣元に人の交代を求めることができます。そうなれば派遣する側も、適性に欠ける人を紹介するのは控えるようになるでしょう。

ところが、「労働者派遣法」とその施行令で、「病院・診療所等における医療関連業務」は労働者派遣が禁じられています。

禁止の理由は、「適正な医療の提供のため、専門職であるチームの構成員が互いの能力や治療方針などを把握し合い、十分な意思疎通の下に業務を遂行することが不可欠なので、派遣労働者では支障が生じかねない」ということだそうです。

これ、何もしなくてもスタッフが充足するなら、そういう発想にも一理あるかと思います。しかし現実には、紹介を受けないと人員定数が充足せず、そして変な人が紹介されてくることで、チーム医療にむしろ支障が出ているのです。

この発想の背景には「直接雇用」=「責任を持つ人材」、「派遣」=「責任をとらない人材」という、20年くらい前の古臭い思想が横たわっています。

昔に戻れと言うつもりはありませんし戻すこともできませんけれど、医師に関して15年ほど前までは大学の医局が実質的に人材派遣機能を担っていました。医局長や教授が、適性やそれぞれの事情をきちんと見極めて、カツカツの人繰りをしていたものです。

その時と現在と、どちらが医療機関にとってありがたかったかを考えても、派遣を禁止することでチームの質が担保される、というのは全く根拠のない話ではないでしょうか。むしろ紹介側にも応分の責任を果たさせる方が、チームの質は担保されると思います。

現行法制上も、6カ月以内に直接雇用に移行するという前提なら派遣を受けることは可能になっているのですが、あくまで派遣は「原則禁止」であり、「派遣」という言葉のイメージも悪いためか、派遣でも構わないと登録するような人は普通いません。実態としては、最初から紹介に頼るしかないのです。

●業者にも質への関与を

全体の質を担保するためには、少し余るくらい有資格者が存在するようにして、変な人は現場で患者さんと接することのないようにしておくべきです。しかし現在の日本でそれを望むのは、ないものねだりです。紹介でいくつもの医療機関を転々としている中に一定の割合で変な人はいる、という前提で考える必要があります。

変な人が紹介されてきて雇ってしまった場合、解雇とか再紹介とかのコストがかかるため、大して戦力にならない人のために戦力になる人の何倍も人件費を払うのと同じことになります。

医療機関の収入は公定価格の診療報酬に依存しており、そんな所に費用を使うような想定で値決めされていません。本来であれば医療の質を高めたり、働いているスタッフの待遇を改善したりするのに使われるべき費用を、人材紹介業者に横取りされているようなものです。

必要な費用を横取りされているのは患者さんにも不利益ですし、もっと言えば患者さんが変な人と遭遇しリスクにさらされる可能性すらあるということです。

労働者保護は大切なことです。しかし今や医療の有資格者に限れば圧倒的な売り手市場で、「派遣」だからといって意に染まない場所で意に染まない条件で働かされ、搾取されるような状況にはありません。

派遣でお互いに「お試し」して、相性が良かったら直接雇用に移行するという形態をメインの流れとするのが、公益にかなうのではないでしょうか。何よりも患者さんにとっての利益が大きいと思います。

読者の皆さんにも考えていただければ幸いです。

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