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臨時 vol 323 現場からの医療改革推進協議会第4回シンポジウムから 7)

医療ガバナンス学会 (2009年11月5日 06:26)


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現場からの医療改革推進協議会第4回シンポジウムから、セッションのご紹介です。
 *参加申し込み・受付は終了しております。
7) 公益法人改革
大谷貴子(全国骨髄バンク推進連絡協議会会長)、境田正樹(東京フィールド法
律事務所)、小松秀樹(虎の門病院泌尿器科 部長)、満岡 渉(諫早医師会
理事) 指定発言(会場):世耕弘成(参議院議員)、橋本岳(前 衆議院議員)、
福田衣里子(衆議院議員)
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真に患者を支える骨髄バンクになるために、今、何をすべきか
 大谷貴子(全国骨髄バンク推進連絡協議会会長)
 1991年、多くの患者の悲願であった骨髄バンクが厚生省(当時)主導のもと、
設立された。設立から約20年。1万人以上の患者に骨髄提供がなされ、多くの笑
顔が取り戻された。が、一方、総予算が弱小ゆえ、まだまだ問題は山積している。
(1)ドナーの確認検査などの際に同席する調整医師不足により、コーディネー
トの遅滞が生じる。と、同時に採取病院は潤沢に存在するが医師不足の影響、ま
た、採取することのメリットも少なく、充分に機能が果たせていない。採取に対
する保険予算が加算されれば少しは機能が改善するのではないか、と考える。
(2)現在でも患者は骨髄バンクへの負担金が多く苦慮しているのに、今後、総
予算が削減されるとさらに患者負担金は増大する。
(3)今後の予算削減の現状の中では、広報費用を削減せざるを得ない。そうな
ると、新規のドナー拡大は期待できず、ひいては、患者に生きるチャンスが減る。
 骨髄バンクは多くの方々の善意で成り立っている事業である。その事業を国が
全面的にバックアップし、患者の救済に向かって前進するために今、何をすべき
か考え、実行していきたいと考えている。
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公益法人・独立行政法人におけるガバナンスの構築
 境田正樹(東京フィールド法律事務所)
 昨今、多くの公益法人や独立行政法人において、国から租税優遇措置を受け、
また、多額の補助金や交付金を受け取りながら、非効率で不適正な事業運営が行
われ、かつ、そのような問題ある事業運営に対しても何らの有効な是正措置も講
じられていない、ということが大きな社会問題となっている。そもそも、国から
上記のような財政支援を受けるというのであれば、財政民主主義の観点からも、
その事業体には、事業執行を適正化・透明化・効率化ならしめるための「ガバナ
ンス機能」が装備されていなければならない。因みに、ここで述べる「ガバナン
ス機能」とは、現に事業が適正・透明・かつ効率的に執行されるために実効性を
有するものでなければならない。最高裁判所裁判官の国民審査のように、司法に
対する民主的コントロールという点で、一定の形式的意義は認められても、現行
法制度下で裁判官が罷免されることが事実上あり得ないためその実効性はないに
等しい、といった制度では意味がないのである。このような観点から、今後、公
益法人及び独立行政法人が備えるべき「ガバナンス機能」に関し、筆者が特に参
考にすべきと考える制度は、株式会社における株主代表訴訟制度(株主が会社を
代表して取締役や監査役に対して法的責任を追及するために提起する訴訟制度)
である。実際、多くの「上場した株式会社」の取締役会においては、平成12年の
大阪地裁判決(大和銀行のアメリカ合衆国における法令違反によって生じた損害
について、ある取締役に対して、善管注意義務違反を理由に7億7500万米ドルと
いう巨額の支払を命じた)など取締役への巨額の賠償金支払を命ずる判決が立て
続けに出されたことを契機に、取締役会上程事項の決議に際しては、株主代表訴
訟に耐えうるか否か、つまり、将来、株主代表訴訟が提起された場合に、取締役
に対する責任追及が認められるか否か、が、当該判断の重要なメルクマールに位
置付けられるようになったのである。と、同時に、違法・不正行為を事前に予防
・抑止するための企業コンプライアンス体制も急ピッチで整備・強化されたので
ある。ここで、筆者が、(すべての株式会社ではなく)「上場した株式会社」、
との条件を付けたのは、株主代表訴訟制度は、株式が上場(証券市場で誰でも当
該会社の株式が売買できること)された会社ではじめて有効に機能する制度であ
るからである。つまり、日本における大多数の非上場企業のように、会社株式が
オーナーないしその親族にほとんど独占され、かつ、その会社の株式の売買もほ
とんど行われないという状況下では、株主が同族の取締役相手に訴訟を起こすこ
となどほとんど考えられないため、株主代表訴訟は、まず利用されないのである。
結局のところ、株主代表訴訟制度は、不特定多数人から恒常的に事業運営を監視
・監督され、かつ違法行為が発覚した場合には、取締役個人に対する責任追及が
なされるという前提条件があって、はじめて有効に機能する制度なのである。こ
の意味で、一般社団法人及び一般財団法人に関する法律で新設された株主代表訴
訟制度類似の制度には、不特定多数人からの監視・監督及び責任追及体制が備わっ
ていないため、その実効性は低いと言わざるを得ない。
 以上、検討したように、今日の公益法人及び独立行政法人の抱える様々な問題
の根本的な原因は、ガバナンス機能を備えるための法制度が存在していないこと
にある。ここで、新政権には、公平・公正かつ透明性のある社会の実現に向けて、
公益法人及び独立行政法人におけるガバナンス機能を装備し、かつ強化するため
の法体制(たとえば上場企業における株主代表訴訟制度類似の制度)の早急な構
築を望みたい。と同時に、事業体の運営責任者に対する責任追及の仕組みが「事
実上」存在しない現行法下では、公益法人・独立行政法人に対する補助金の交付、
租税優遇措置を速やかに停止ないし廃止することも提言したい。
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医師の自律
 小松秀樹(虎の門病院泌尿器科 部長)
 1999年以後、医療現場への警察・検察の介入が目立つようになった。08年8月
の大野病院事件の無罪確定で、刑事司法の医療への関与の難しさが明らかになっ
た。判決は、予見可能性、結果回避可能性を認めた上での、結果回避義務の有無
を、裁判官の心証ではなく、医療現場の実情で判断しようとする態度を鮮明にし
た。刑法211条の解釈というより、実質的に、刑法35条「法令又は正当な業務に
よる行為は、罰しない」が判断基準になった。
 一方、厚労省は、07年、医療事故調査委員会の検討会をスタートさせ、医療の
網羅的な調査と行政処分の拡充によって医療をコントロールしようとした。与野
党の反対にもかかわらず暴走し、医療現場の強い抵抗にあった。
 09年8月の総選挙による政権交代で、厚労省案がそのまま実現する可能性はな
くなった。しかし、ボールは医療界にあり、対応を迫られていることは間違いな
い。
 司法・行政は法による統治システムの一部であり、過去の規範で未来をしばる。
問題が生じたとき、過去の規範にあわせて、相手に変われと命ずる。しかし、医
療は未来に向かって変化し続ける。問題が生じたとき、実情を認識し、自ら学習
して知識や技術を拡大させて実情に対応する。司法や行政が医療を取り締まると、
その言語論理体系ゆえに医療を破壊する。このため、英語圏を中心に、専門分野
の制御を、専門職団体の自律に委ねる国が多い。
 従来、日本医師会は日本の医師を代表する公益法人とされてきた。しかし、実
態は、開業医の経済的利益の擁護を最優先課題とし、二重の代議員制度で勤務医
の意見を抑圧してきた。活動内容とガバナンスの欠陥のため、社会に敵視され弱
体化してきた。09年の政権交代で完全に影響力を失った。執行部は将来展望を失っ
たまま迷走している。医療提供体制の安定的な発展のためには、日本医師会を廃
し、医師を代表する合理的な統治システムを持つ公益団体を設立する必要がある。
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ものいう医師会を目指して
 満岡 渉(諫早医師会 理事)
 諫早(いさはや)医師会は、長崎県の中央に位置する人口14万の小都市、諫早
市にある。当会は、この1、2年いろいろと騒動を起こしており、今では全国の
郡市医師会(地域医師会)でも、もっともアブナイ連中だと目されるようになっ
た。
 最近では先の衆院選で、「福田衣里子vs久間(きゅうま)元防衛大臣」の対決
で政権選択の象徴と位置づけられた長崎2区において、当会が日医の方針に反し
て事実上民主党を支持したことで注目を集めたが、われわれは政治だけでなく、
地域医療を守る医師会としてもきっちり仕事をしている。
 当会が立ち上げた「諫早市こども準夜診療センター」は、医師会と市と中核病
院とが連携して、もっとも金をかけずに小児の夜間診療体制を整備し、小児救急
医療の崩壊を防いだ例として、全国的に(少しだけ)注目された。また当会で行っ
ている「諫早医師会インフルエンザ・サーベイランス」は、おそらく世界でも稀
な規模と正確さを誇っており、NHKでも取り上げられた。現在はこのサーベイラ
ンスのデータを基に、新型インフルの対策を練っている。
 2007年末には、厚生労働省と日医執行部が法制化を進めている医療事故調査委
員会に対して反対運動を開始した。2008年夏には、日医執行部が現場の意見を聞
かずに事故調を推進していることを確認するため、全国960の郡市医師会に直接
アンケートを送るという前代未聞の暴挙を行い、全国の少数の医師会から賞賛さ
れ、多くの医師会の顰蹙を買い、日医のガバナンスのあり方に(ちょっとだけ)
波紋を投げかけた。
 今回のシンポジウムでは、当医師会の活動を紹介しつつ、公益法人改革の裏テー
マである医師と医師会の自律について、会場の皆様とともに考えてみたい。
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