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Vol.129 震災後に最も怖いのは肺炎だった、口腔ケアを! ~阪神淡路、東日本、熊本の震災調査で明らかに~

医療ガバナンス学会 (2016年6月2日 06:00)


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この原稿はJB PRESSからの転載です。

http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/46825

相馬中央病院内科医
森田 知宏

2016年6月2日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp

2016年4月16日、熊本県でマグニチュード7の地震が発生した。現在でも2万人を超える住民が避難所で暮らしている。

振り返ると、阪神・淡路大震災(1995年)、新潟県中越地震(2004年)、新潟県中越沖地震(2007年)、東日本大震災(2011年)、そして今回の熊本地震に至るまで、日本ではマグニチュード6以上の地震が多発している。

このような大きな地震は、住民の健康に大きな被害を与える。まず、地震に伴う怪我などの直接的な被害が挙げられる。

直接的な被害によって死亡した場合は直接死と呼ばれる。過去の震災で、直接死で亡くなった人数は、阪神・淡路大震災で5502人、新潟県中越地震で16人、新潟県中越沖地震で11人、東日本大震災で1万5894人、熊本地震で48人である。

●災害は間接死も急増させる

加えて近年、間接的な健康への被害が注目されている。

例えば、熊本地震では避難中の車中泊から51歳の女性がエコノミークラス症候群で死亡した例が報道された。

このように、震災による環境の変化が原因となって生じた死亡のことを、本稿では直接死に対して「間接死」と呼ぶ。

よく使われる言葉として震災関連死があるが、これは遺族への支援を目的とした災害弔慰金の給付と関わっているため、医学的な因果関係は重要視されない。誤解を避けるために両者を区別して議論する。

「間接死」は、過去の震災でも指摘されている。

阪神・淡路大震災では震災後8週間にわたって、心筋梗塞による死亡率が前年の2~3倍に増加していた。

新潟中越地震では、震災後3年間の心筋梗塞による死亡率が震災前5年間に比べて10%増加していた。

このような震災後の死亡増加も、「間接死」と考えられる。しかし、これまで「間接死」に関する詳細なデータは少ない。

なぜなら、日本以外の災害多発国では戸籍制度もない国が多く、長期にわたる被害状況を正確に把握できないからだ。したがって、「間接死」の効果的な対策も不明だった。

●高齢者の肺炎予防を!

今回、東日本大震災による「間接死」の実態を評価するため、調査を行った。その結果分かったのは、震災後1か月間の高齢者の肺炎予防が重要であるということだ。

調査は福島県浜通り地方にある相馬市・南相馬市を対象として行い、2006年から2014年の死亡者数を調べた。

津波や地震による直接死を除き、震災後の各年の死亡率を2006年から2010年にかけての死亡率と比較したところ、2011年から2014年の間で、震災前よりも死亡率が上昇した年はなかった。

2011年の死亡率(人口10万人あたり)は男性で620人、女性で294人であり、2006年から2010年にかけての死亡率は男性で599から648人、女性で301から329人だった。年ごとの比較では、間接死の発生は明らかではなかった。

そこで、2011年について月ごとの死亡率を震災前の同時期と比較したところ、震災から1か月間では75歳以上の男性で1.6倍、85歳以上の女性で1.5倍に上昇していた。さらに、85歳以上の女性に限っては、震災から3か月間で死亡率が上昇していた。

さらに、死亡原因を調べたところ、震災から1か月間の75歳以上の「間接死」131人のうち、肺炎による死亡は44人と34%を占め、最多だった。

肺炎による死亡者は震災前の同時期には20人程度だった。肺炎が高齢者の「間接死」に与えた影響がどの程度であったかについて、現在さらに調査を進めている。

また、がんによる死亡率を震災前後で比較したが、2011年から2014年までのがんによる死亡率は震災前と比較して上昇が認められなかった。

●震災後に大切な口腔ケア

震災から4年間と限られた期間ではあるが、「原子力災害後の放射線被曝によって大量のがん死亡者が発生している」という事態は現時点では否定的である。

本調査により、福島県の相馬市・南相馬市において震災後に死亡率が上昇したのは、主に高齢者が亡くなったことに起因することを明らかにった。さらに、この死亡率の上昇は震災から数か月にわたって続く可能性がある。また、高齢者が亡くなった原因で最も多いのは肺炎だった。
この結果が示唆することは、高齢者の肺炎予防が「間接死」減少に効果的であることだ。

高齢者の肺炎には、唾液と一緒に口の中の雑菌が肺に流れ込んで起きる、誤嚥性肺炎と呼ばれるタイプも多い。

このタイプの肺炎は、口腔ケアといって歯磨きやうがいで口の中を清潔に保つことが効果的で、死亡率が28%程度に減少できるという報告もある。

避難所への医療支援には、医師や看護師だけではなく、口腔ケアの専門家である歯科医、歯科衛生士、言語聴覚士といった医療スタッフが関わることが重要だ。

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