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Vol.067 公立病院の建設費がなぜ民間の2倍になるのか ~コスト高でも文句が出にくいことが最大の問題~

医療ガバナンス学会 (2016年3月14日 06:00)


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この原稿はJBPRESSからの転載です。

http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/46009

福島県いわき市議会議員公認会計士
吉田 実貴人

2016年3月14日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp

自治体病院のハコモノ建設費は、民間よりも圧倒的に高いと言われています。どうして高くなるのでしょうか。それは、将来どのように影響を及ぼすのでしょうか。自治体病院が経営不安に陥ったとき、誰が助けてくれるのでしょうか。

すべての結果に最終責任を持つのは、地域住民なのです――。

◆国も問題視するが・・・

過去に自治体病院共済会が調査したところによると、公立病院は民間病院に比べて、建設費が2倍になると言われています。

自治体病院を指導監督する総務省でも、自治体病院の建設コスト増について気にかけており、平成27(2015)年3月に公表した新公立病院改革ガイドラインでは、病院施設・設備整備費を抑制すべきとしています。以下、引用です。

「建築単価の抑制を図るとともに、近年の建設費上昇の動向を踏まえた整備時期の検討、民間病院・公的病院の状況も踏まえた整備面積の精査等により整備費の抑制に取り組むべきである。また、病院施設・整備に際しては、整備費のみならず供用開始後の維持管理費の抑制を図ることも重要」

平成27年10月には同Q&Aで、建築単価の上限単価を36万円/㎡とすべきと公表しました。

しかし、最近では、北茨城市民病院が2014年末に建替・再オープンし、その建設コストは3820万円/床と、自治体病院共済会調査の民間病院平均1600万円/床・公立病院平均3300万円/床を、いずれも超えるものでした。

総務省の定める上限36万円/㎡さえも、はるかに超える51万円/㎡でした。今後も、松戸市立病院やいわき市立総合磐城共立病院の建替工事が進行中です。

松戸市立病院は、4467万円/床、57万円/㎡で、いわき市立総合磐城共立病院は、5743万円/床、62万円/m2で、いずれの建設工事も異次元のコスト増になるようです。

総務省は自治体病院の建設費を「民間病院並みの水準」とするよう指示しているのに、どうしてこんなことになるでしょうか。なぜ公立は民間に比べ圧倒的なコスト増となるのか、なぜ歯止めが効かないのでしょうか。

http://expres.umin.jp/mric/mric_yoshida1.pdf

自治体病院の建築コストが高くなる理由・背景を、それぞれの関係者の立場から整理してみました。

◆借金が多いほど補助金が増える

民間であれば、将来倒産しないよう、借入返済を減らすため建設コストを下げようとします※4。しかし自治体病院は、最終赤字でもオカネが足りなくなっても、最終的には自治体本体が面倒を見てくれるため、倒産・破綻することはありません※5。

また、自治体病院の借入金の一定割合が、国から自治体に税金投入される※6という、甘い罠があります。不思議な仕組みですが、借入金が多ければ多いほど、国から自治体への補助金が増えるのです。

自治体から見ると、高額な建物が、国からの補助金を使って、より安くお買い得に、手に入るように見えるのです。

要約すると、関係者のほとんどが高コストであっても、多機能で高いレベルの医療サービスを望んでおり、少なくともこれに反対しにくいということです。

建設を進めたいサイドは、「寄らしむべし、知らしむべからず」を続けることで、望む建設を進めることができます。今の住民は、耳を閉じ、目つむり、対立しないことで、当面の望む医療サービスを実現することができるでしょう。

http://expres.umin.jp/mric/mric_yoshida2.pdf

関係者らは悪意を持っているわけではなく、自らの希望に正直なだけです。しかし、正直者の判断や行動が正しいとは限りません。

自治体病院の将来経営を考えずに、高コストの建設費を受容すれば、借金返済と運営費用が増え、それが病院経営の赤字とキャッシュ不足につながります。前述のとおり、最終的には自治体本体が、自治体病院の面倒を見ることとなり、本体の重いお荷物になります。

全国の民間病院を見回すと明らかですが、医療サービス水準が高い医療機関の多くは、経営状態が良好です。

これは医療サービス水準が高いから経営が良好なのではなく、経営状態が良好だから、医療スタッフへの処遇改善や、設備投資を継続的に行うことができるため、その果実として医療サービス水準が良好に維持できるのです。

◆経営悪化はスタッフのモラルに波及

悪い経営状態では、必要なタイミングで適切な設備投資ができず、様々なコストカットせざるをえないなどの悪循環を呼び、最終的に医療スタッフのモラルにも悪影響を及ぼします。

「医は仁術」の言葉通り、魅力がない病院から医療スタッフが立ち去ってしまえば、診療自体が継続できなくなる恐れがあります。次世代の子供たちは、高額な自治体病院建設によるこれらのリスクを覚悟する必要があります。

しかし、判断するための情報が適切に届いているとは思えませんし、子供たちには止める力もありません。

自治体が整備する病院などのインフラ投資は、今後50年間利用するもので、さらに運用コストは建設コストの数倍かかると言われています。そしてすべての結果は、地方自治体の住民が負うことになります。

このような極めて重要な投資意思決定は、政局のムードや定性的で感情的な判断に左右されてはなりません。定量的なデータとロジックに基づき、良識的に判断することが必要です。

そして、民主主義の根本に立ち返り、違う立場からの意見を互いに戦わせ、最終責任を持つ住民がそれをチェックしていくこと、そういう住民意識となれるかどうかが、自治体病院を高額で建替えるかどうかの判断のターニングポイントなのです。

※1 出典:病院建設費と健全経営 「自治体病院共済会」調査
※2 出典:総務省 新公立病院改革ガイドラインQ&A(平成27年10月16日)
※3 建設コストの他、医療機器のリース料やエネルギーサービスプロバイダーの初期コスト約40億円が含まれていませんが、ここでは公表額402億円を使用しました。
※4 民間では、建設コスト増による建物減価償却費の増加や借金の元利償還金額の増加を嫌い、病院建設による収支とキャッシュフローを考えて、生き残りをかけて建設コストを下げる強力なインセンティブが働きます。
※5 自治体病院は、最終赤字になっても一般会計から一般会計繰入により補填されます。自治体病院の経営の一義的な責任は病院事業管理者(地方公営企業法全部適用の場合)にありますが、最終的な責任は、地方自治体本体にあります。
※6 基本的には、病院債の毎年の元利償還金額の1/2が、自治体の基準財政需要額に算入され、普通地方交付税の算定根拠となります。

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