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臨時 vol 294 新型インフルエンザワクチンの接種開始を目前にして

医療ガバナンス学会 (2009年10月19日 17:33)


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東北大学大学院医学系研究科
感染制御・検査診断学 講師
森兼啓太


新型インフルエンザワクチンが医療機関に届き、医療従事者への接種が始まる。様々な紆余曲折はあったが、新型インフルエンザ発生以降6ヶ月足らずでどうにかここまでこぎつけられたことに関する関係諸方面の方々の努力にまず敬意と感謝の意を表する。

ワクチンの接種体制や製剤の詳細については、すでにMRICにおいて東京大学の上昌広氏や神戸大学の岩田健太郎氏が包括的かつ詳細に記述しているので、両氏の稿をご参照願いたい。本稿では筆者が問題だと感じることについて箇条書きで述べる。

(1)医療従事者へのワクチン接種が有料である点
厚労省のワクチン接種の基本方針(2009年10月1日)によれば、今回のワクチン接種の目的は死亡者や重症者をできるだけ減らすことであり、これには死亡や重症化のリスクをもつ人(乳幼児、妊婦、呼吸器系や循環器系などの基礎疾患をもった人など)の個人防御を目的としてそれらの人々を対象に優先接種する。
一方、患者が集中発生することによる医療機関の混乱を防ぎ、必要な医療体制を提供することが第2の目的にあがっている。つまりインフルエンザの診療に必要な医療体制をとぎれなく提供することにより、入院する人が重症化したり死亡したりすることを少しでも少なくするよう、必要な医療を提供する、ということである。このためには、医療従事者が市中の流行のさなかにその影響を受けて多くが感染し欠勤することがあっては困る、だから医療従事者には優先してワクチン接種を受けてもらう、ということである。医療従事者が発症して患者を感染させることを防止するのが目的ではない(それが目的であれば医療従事者が市中流行の間全員サージカルマスクを着用すればよい)。
これらのことから明らかなように、医療従事者は個人防御を目的として優先順位が高くなっているわけでもなく、医療を提供するために(国民のために)接種を受けるのである。このために費用をなぜ医療機関または医療従事者自身が負担しなければならないのだろうか。このことに関する説明が医療機関や医療従事者に対して行なわれているという話を筆者は寡聞にして知らない。

(2)10mLバイアルの危険性
国産ワクチンのある割合が10mLバイアルで提供されることが決まった。この危険性は岩田氏、上氏の指摘のとおりである。しかし10mLバイアルを上手に活用すれば、有限の資源であるワクチンをより多くの人に接種することができる。そもそも論として、ワクチンを十分用意すべきだという意見もあろうが、今それを言っても仕方ない。問題は、このバイアルによって安全に接種できる体制を整え、このバイアルを使用する人が正しく用いるように、国が手引きを出していないことである。厚労省のウェブサイトにはワクチンに関する膨大な資料があり、その中に「注射器と針は滅菌されていること」「2cc以下の容量のものを用いること」など、具体的な記載は見あたるが、例えば患者使用後ただちに注射器を耐刺通性容器(いわゆる針捨てボックス)の中に廃棄することなどは書かれていない。10mLバイアルという普段使い慣れないものが現場で使用される前に、そういった手引きを出すべきであろう。ただし、間違ってもこれが「指導文書」的なものであってはならないわけだが。

(3)接種場所
現在、流行は徐々に拡大しており、定点あたりの患者数が6を超え、9月28日から10月4日までの1週間で約33万人がインフルエンザに罹患したと推定される。個人防護目的の優先接種者がワクチン接種を受けられる11月初旬~中旬には、さらに流行が拡大していることが予想される。「インフルエンザの患者を診るのに忙しく、ワクチン接種まで手がまわらない」という声が医療機関から発せられつつある。筆者は以前にも、インフルエンザの患者がやってくる医療現場ではなく、保健所などの場所やマンパワーを利用して接種を行なうべきと主張してきた。今その必要性はますます高まっていると感じる。
国の説明では、今回のワクチン接種は国の事業であり、都道府県に実施主体を置くことはできないので、保健所などで行なうことはできない、という論理だと理解している。医療機関に委託できて都道府県や保健所に委託できないのはなぜか。私も含め多くの病院関係者が素朴な疑問を解決できずにいる。10月1日に発出されたワクチン接種に関する厚労省の説明の最終ページには、「国民の皆様へ ワクチンの効果や副反応に関する得られる限りの情報を迅速に提供していきます」とありますが、接種体制の情報は提供しないのだろうか。医療従事者は国民には入っていないのだろうか。

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