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臨時 vol 318 「政権交代と医師会の立場」

医療ガバナンス学会 (2009年11月2日 08:17)


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熊本市医師会副会長: 加来 裕

 既に多くの場所で論じられているので、二番煎じの感は否めないが、今次政権
交代と医療について論じたい。日医はこれまで、「医政無くして医療無し。」
「医政活動の中心は、時の政府・政権与党との交渉<ロビー活動>である。」と
されていた。にもかかわらずこの20年医療費は抑制され続け、特に小泉政権以
後の医療・介護政策は更に「苛烈」なものとなり、結果「医療崩壊」を招いたと、
反医師会のお先棒を担いできたマスコミですら認めざるを得ない状況になってい
た。
 いわゆる、立ち去り型サボタージュで「異議申し立て」をした勤務医のみなら
ず、開業医もその多くがやる気を削がれ、落胆し、疲弊しているのは、こうした
政府・与党に対する日医の対応は不十分なのではないかとの懸念があった事を、
日医執行部がご存じなかったとは思えない。平成18年に全国的な規模で署名活
動を展開し、国会に請願したのは、旧来型のロビー活動に限界があるとの認識が
有ったからではなかったのか。・・・・であるとすれば、今次政権交代後の対応
には疑問符を呈さざるを得ない。
 熊本市医師連盟は前々回の総選挙において、政党を推薦するのではなく、それ
ぞれの候補者にあるべき医療政策についてお尋ねをし、その考えや・人物を十分
に吟味した上で推薦するという方法を採った。今回も同様の方法により1・2区
ともに自民党、民主党双方の候補を推薦した。熊本県医師連盟も今回、地区医師
会の推薦を尊重するとして双方を推薦された。この事実を持って、医師会は自民
党から密かに離れつつあるとか、民主党にすり寄っているとかの、為にする推測
を披露する向きもあった。
 時の政権運営に大きく影響される我が医療界にあって、自民党による長期政権
支配下では自民党への働きかけが医政活動の中心にならざるを得なかった事は理
解できない訳ではない。しかしながら、先述の通り、この20年間、日医・医師
連盟の医政活動が成功裡に運営されたと評価する会員は殆ど居られないであろう。
地方医師会組織の中にいた者としては、極めて歯がゆい思いをしてきた。その中
での、言わば苦渋の選択が先の推薦であった事がご理解戴けるであろうか。
 小泉退陣後の自民党は、「小泉路線」の継承でもなく転換でもない、鵺のよう
な政権運営で多くの国民の支持を失った。更に、百年に一度といわれる最悪の経
済不況の中での総選挙にあっては、「政権交代」は錦の御旗にも匹敵し、抗する
術もなかったと言うべきであろう。しかしながら、繰り返し申し上げるが、熊本
市医師会の立場は、良質な医療を提供し続ける為に、どの様な医療・介護・福祉
政策が必要かを、専門家としての立場から提起しご理解を得る事に尽き、それ以
上でも以下でもない。その延長線上で個々の政治家に、同様のお話なりお願いを
するのであって、政治家個人あるいは政党の支持、推薦が先にあるものではない。
 選挙結果はご存じの通りであるが、現段階で快哉を叫ぶ気にはなれない。マス
コミその他の論調を見ると、「2大政党時代の到来」とか「静かな革命」とか歓
迎する見解が多いが、民主党の政権運営能力への疑問や、逼迫している政府財政
への懸念や、小沢「剛力」幹事長の党運営への畏れやらも散見されている。また、
選挙前の民主党マニフェストを見ても、「医療崩壊」に対する危機認識は共通し
ているものの、その打開の方向性は、あくまで救急医療、小児科医療、産科医療
等について財政的支援→公的病院或いは大規模病院の支援に止まり、いわゆる開
業医への「共感」は殆ど感じられない。・・・・後に曰く「日医は開業医の団体
であり、診療報酬の決定過程に日医が介入するのは如何か」とか、「自民党の言
うが儘にしてきた団体が何の反省も無しに、提言とはおこがましい」等々、今ま
での交流不足を物語る様な、冷淡で非寛容な態度に鼻白むドクターも多いに違い
ない。
 10月15日付けのマスコミは、「長妻厚労相は、『中央社会保険医療協議会(厚
労相の諮問機関、中医協)が中心に決定してきた診療報酬改定の在り方を、来年
度にも全面的に見直す方針を固め、厚生労働相直属の検討チームが改定の基本方
針や改定率の原案を作成し、閣議決定するトップダウン方式を軸に検討を進め、
日本医師会の影響下にあった中医協の役割は大幅に縮小されることになる。』と
の方針を示した。」と報じた。
 日医の「ご威勢」消退にニヤニヤしている記者の顔が浮かぶ様であるが、医療
界を代表している日医(代表していないと考える医療団体もあるし、殊更その様
に見せたがる勢力もいるが。その他の団体で医療界を代表していると目される団
体は見当たらない。)の意見は、団体個々の利益をのみ追求している訳ではない
ことは、日医グランドデザイン2007や日医グランドデザイン2009を通読されれば
自明であろう。
 政権交代は成し遂げられた。ではあるが、否、であればこそ、我々の願いや展
望は何ら臆することなく主張しなければならない。今まで培ってきた自民党との
繋がりも、これから培わねばならない民主党との繋がりも、正々堂々の議論を通
してこそ、より良く形成されるに違いない。「万機公論に決す」べきである。そ
こ存在する互いの疑念や不満はそれを通じて解消され、ともに日本の将来を築く
共闘者となれるであろう。
 さはあれ、我々サイドの真摯な反省もまた必須である。医師会の中での真摯な
議論は尽くされたであろうか、政治家のみならず、各界の指導者やマスコミの理
解を得る努力は足りていただろうか。患者さんや我々の身の回りの方達に我々の
意図する処を伝える努力を充分に為し得ただろうか。・・・・忸怩たる気持ちを
振り払えないのは小生だけであろうか。・・・・今からでも遅くはない。正々堂
々議を尽くし、民主党に限らず、我々を取り巻く全ての方々に我々の意図する処
をご理解戴く為に更なる努力をしなければならない。

 

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