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臨時 vol 322 「後味悪い決着、救いは人材育成スズカンプラン」

医療ガバナンス学会 (2009年11月4日 08:16)


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       ~最先端研究開発支援プログラム凍結解除を受けて
            ロハス・メディカル発行人 川口恭

 鈴木寛・文部科学副大臣が就任早々に見直しをブチ上げていた最先端研究開発
支援プログラムは、金額などは見直すものの採択した30件を変更せず進むことに
なった。10月22日に開かれた科学技術政策担当大臣(菅直人氏)と総合科学技術
会議有識者議員の定期会合で、減額した1000億円を採択済みの30課題に当てる方
針が了承されたのだった。
 このプログラムでは、審査にあたったワーキングチーム員の夫の課題が採択さ
れたり、ワーキングチーム員と同じ会社の課題が3件も採択されたり、とその正
当性に疑問が投げかけられてきたが、選考をやり直すまでには至らなかった。そ
れどころか30日に公開された22日の会合の議事要旨を見ると、ワーキングチーム
員でもあり、採択30件の中に自社顧問の研究が含まれている榊原定征・東レ社長
が、そのことへの説明責任は棚に上げて「政治決定はいいが、決定について納得
いく説明がなければ困る」などと、枠組み変更に激しく抵抗したことまで分かっ
てしまった。
 科学技術担当の新聞記者たちも東レの研究が採択された経緯には疑念を持って
いるらしい。榊原氏の行動が深刻なのは、川端達夫・文部科学大臣が東レの元社
員であり、それでなくても「李下に冠を正さず」で徹底しなければ、あらぬ憶測
を呼んで大臣に迷惑がかかるにも関わらず、冠を触りまくって恥じないところだ。
そういう事情があるから民主党は30件を見直せなかったのだろうかという気にも
なってくる。
 ただ執行凍結解除の方針が決まったその日、鈴木副大臣が見せたのは悔しさで
はなく、今後のビジョンだった。
 解除の方針については「菅さんの肩を持つわけではないが、行政法の観点から
言うと、いったん公表したものに対しては公定力が発生し、たとえ少々の瑕疵が
見付かったとしても無効にするだけの覆すに足るだけのものでなかった場合は、
そのままいくしかない。今回のプログラムは我々が一から設計したものではなく、
プレーンの状態であればあり得ないようなことだが、しかし公定力は発生してい
る」と言うのだ。何があれば、覆すに足りたのか。
 鈴木副大臣は言う。
「今回、当事者である研究者の中から、表立って『おかしい』という声がほとん
ど出てこなかった。署名活動も起きなかった。陰では色々と聞こえてくるが、大
事なのは勇気を持って表で発言すること。福島県立大野病院事件の時は、皆が勇
気を持って署名をした。だから動いた。そのことが第一。
 それから支援するのにふさわしい最先端研究を選ぶ、という方法論が全く科学
的に確立されていない。選択するということに関する科学、アカデミズムが余り
にも貧弱で、人もルールも知恵もツールもスタンダードもない。だから10分間の
ヒアリングで決定するような信じられないことが起きた。米国には、選択する方
法のスタンダードが確立されていて、社会に共有されている。それが全くないと
いうことに関して、自然科学、社会科学を問わず科学者と名のつく関係者は全員
猛省する必要がある。私も社会科学者の端くれとして責任の一端を感じている」
 「そもそも」と鈴木副大臣は話題を今後のビジョンに切り替えた。
「科学技術、中でも先端研究に予算を付けるのは最も難しい。なぜならば先端研
究とは未知の領域を切り拓くことだから、誰も分からない分野に挑戦するものだ。
誰も分からないのだから、その先に結果が出るかどうかも分からないし、その必
要性に対する理解者も多くない。しかし、税金を使うには、一義的には過半数の
納税者の同意を得なければならない。ここに先端研究に対して税金を使うことの
絶対矛盾、自己撞着がある。この矛盾の解決は永遠につかない。
 しかし一方で予算をつけなければ、先端研究をライフワークとする人が減り、
社会の発展も止まって多大な損害が出ると懸念される。どうやって、ここをクリ
アするのかが知恵の出し所だ。
 現在の日本で唯一、納税者と先端研究の間のギャップを埋める方法は、ノーベ
ル賞受賞者を出すことだ。そのための体系だった方策を私としては考えているし、
ノーベル賞に代わるような過半数が理解してくれる手法も考えていく必要がある
と思っている」
 鈴木副大臣の考えている手法とは何だろう。そう思いながらメモを取っていた
ら、突然「全国に高校球児は何人いると思うか」という言葉が出てきた。簡便に
計算してみても10万人以上はいそうだが、それが一体どうしたというのだろう。
「WBC(ワールド・ベースボール・クラシック)で日本が世界一になれたのを、
たまたまと考えるか、一定の確率で起こりうることと考えるか。野球の場合は、
世界一になっても誰もまぐれだとは思わない。それは、それだけのピラミッドの
裾野があって、年齢が上がるとともに数が絞られていく、その頂点にあの代表が
いるからだ。
 科学研究にも、このような高校生段階で10万人ほどの候補生がいるようなピラ
ミッド構造を作ることが必要でないか。これまでの科学振興予算は、そのピラミッ
ド構造を考えることなしに、思いつきでバラバラに付けられていた。このために
継続性がなく、ポスドクが大量にあふれるような状況になってしまった。各年齢
層ごとに切れ目なく予算を投入し、年齢が上がるごとに支える人数を選抜をかけ
て徐々に減らしていく。ドロップアウトした人は、プロデュースするとか伝える
とか支える側に回る、そんな仕組みを作り上げたい。科学技術の場合、WBCだ
けが突然あるようなものなので、甲子園やインターハイにあたるものも必要だろ
う。既に来年度予算にある程度の要求はしていて、再来年度要求で一通りの道具
立てがそろうような時間軸で考えている。
 この時に選抜をどうやってやるのかという科学も併せて発展を図っていきたい。
今回の問題で若手研究者をディスカレッジしてしまったことは間違いない。せめ
て大いなる教訓として、二度とこのようなことを起こさないよう、選抜の科学が
きちんと作り上げたいと考えている」
 なるほどねえ、と、頭の中のパラダイムがぐにゃぐにゃに変形し、凍結解除を
知らされた時の重苦しい気持ちが緩んでいくのを感じた。
(この原稿は、ロハス・メディカルweb http://lohasmedical.jp に、10月22日
付で掲載された記事及び30日付で掲載された記事に一部加筆して一本にまとめた
ものです。)
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