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臨時 vol 337 「本物のパンドラの箱が開く」

医療ガバナンス学会 (2009年11月16日 11:59)


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~ 第17回薬害肝炎検討会・アンケート騒動 ~

ロハス・メディカル発行人

川口恭


東京・虎ノ門には、あたかも霞ヶ関の「植民地」のように出向官僚やOBが幹
部を占める外郭団体が少なくない。この植民地外郭団体が公益を担うとされ、し
かしミッションと現実にやっていることとの間に乖離がある場合、その原因の多
くが植民地構造に求められる場合に、プロパー職員たちは最後まで出向官僚たち
をかばうものだろうか。こっそり意見を聴いてみたらビックリするような情報が
出てくる可能性もあるのでないか。

こんな簡単なことに、今まで気づいていなかった。

気づいたのは、先月29日に行われた厚生労働省の『薬害肝炎事件の検証及び再
発防止のための医薬品行政のあり方検討委員会』第17回会合で、こんなやりとり
があったからだ。

薬害肝炎弁護団の水口真寿美弁護士が「組織の文化が一番大事だから。それを
知りたい」と、医薬品の審査を担当している独立行政法人・医薬品医療機器総合
機構(PMDA)職員を対象に匿名でアンケートを実施したいと提案したのだ。
水口弁護士は、終始PMDAの体質に懐疑的な立場で通してきている。

対して、ここ3回参加しているPMDAの近藤達也理事長が真っ先に手を上げ
た。
「私が昨年4月に着任した時、PMDAの組織の多様性にびっくりした。5年前
に発足したのだが、元々は多くの組織の集合体。一つのまとまったものの考え方、
共通のベクトルを持たないといかんということで理念を作ることにした。その意
味では水口委員のアンケートしたいというのには共感する。こちらではアンケー
トまではしなかったけれど各人から提案をもらって半年位かけて5カ条の理念を
作りあげた。これが現時点での組織文化。いわば5種類の混合ワクチンを職員の
体内に入れた。それが生きているのか、消えてしまっているのか分からないが、
アンケートをもらっても、どれだけバラつきがあるかはともかく、少なくとも外
向きの対応はここから外れることはないはずだ」

この検討会はずっと「薬害被害者」対「医療者」の構図が表に見えており、
「薬害被害者」側に引っ掻き回されることへの警戒心がにじむ。

水口委員、苦笑しながら
「外向きの対応はこうである、と理事長さんは言うけれど、私たちの委員会とし
ては現実にそこで働いている人たちが能力や良心を十分に発揮してほしいと願っ
ているわけで、そのためにどうしたらよいのかという生の声をきちっと届けてい
ただきたいという思いで提案させていただいた。これしかあり得ないから皆がこ
の通りに回答する、のであればやる意味がない」

このまま話が終われば、被害者と医療者を対立させ、何かを隠して利益を得る
人がいるのかもしれないという想像力は働かないままだった。しかし

森嶌昭夫・座長代理(日本気候政策センター理事長)
「水口委員の気持ちは分かるが、これからの時間で我々に残されている課題を考
えてみると、あと半年で安全対策に関して具体的な提案をしなければならない。
私も色々とこの手の調査をやってきているけれど、こういう漠然としたアンケー
トでどういうものが返ってくるのを期待しているのか。そして返ってきた時に、
その結果を来年2月3月までに、どうやって提言に反映、回答の中からどういう
ことを汲み取れると期待しているのか。提言に組み立てていくのに、どう役立つ
か想定しておられるのか。ただ何となくやるというのでは、国民の貴重な税金の
無駄遣いになる」

弁舌は止まらない。
「このようなアンケートから果たして意味のあるものが出てくるだろうか。そう
でなくても時間がないのだから、やるのなら水口さんがPMDAへ行ってヒアリ
ングして、その結果を持って報告されたらいかがか。この委員会として水口さん
を派遣して、聴いてきてもらうのなら、私もどのように聴いてくればよいか知恵
はお貸しする。これ以上の時間と労力と事務局の手間ヒマと国の予算を使うのに
は効果の点から反対だ。調査そのものに反対というのではなく、今からやっても
効果が期待できない。労力を最小にするには、水口さんがボランティアでぜひお
やりになるといい」

水口
「私がヒアリングに行って本音を喋ってもらえると思うのか」

森嶌
「人の心が読めないようでは弁護士は務まらないだろう」

凄まじい嫌味で追い詰める。なぜ、そこまで言わなければならないのだろう。

水口弁護士は、この執拗な口撃に対して
「私も何が何でも実施すべきとは言ってない。ただ、組織のこととか人材育成の
こととか議論しているのに、そこにいる人の声を聞かずに進めてよいものだろう
かと思ったまでだ。労力はそんなに大変なものだろうか。問題意識のある人が何
か書いてくださるのでないかというだけのこと。ただこの委員会のメンバーの中
に一肌脱ごうという人がいなければ難しい。私自身は第三者組織をつくるワーキ
ンググループのメンバーでもあるので、それをするのはどうかなと思う。とりあ
えず提案はさせていただいたということだ」
と、逃げに入った。

話はこれで終わるかと思われた。しかし、普段ほとんど発言しない山口拓洋・
東大大学院准教授(データ管理)が手を上げ、そして事態は急展開する。

山口
「私もこのアンケート案を見た時に、本音は書いてくれないだろうなという印象
を持った。だが我々は問題の根源が組織文化にあるという議論をしている。PM
DAの方が第一次提言に対してどのように思ったのか、机上の空論でないかとい
うような生の声を取り入れない限り偉そうなことは言えない。個人的には審査を
やっている方の生の声を知りたい」

大熊由紀子・国際医療福祉大大学院教授(元朝日新聞記者)
「賛成。この委員会のことを一番真剣に見守っているのはPMDAの方々だと思
う。漠然とした設問だと答えにくいと思うので、近藤理事長が挙げた5つの理念
は実現可能なのか、できないとしたらその壁は何か、を書いてもらえばよい。理
事長には、職員に対して本当のことを書いてくれと号令をかけていただきたい。
私も内部に何人か知り合いがいるので、本当に全員に号令をかけたか、小声で違
うことを言ってないかということは分かる」

寺野彰座長(獨協医大学長)
「大熊さんは一肌脱ごうという気はないか」

大熊
「半分くらい」

小野俊介・東大大学院准教授(薬学・元厚生技官)
「私も賛成。なぜならば現場にいる人の意見をこれまで全く聴いていないから。
マネジメントする側の方しか来ていない。隠れた意見は面談で出てくるはずがな
い。匿名の紙というのはよいと思う。大して費用はかからないし費用対効果がど
う悪いのか私には理解できない。どういう意見が出てくるかが怖いから聴かない
というのなら、そもそも全員委員を辞めなければいけない」

完全に形勢逆転である。

坂田和江委員(薬害肝炎原告団)
「私も賛成。現場主義が何より。野村総研にやってもらうわけにはいかないのか」

事務局
「一応問い合わせてはみるが、既に本年度はギリギリいっぱいという話を何度も
聞いており、簡単にやってもらえそうとは言えない」

寺野
「水口委員は、自分で言っておきながら、どちらでも構わないんだということだっ
たが」

水口
「言った以上は自分で一肌脱がなければならないとは思っているのだが、第三者
委員会のワーキンググループにも気合を入れて参加しないといけないので、実務
作業をするとなると体を壊すかな、と」

森嶌
「現場の意見を聴くことそのものに反対しているわけじゃない。野村総研に頼む
と言っても彼らもタダで仕事しているわけじゃない。アンケートをやるなら労力
を少なくして、本来やらなきゃいけない仕事の妨げにならないように」

話している最中に山口委員が声を荒らげて割ってはいる。
「これこそが本来やらなければならない仕事ではないのか」

寺野
「これは座長の責任だが、この問題が今出てくるのがおかしい。本来はもっと早
くこういう調査をすべきでないかという議論をしなければいけなかった。理事長
さんはやっても構わないという意見なのだろうか。しかし実際に果たしてできる
のか」

椿広計・統計数理研究所リスク解析戦略研究センター長
「現場の状況や意見を聴いて検証するのに大熊先生の設問はよいと思う。5つの
理念は可能か、何がハザードか、そのハザードはどういう経緯で出てきたものか、
我々の提言は方策として有効か、有効でないとしたら何が原因かを尋ねたらどう
だろうか。なお、匿名性を担保するには、きちんとした集計事務局を設ける必要
がある。どこかでやれというのなら検討してみても構わない」

山口
「分析とか細かいことは私がやってもいい」

小野
「私も」

堀明子・帝京大講師(医師、元PMDA審査官)
「アンケートをすることに賛成。ただ、先ほど大熊委員が言ったようにPMDA
の人がこの委員会のことを真剣に見守っているかなというのは懸念していて、実
際にはこの委員会で自分たちのことを議論されていることすら気づいてないかも
しれないと思う。だから、こういう議論がされてるんだよというのを知らせる意
味でもアンケートをするのはよいと思う。ああいう仕事をしている人たちなので
本音は書いてくれると思うが、そうはいっても一体どういう背景でこのアンケー
トが来ているのか理解できないと書きようもない。その辺りを簡単に説明した方
がよいだろう。それから解析に関しては、疑っているわけではないのだが、誰が
どうやるかによって見方が変わるのでそこは慎重にやった方がいい」

泉祐子委員(薬害肝炎原告団)
「昨年、PMDAの見学をした時、非常に理路整然としたものを見せられた。も
う少し形にならないありのままのゴロっとしたもの見せていただきたいと感じた。
水口先生がアンケートをなぜ提案したかというのは資料にも出ているとおり、F
DAでも同じことをしていて、それがFDA再建の基礎になったからだ。この委
員会の限られた時間ではあるが、大熊先生のように能力のある方々が皆で協力し
てやるのであれば可能かなと思う」

寺野
「やるとしたら今日決めないとスケジュールが間に合わない。近藤理事長の協力
は必要だが、アンケートをやってみたい」


「対象者も決めちゃった方が」

水口
「本省とPMDAとでかなり人事交流しているので、本当は本省の人も含めてやっ
た方がいいのかもしれない」

寺野
「これは、ここでは詰められない。実施するということにして、具体的な内容を
どうするかは今指名するので、その方々でワーキンググループを作ってやってい
ただきたい。それから事務局は厚生労働省にお願いしたい。政権交代で大変だろ
うとは思うが、やはりPMDAに頼むのは少し問題があるだろう。山口、小野、
大熊、水口、椿の5人で近藤理事長にもご協力いただいて、内容や厚生労働省も
含めてやるのか検討してほしい」

PMDAは非常に専門性と公益性の高い業務を担っているが、全職員500人余り
のうち100人以上が厚生労働省からの出向で、役員・幹部にいたっては80%が霞
ヶ関からの出向とOBで占められているという。
(この原稿は、ロハス・メディカルweb http://lohasmedical.jp に、10月29日
付で掲載された記事に一部加筆したものです。)

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