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Vol.210 相馬健診

医療ガバナンス学会 (2016年9月20日 06:00)


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浜松医科大学医学部医学科1年
磯部美緒

2016年9月20日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp

福島県相馬市では震災以降毎年、地域の公民館などで地元の住民の方に向けた健康診断が行われている。今回の夏、私はこの健診に学生スタッフの一員として参加し、主に医師による診察の前の問診を担当した。問診票の項目には、最近の体調や通院状況を問うものに加え、中には、現在の運動習慣を問うものや今の人間関係について問うものもあった。この健診では血圧、骨密度の測定や採血の他、握力測定などの簡単な運動テストも実施されていた。

現在、私は浜松で生活している。浜松は近い将来、南海トラフ地震が発生するとされている地域であり、また、近くには浜岡原発を抱えている。今回、福島を訪れることで、何か浜松でも活かせることを学びたいと思い健診に臨んだ。
参加してみて、この健診は単に自分の健康状態がわかるだけではなく、普段外出しない人が外に出て、人とコミュニケーションをとる機会になるという意義も持つものだと感じた。

健診がはじまる前、現地の保健師さんからは「震災の影響で、家族や友人を失ったり、これまで住んでいた土地から離れることを余儀なくされ未だ新しいコミュニティーに馴染めていなかったりする人たちがいる。そういう人たちとコミュニケーションを取るのも、この健診の重要な意義の一つ。時間をかけて、雑談も交えながら、じっくりお話してくださいね。」と言われていた。運動テストを監修した医師の方は、「無機質な健康診断ではなく楽しみながら取り組んでもらい、次の年までにどういったことに気をつけて生活するかのヒントを得て欲しいと思い内容を考えた。たくさん褒めるなどの工夫をし、健診に好印象を持ってもらいたい。」と話していた。健診に来た方の中には「家族をなくし、一人で暮らすようになった。そのため、ほとんど人と会話をすることがなくなってしまった。」

「避難のためにこれまで生活していた場所から離れた。今なお新しいコミュニティーに馴染めない。」、「長屋での共同生活は人間関係のトラブルが多い。震災前に近所に住んでいた人たちはみんな仲が良かったのに。」などと話す方が何人もいた。そうした方が健診後、「たくさんお話ができて楽しかったよ。」と笑顔で話してくれた。私とは普段過ごしている場が全く違うからこそ話せたこともあっただろうと思う。一緒に話をするだけでも喜んでもらえたようで嬉しく思った。
健診データを用いて解析した結果、原発事故が起きてから、事故前と比較して、生活環境が変化し、生活習慣病になる住民が増えたという。

「今日、久しぶりに外出したよ。」と話す人に詳しく聞いてみると、やはり原発事故が関連しているようだった。とは言っても、放射線のため外に出られないからではない。そうではなくて、「震災後は風評被害で農作物を作ってもどうせ売れないので農業をやめた。そうしたら全く外に出なくなってしまった。」ということだった。

瓦礫が片付き、建物が次々に新しくなり、みずみずしい作物が実るようになり、何組もの親子連れが海で楽しそうにはしゃいでいた。見かけ上の復興は私が想像していた以上に確かに進んでいた。また、現地の医師の方から聞いたところによると、2013年、南相馬市で延べ3万人に行われた検査で、99%の小児、97%の大人から、放射性セシウムは検出されなかったそうだ。
しかしながら現地の方々の話に耳を傾けてみると、コミュニティーの変化であったり、風評被害であったり、依然として震災の影響が強く残っていることが見て取れた。

だが、今回の健診がこういった問題の緩和への手助けになったのではないだろうか。
健康診断というと、各々がそれぞれのタイミングで、病院や診療所に赴き、病室で機械による検査を受けるというのが一般的である。相馬市で行われているように、地元の公民館を用いて、4日間という短い期間に一斉に、コミュニケーションを大切にして行われる健康診断の取り組みは、健康状態がわかるだけでなく、コミュニケーションの場や外出の機会を提供するという意義も持つ。健診に参加した看護師さんも話していたが、普通の健診では楽しかったという感想はまずあり得ないだろう。コミュニティーが破壊された地域での一斉健診はコミュニケーションの場としての効果を持ち、ひいては住民の健康にとってプラスの作用をもたらすのではないかと感じた。浜松は海からも浜岡原発からも近いため、南海トラフ地震が起こった際は同様の事態になることが予想される。そのときには相馬市での取り組みを今度は医師として浜松で役立てたいと思う。

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