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臨時 vol 330 「未承認適応問題は653億円では解決できない」

医療ガバナンス学会 (2009年11月8日 13:26)


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~ドラッグ・ラグの根本解決にはお金より制度が必要~

卵巣がん体験者の会スマイリー
代表 片木美穂


●はじめに

2009年11月04日、衆議院予算委員会で、公明党富田茂之議員から「未承認薬等
開発支援金」の一部が執行停止になった件について質問がありました。補正予算
で未承認薬等開発支援金を3年間でおよそ753億円を計上したところ、すでに未承
認薬検討会で開発が必要と認められた12成分に充てる予算100億円を残し、未承
認適応医薬品の開発分の653億円が執行停止になったことを鳩山由紀夫総理大臣、
長妻昭厚生労働大臣に強い語調で質問されました。

そのなかで、去る10月07日に開催された日本製薬工業協会の未承認薬、未承認
適応に関するセミナーで私が発表した内容を紹介されたことに驚きました。私は
富田議員とは面識がなく、もちろん今回の質問に関しても事前に話を引用するこ
とを伺っておりませんでしたので本音をいうと酷く困惑しました。委員会の内容
を何度も見直し、私自身の考えを明白にしておかなければ富田議員と同じ思いだ
と誤解されるのではと不安になりました。

●使い道が「見える予算」、使い道が「見えない予算」

今回のこの補正予算が降ってわいたのは2009年6月18日に開催された「第21回
未承認薬使用問題検討会議」でのことです。医薬食品局審査管理課長が「5月の
末に成立した補正予算の中で、未承認薬・適応の開発支援として7百数十億円、
また、それらの薬の審査を急ぐ費用として40数億円、合わせて800億円弱の基金
をつくって、3年間集中的にこれに取り組むということにした。」という発言を
したところからはじまります。

それと前後しますが日本製薬工業協会が「未承認薬等開発支援センター」の設
立について、4月28日の臨時総会で承認を得て、約1か月後に設立されました。10
月7日の日本製薬工業協会のセミナーでも未承認薬検討会で開発が必要とされた
医薬品12品目に対して、未承認薬等開発支援センターがバックアップする形で開
発を進めていく旨の説明がありました。先にも説明しましたが、その資金100億
円は補正予算でも必要だと認められ執行停止になっていません。

しかし、残りの予算に関しては未承認薬使用問題検討会議でも、審査管理課長
から「8月17日まで募集されたパブリックコメントで集められた開発を希望する
医薬品の中より、検討する」ということが言われただけであり、同検討会の藤原
(久)委員、大塚委員が他の会議との兼ね合いや、支援の線引きなどについて慎
重な発言をされたことに対して審査管理課長が「まだ具体的には決まっていない、
これから検討していく」という旨の説明をしています。そのことからもパブリッ
クコメントで意見を集めてもそれがどのように審査されるなど基準がかなり不明
確であることが伺い知れます。

つまり、100億円の「使い道が見える予算」と残りの基準も品目も不明確だけ
どつけられた「使い道が見えない予算」が執行停止されたものであったことは明
白です。

●ドラッグ・ラグの根本解決にはお金より制度が必要

先の総選挙で民主党が圧勝したのは「脱官僚」とともに「無駄をなくす」とい
うところに多くの国民が心動かされた結果ではないかと感じています。10月07日
の日本製薬工業協会セミナーでも予算の執行停止について複数のマスメディアに
インタビューをされましたが、私はこの補正予算の執行停止に「覚悟していた」
と答えました。それは使い道をこれから考える「見えない予算」なのだからあた
りまえだという思いからでした。

そしてなによりも私がこのお金に対して執着しなかったのは「たかが653億円
もらっただけでは未承認適応の問題は何も解決しない」と理解しているからです。
未承認適応の問題に関しては、国のシステムに大きな問題があり、解決が必要だ
ということは、この問題を解決しようと真剣に関わっている人ならだれもがわかっ
ていると思います。

【解決策その1:薬価維持特例制度の導入】

今の薬価制度では、主戦力となる医薬品をひとつ開発してしまえば、ずるずる
と製薬企業に収入が入るような設定がされており、リスクを背負って新薬を開発
する必要もありません。反面、大きな費用も入ってこない仕組みになっているこ
とから、製薬企業が新薬の開発に意欲的になるのは難しいと感じています。

そのことから、革新的な新薬の薬価は後発品発売までの間は引き下げずに維持
し、その後の後発品の発売に合わせてそれまで維持した分の薬価を一括して引き
下げるような薬価維持特例制度を導入することにより、企業は早く開発資金を回
収できます。そして古い薬は薬価が下がることにより、新薬を開発しつづけなけ
れば企業は収入が大幅に減ることになり経営を続けていくことができません。何
よりも、この制度の注目すべき点はいちいち国が公費を製薬企業に渡さなくても、
開発費を自己調達できるのです。

つまり、企業がどうして開発できないのかを検討し、開発しやすい土壌を作る
ことが大切だと考えます。

【解決策その2:日本版コンパッショネートユース(人道支援)の設立】

もうひとつ、適応外に関して、私は「日本版コンパッショネートユース(人道
支援)」を提案しています。日本では治療薬に安全性が強く求められ、また独特
の体質があるのではと心配する声があり、未承認薬には審査は必要だと考えます。
また高度医療評価制度もはじまったことから未承認適応の問題を解決するために、
いろいろな立場の方から話を伺いこれがベストなのでは?と考えた提案です。

今、卵巣がんに対しては多くの病院がジェムザールを適応外使用しています。
医師は「混合診療の問題」「遺族などから訴訟を起こされる不安」と背中合わせ
での治療を行っています。そして個人輸入や適応外使用が公然と行われていると、
結局はデータ集積が出来ず、無駄になり、結局現行の制度のままだと、どんどん
とラグが広がっていくことになります。

以前、適応外使用を求める患者の声を論文に書いた時に、多くの医師から、適
応外使用をして訴訟を起こされた時にだれも守ってくれない、患者さんが助かる
かもしれないのに療担規則をやぶれないから医薬品が使えないことが辛いといっ
た悲痛な声が届きました。

どうして命を助けたいと願う現場の医師が、わたしたち患者と共に治療薬の問
題で苦しまなければならないのかと思うと本当に解決しなければ誰も救われない
と強く感じました。

私がいう「日本版コンパッショネートユース」は、適応外医薬品の要望があれ
ば一定の審査し必要だと認められたら保険償還します。これにより、エビデンス
が無い代替医療などを排除できます。このとき大切なのは現場を知らない有識者
や御用学者が審査に当たらないことだと思います。保険償還することで混合診療
の問題を回避できます。

そしてきちんとご本人に適応外である旨の説明を行い承諾してもらう(場合に
よっては家族の同意)ことにより訴訟のリスクを減らします。

ただし、適応外使用をする医療機関は製薬企業にデータを提出することになり
ます。イメージとしては市販後調査に似た形になるともいます。定期的に問題が
ないかチェックしながらデータを製薬企業が集積し承認につなげればいいのだと
思います。

もちろん、これらは詰めなければならないことは多々ありますし、患者のたわ
ごとととられてしまうかもしれませんが、いろいろな方の話を聞くととにかく
「何か未承認適応に関しては手立てが必要だ」というのはコンセンサスが取れて
いると思うのです。

私はたった3年間ではありますが、真剣にドラッグ・ラグの問題に取り組んで
いると思っています。その体験から言えるのは、「653億円は麻生政権のバラマ
キであり、そんなお金ではドラッグ・ラグを解決できない」ということです。同
じ653億円使うのであれば、先日不幸にも乳がんの母親が、高額な医療に苦しみ、
白血病のお嬢さんを殺害した問題のようにグリベックなど高額な医薬品に診療報
酬をつけるなどして医療費を軽減することを私は提案します。同じお金でも国民
の血税が使われるのであれば、本当にお金で解決できる問題を根本解決してほし
いです。

●鳩山総理と長妻大臣の答弁は小さくても大きな一歩

衆議院予算委員会での富田議員の質問に対して、長妻昭厚生労働大臣は「パブ
リックコメントで意見は求め多くの医薬品に関する要望があり、執行停止になっ
た653億円はどの医薬品に使うと明確に決まっていなかった。」と筋道の通った
説明をされました。さらに「本当に開発が必要であり国が支援しなければならな
い医薬品があるのならば本予算をつければいい」という発言をされました。つま
り、私たちが求め、本当に公費で解決するものはきちんと検討すると明言された
のです。麻生政権の終末期に降ってわいたような補正予算ではなく、必要なもの
には払うという筋道のとおった説明は、本当に必要だと私たちが説明し、声をあ
げることで解決できる可能性を示唆していると感じました。

また富田議員は、未承認薬等開発支援センターが引き受けた12品目の医薬品に
対して「12品目なら120億円じゃないか。」と100億円である根拠を長妻大臣に求
められた件に関しても「ヒアリングをして100億円で足りると確認した」といい、
この件に関しては12品目だから120億という富田議員の言い分のほうが「黙って
金を一律渡しておけばいい」と言っているようで違和感がありました。先に実施
されたパブリックコメントに関しても376件の要望を精査し本当に必要なら支援
すること明確にしている長妻大臣の言い分は筋が通っていると感じました。

またかねてから未承認適応の問題解決を訴えていたことで意見を求められた古
川元久内閣副大臣の回答も「景気対策のための補正予算であることから、実際に
今年度中にお金が使われると明確でない」と長妻大臣の意見を後押しされました。

日本製薬工業協会のセミナーでの私たち卵巣がん患者の話を富田議員が紹介し、
「いのちを大切にする友愛ではないではないか」と指摘された鳩山総理大臣も、
「いろいろ難しい点もあるかもしれませんが、未承認薬、未承認適応の問題に悩
んでいる患者さんの悩みが1日でも早く希望に変わるように努力をする」と明言
されたことはこれまでなかなか国として取り組む姿勢が見えなかったこの問題に
対しては大きな一言なのではと感じます。少なくとも近年の国会で未承認適応に
関してこのように大きく取り上げられたことはなかったように感じますし、近年
の総理が我々の小さき声に対して答弁をしてくれたこともなかったように感じま
す。

今回、衆議院予算委員会で私たちの思いが紹介され、未承認適応の問題が大き
く議論されたことは、この問題に命がけで取り組んできた私たちにとってはとて
もありがたいことであり富田議員にとても感謝しております。しかし、「多くの
患者会から悲痛な声が寄せられている」と質問の冒頭におっしゃっていたように
本当に患者の声をきいておられるのであれば私からもヒアリングしていただきた
かったなと少し残念に感じてしまいます。

でも、また一歩前に進んだのですから、前向きにとらえてこれからもこの問題
の解決に取り組んでいきたいと思います。目の前にあるいのちのために。

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