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臨時 vol 319 現場からの医療改革推進協議会第4回シンポジウムから 5)

医療ガバナンス学会 (2009年11月3日 06:02)


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現場からの医療改革推進協議会第4回シンポジウムから、セッションのご紹介です。
 *参加申し込み・受付は終了しております。

5) 救急医療
有賀 徹(昭和大学救急医学講座 教授)、酒井大史(都議会民主党政策調査会長)、海野信也(北里大学産婦人科学講座 教授)、伊藤隼也(医療ジャーナリスト)、鈴井直子(出産育児経験者から) 討論司会:黒岩祐治(ジャーナリスト)
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救急医学?救急医療と社会のあり方
 有賀 徹(昭和大学救急医学講座 教授)
 救急医療における?たらいまわし?は救急医療機関による?受け入れ拒否?ではなく、?受け入れ不能?の状態であり、これは年余にわたる需要の増大に供給がついにショートしたということである。そこでは高齢化に伴う救急患者の増加など、厚生?福祉などに関連した政策への言及こそ重要であろうし、将来のことまで深く考えるなら、いわゆる家庭医から各診療科専門医へなどという医療提供のあり方そのものについてもまた議論すべきであろう。しかし、今ここで手を打たないと、救急患者?救急医療の不幸に一層の拍車が掛かることは明白である。このような現実と医療提供側の限りある資源を勘案すれば、緊急性の高い患者からみようという方法(トリアージの手法)を導入することは必然である。
(1)横浜市では、2008年10月から119通報時にそれを受信した指令員が緊急度を判断し、緊急性に差をもたせた救急隊の出動を指示する?119コールトリアージ?を開始した。指令員の判断能力が向上すれば、一定の水準で効率的な救急隊の出動がいざなわれるに違いない。
(2)?救急搬送トリアージ?とは東京消防庁が2007年6月から試行しているもので、救急隊の到着した現場において、あらかじめ決められた対象疾患について観察結果から緊急性がないと判断された場合に、患者の同意が得られれば救急搬送を遠慮してもらう方法である。
(3)東京消防庁では上記(2)と同時に?救急相談センター?を発足させ、救急隊を要請するかどうかについて都民が電話で相談できる事業を開始した。あらかじめ作成されたプロトコールに則って、救急隊を即刻向かわせる判断から、明日以降の日勤帯での病院受診を勧めるまでなどの4段階に分けたトリアージを行っている。本年度から同様の取り組みが、愛知県、奈良県、大阪市でも開始されている。
(4)?救急外来トリアージ?とは担当看護師らがあらかじめ決められたトリアージシートなどに従って体系的にトリアージを行うもので、救急患者が多数来院する病院で小児医療を中心に普及し始めている。それにより、蘇生、緊急、準緊急、非緊急などと患者を区分し、それぞれについて医師らスタッフがどのように対応するかを決めておくものである。
「救急医療の進化」とも呼ぶべき、このような各種の試みを実践していくことは、結局のところ救急医療を通じて社会のあり方などを俎上に載せることであり、それは「救急医療基本法」に則った社会の仕組みについての議論へと展開すべきこととも思われる。
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「救急搬送時間47.2分を→30分」実現に必要なものとは
―搬送先が決まらず救急車が出発できない18.95分間は医師不足解消への入り口―
酒井大史(都議会民主党政策調査会長)
 民主党は、今夏の都議選でのTokyo Manifesto 2009 の3本柱を「新銀行東京の存続にNO!築地市場の移転にNO!救急搬送時間30分」とした。
 現状の救急搬送時間47.2分は、東京消防庁では病着から医師へ引き継ぎまでの11.03分が寄与しているとの指摘がある。むろん私たちの主旨は、必要な業務をカットしてまで搬送時間を見かけ上短縮することではない。
 東京では、現場活動時間が非常に長く、また搬送先決定に30分以上かかる事案が平成20年度35,746件発生している。30分の目標は、搬送システム、他の患者処置中や医師不在、ベッド満床を改善することなど、東京が抱える医療から介護にまで及ぶ問題全般の解決につなげるための入り口と考えている。
 つまり、救急医療をめぐっては、さまざまな課題があるなか、搬送時間が長い点を切り口としたのは、都民ひとりひとりと、私たちが抱いている危機感を共有したいとの考えからである。一部に逸脱事例があるとはいえ、多くの都民にとって、救急車を呼ぶ時は、一生に一度あるかないかの緊急事態であり、そのときに医師引き継ぎまで1時間弱かかるという事実は、インパクトがある。事態を糊塗し、安心を約束する(ウソの)公約ではなく、問題点を明らかにし、危機的状況であるという認識を共有する、そして目指すべきと考えるゴールを提示して都民に問い、ともに考えるマニフェストとした。
 都議会において、民主党は、救急搬送システムの改善、医師の勤務環境改善、女性医師の継続支援、トリアージやクラーク導入支援、療養・在宅支援などの提案を行った。平成21年度予算において実現したものも多い。
 搬送先選定をスムーズにする司令塔機能の一環として「東京ルール?」も稼働開始したが、受け入れる二次医療機関の負荷が大きくなれば、最後の砦である三次救急にも影響しかねない。医師不足解消の必要性はいささかも減じていない。むしろ、一時受入に伴って、転院搬送(病院救急車)や後方病床の整備、ER型救急など個別施策の必要性は増大したとも言える。
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周産期救急医療の展開
 海野信也(北里大学産婦人科学講座 教授)
 我が国の周産期救急医療は揺籃期・成長期を過ぎて、安定期に入るべき時期を迎えている。この分野の確立のために献身的な活動を続けてきた世代は既に引退し、その後継者世代が現在指導的立場になっている。周産期センターはほぼ全国に設置され、地域周産期医療の中核施設として機能している。ある診療分野の発展期には、これまでできなかったことができる、助けられなかった患者が助けられる、というpositiveな評価が中心となる。大変だが報われることの多い、充実感のある仕事ができる。しかし、その分野の社会的認知、重要性の認識が進むと、まだできない部分、それでも助けられない患者のことが問題にされるようになる。2006年、2007年の奈良県の事例、2008年の東京の事例などはその代表例だろう。それまでがpositiveな情報中心であっただけに現場に与えるダメージも大きい。一転して大変で報われない仕事になってしまうのである。周産期医療分野への若い世代の参入が減少していることには、そのような背景が考えられる。
 安定期には確実で質的に均一な医療提供が大前提となる。現場の献身と工夫・機転で切り抜けるそれまでの方法論は通用しない。内輪の論理と評価で完結してはいられなくなる。他の診療部門との密接な連携に基づいて医療体制の中で全体と調和した機能を果たすことが求められるようになる。今周産期救急医療はそんな段階にある。これまではマイナーリーグで力を蓄えてくることができたが、これからは救急医療全体の中で位置づけられ、メジャーリーグの論理とシステムの中で役割を果たしていくことが求められている。これを実現するための最大かつ喫緊の課題は、無(低)報酬の超過剰勤務を前提とした勤務体制の解消である。ボランティア精神で肉体と精神の限界まで働き、最終的には燃え尽きて退場することになる医師とスタッフに支えられている実態を放置して、医療提供体制の安定的確保が不可能なのは自明であり、この問題を解決するためには、医療従事者の過剰勤務に対する正当な評価が必要と考えられる。
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 伊藤隼也(医療ジャーナリスト)
 医療崩壊が叫ばれて久しいが、平成19年に都内で救急搬送された重症患者のうち、119番通報(覚知)から医療機関に収容までの所要時間ワースト50のケースで、12人が死亡していたことが総務省消防庁などの調査でわかった。中には、医療機関への照会回数が33回、搬送先に到着するまでに2時間56分かかった後に死亡していたケースもあった。まさに、今、首都東京の「救急医療」が「未曾有」の危機に直面しているといえる。その背景には、病院選定、搬送時間、救急車要請の増加(約48万件・平10年→約62万件・平19年 29.8%増)、救急医療機関の減少(411施設・平10年→330施設・平21年 19.7%減)、医師不足など、さまざまな問題が存在するが、救急医療システムの改善が急務であることは間違いない。
 これらから、東京都では救急医療を改善するために「スーパー総合周産期センター」の設置や都内の医療圏域ごとに「地域救急医療センター」を整備し、東京消防庁に「救急患者受入コーディネーター」を配置する「東京ルール」などの新たな取り組みを開始した。
 しかし、「東京ルール」においては担当する地域救急医療センターの疲弊や、5箇所の未整備医療圏が残るなど,今後,解決すべき問題は多い。とりわけ、搬送困難事例の解決だけでなく、これまで十分に議論されてこなかった救急医療における「医療の質」も重要な課題である。本シンポジウムにおいては、行政や医療機関との関係、専門家同士の問題など、過去の因習や悪弊に縛られることなき、本音での議論を望みたい。真に都民のための救急医療体制構築のために!
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周産期医療の崩壊をくい止めるために、母としてできること
 鈴井直子(出産育児経験者から)
 私は2002年、前置胎盤による出血により緊急帝王切開手術を受け、救命された元患者です。生まれた子どもは、手のひらに乗るほど小さな男の子でした。息子は生まれてから幾度となく生死をさまようことがありましたが、今年小学生になりました。
 出産から7年以上がたちましたが、あの時、私と息子を救命するために全力を注いで下さった先生の姿を、一日も忘れることができずにいます。そして、その後を引き継いだ新生児科の先生方の、小さな子供達を救命する姿は、私に、生きる意味を深く問いかけました。病院には、重い病気や障害を抱えた子供達もいました。必死に生きる姿は今も頭から離れません。あの子供達は何のために生まれてきたのか、私にできることはないのか、答えを探し続けています。
 ご存知のように、今、周産期医療は崩壊をしています。この出産の時の経験から、我が子だけを愛するのが母ではないと教えられたような気がいたします。今回、上先生からお話を頂いた時には迷いました。周産期医療では救えない命もあるからです。私が公の場に立てば、ご遺族を傷つけてしまうのではないかと悩みました。しかし、当事者が語らなければ何も変わりません。私は、周産期医療が崩壊した大きな原因の一つには、当事者が社会と対話を重ねてこなかったことにあると思います。どのような惨状があったとしても、社会に見えなければ、救う術はありません。
 今、必要なのは、多くの方に現状を知っていただき、お一人お一人がどうして欲しいかだけではなく、医療がうまく行くためには、何ができるかを考えていただくことではないでしょうか。私にできることとは、当事者の一人として、患者側から見た現状をお伝えすることだと思います。

 

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