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臨時 vol 289 「「新型インフルエンザに対するワクチン接種の基本方針」を読む」

医療ガバナンス学会 (2009年10月19日 17:19)


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東京大学医科学研究所
先端医療社会コミュニケーションシステム社会連携研究部門
上昌広

※今回の記事は村上龍氏が主宰する Japan Mail MediaJMMで配信した文面を加筆
修正しました。

10月1日、政府は新型インフルエンザに対するワクチン接種の基本方針を発表
しました。過去の連載で、新型インフルエンザ対策は民主党と厚労省医系技官の
対立が明らかで、民主党政権の実力を占う試金石だと述べてきました。

結論から申し上げますが、長妻厚労大臣は医系技官に言いくるめられた感じで
す。主な論点をご紹介しましょう。

【ワクチンの確保は十分か】

厚労省によれば、合計7,700万人のワクチンが確保出来る見通しです。具体的
には、2700万人分の国産ワクチンを、10月19日の週から接種開始する予定です。
また、年度内に5,000万人分の輸入ワクチンを確保し、12月末から1月にかけて輸
入を開始するようです。

日本の人口は1億2700万人ですから、年内に人口の20%に接種し、将来的に約
60%の国民に対するワクチンを準備することを目指しています。
他の先進国もワクチン確保には必死です。例えば、8月25日のロイターによれば、米国は10億ドル以上をワクチン購入予算に割り振り、年内に1億6000万人(人口の50%)に接種を終える予定です。また、イギリスは人口の半分である3,000万人を対象に、来年初めまでに接種を完了する予定です。英米ともに、さらにワクチンを確保するように交渉中です。また、フランスはワクチン9,400万回分(二回うちとして、人口の77%相当)を注文し、カナダも5,000万回分(人口の78%相当)を確保しようとしています。
欧米先進国と比べ、我が国のワクチン確保量は、やや見劣りする程度です。問題は、欧米先進国より準備が遅れていることです。各国とも、年明けまでには国民の半分程度には接種を終える予定ですが、我が国は20%に過ぎません。新型インフルエンザの流行時期を考えれば、我が国のワクチン備蓄体制は大きな問題がありそうです。

【ワクチン輸入に消極的だった厚労省】

実は、日本政府がワクチン確保に出遅れたのは、医系技官がワクチン輸入に消
極的だったためと言われています。

例えば、サンデー毎日9月27日号には「厚労省が欧州のメーカーと結んだ「仮
契約」は8月下旬に切れたが、同社の問い合わせに応じず、11日現在で厚労省は
これを放置したままだという」、「同社が厚労省に示した日本向けワクチンの確
保期限は9月18日。デッドラインを過ぎれば、日本の「予約分」は他国に流され
てしまう」ことになっていました。つまり、海外ワクチンは、国内に入ってこな
いところでした」と紹介されています。医系技官は輸入ワクチンを妨害するため、
サボタージュしていたことになります。

このような状況を強引に方向修正したのは、舛添前厚労大臣です。総辞職直前
の9月11日の閣議後記者会見で、「海外メーカーから4200万人分を輸入できる見
通し」と発表し、「不足するワクチンを輸入すること」の既成事実化を計りまし
た。この発表は、勿論、官僚の意向に反したものでした。

この話、後日談があります。9月11日の閣議後記者会見では、国内で製造する
ワクチンは1800万人分の予定でした。それが、いつの間にか、2700万人分に増え
たのです。

厚労省は、9月24日に記者クラブへのリークで、9月4日には、ワクチンの増殖
がうまく進まないことを想定して1800万人分としていたが、「製造効率が予想ほ
ど低くならない見通し」(同省)と発表し(9月25日日経)、国産ワクチンの生
産を2,700万人に上方修正しました。真相はわかりませんが、タイミングを考え
ても、俄には信じられない話です。

【厚労官僚は、なぜ国産ワクチンに固執するか】

なぜ、厚労省は、躍起になって国内ワクチンメーカーを守ろうとしているので
しょうか。この背景については、雑誌『選択』10月号の「ワクチン後進国 日本
の惨状」が秀逸で、一読をお奨めします。

これまで、我が国のワクチン製造は、財団法人化血研や阪大微研、北里研究所
のような学校法人が担ってきました。一方、世界のワクチン市場は急成長を続け
(年間成長率16%)、グラクソ・スミスクライン、ノバルティスファーマ、サノ
フィ・アベンティス、メルクのような大企業が参入しています。国内でも、武田
薬品が興味をもっています。

国内ワクチンメーカーの中には、高い技術力を誇るところが多いのですが、パ
ンデミックに対応し、大量生産することは出来ません。世界的にワクチンへの関
心が高まり、メガファーマが参入してきた以上、国産ワクチンメーカーは再編せ
ざるを得ない運命です。厚労官僚の存在は、メガファーマにとり「参入障壁」と
なっています。

余談ですが、政府が発表した「新型インフルエンザワクチン接種の基本方針」
の末尾には、「国は、今後、国産ワクチンによりインフルエンザワクチンの供給
が確保されるよう、国内生産体制の拡充等を図るものとする」とあります。まる
で、「これからも補助金漬けにして、護送船団を守るぞ」と言っているようです。
このあたり、役人はしぶといです。

【重い自己負担 6,150円】

新型インフルエンザワクチンの接種費用は、生活保護や低所得者を除いて、自
己負担です。二回の接種で6,150円が必要です。四人家族全員が接種するとすれ
ば約2.5万円の出費となり、この負担は重くのしかかることは間違いないでしょ
う。多くの先進国で、新型インフルエンザワクチンは公費負担で、自己負担がな
いこととは対照的です。

ちなみに、ワクチンの接種率は、自己負担の有無が影響することが知られてい
ます。当然ですが、自己負担を高くすれば、接種する人は減ります。

感染症学には「集団免疫」という考え方があります。国民の大半が免疫を持っ
ていれば、たとえ感染者が外部から侵入してきても、感染症に対して弱い集団に
はうつりにくく、守られるという意味です。インフルエンザの場合、国民の
70-80%程度が免疫をもっていれば、大流行は防ぐことが可能と考えられています。
逆に、ある一定レベルまで免疫を持っている人を増やさなければ、大流行は避け
られません。このように考えれば、6,150円の自己負担が極めて大きな意味を持
つことがお分かりでしょう。

今回、政府は1,000億円程度の予備費をワクチン接種費用に充てています。予
備費の総額を考えれば、新型インフルエンザ対策に大きなウェイトを置いたこと
は間違いありません。しかしながら、政治主導で補正予算を組み、国民負担をな
くすという選択

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