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臨時 vol 343 「薬害肝炎委員会体験記(その1)」

医療ガバナンス学会 (2009年11月16日 12:06)


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卵巣がん体験者の会 スマイリー
代表 片木美穂


●はじめに
11月16日15時からの「薬害肝炎事件の検証及び再発防止のための医薬品行政のあり方検討委員会」(薬害肝炎委員会)でヒアリングをしたいと当局から連絡がありました。4月に薬害肝炎委員会が発表した第一次提言に対して、「ドラッグ・ラグ、ワクチン・ラグ被害者の声を聞いてほしい」と7月に要望を出したことによるヒアリングです。
この第一次提言の内容は、私たちのように必要な医薬品を求める患者会・患者支援団体の思いとズレが生じており、薬害被害者の視点に偏ったものであるのではないかと感じずにいられないものでした。そのことから薬害肝炎委員会で、ドラッグ・ワクチン「ラグ」の解消という視点が不十分なままで議論・検証が続けられることは、むしろ「ラグ」を拡大させる危険性をはらむものと危機感を覚えたのです。
まもなくヒアリングがはじまりますが、初めての体験ですし、もっと気持ちが熱くなったり不安になったりするのかと思いましたが、不思議と穏やかな気持ちで来るべき時間を待っています。

●薬害問題との出会い
2006年9月、私は卵巣がん体験者の会スマイリーを設立しました。
そのころは、薬害肝炎の件がたびたびテレビで報道されており、大勢のマスコミに囲まれている原告団のみなさんを霞が関で見かけたこともあります。
私たちも署名活動などを通じてマスメディアの取材を受けることもありましたが、その時に必ずと言っていいほど「薬害肝炎の被害者のみなさんは治療薬で被害に遭った人たちですが、彼ら命がけで裁判していることを、治療薬が欲しいという立場のあなたはどう感じますか?」と聞かれました。場合によっては「彼らは被害者で国民はみんな応援している、こんな時期に治療薬が欲しいなんていっているあなたは反社会的だ」とマスコミに非難されることもありました。
そして当局からも「薬害被害者のみなさんをごらんなさい。治療薬の承認は彼らの心情にも配慮してあげないと」と言われました。同行したスマイリーのメンバーからも「”知らぬが仏”という言葉がある。薬害が起きたら責任が持てないし治療薬がないということを世間に知らせる必要はないじゃないか。署名を提出したのだからもう終わりにしよう。」と言われたこともありました。
当時の私は、とにかく卵巣がんのことを知ることだけで精一杯で、「この状況はおかしい」とはいえても、うまく説明ができず、会員にも理解してもらえないことに何とも言いようがない虚無感にかられました。何とか理解して貰おうと焦れば焦るほど精神的にも追い詰められ、過呼吸発作を起こして病院に通うことになりしばらくは患者会活動も低空飛行になりました。しかしその時間が、自分と対峙することで「ドラッグ・ラグは解決しなきゃいけない問題」と思うようになり、「薬害に関して知ることから始めよう」と過去の新聞記事をインターネットで検索したり、福田衣里子さんの本を手に取り何度も何度も読むきっかけになりました。

●作られた敵対関係
薬害肝炎の問題を調べれば調べるほど、私はあることに気づきました。それは「極めて構造は似ているのではないか」ということです。そして「薬害と副作用は違うのではないか」とも感じました。つまり、一部のマスメディアや、当局の説明にあった「薬害の方の気持ちを慮らないと」とか「ドラッグ・ラグ解消は反社会的」という言葉は、どちらか一方を悪者にすれば問題の本質から目を背けられるとか、面白おかしくなるとか…そういう作られた敵対関係であると感じたのです。
【薬害とドラッグ・ラグの構造】
薬害肝炎は、海外ではとっくの昔に使用が中止された(危険であることがわかっていた)お薬を、儲かるなどの理由でズルズルと日本では何十年も使いつづけられたことで被害者が増えています。そしてそのような問題に対策を講じなかった国と企業の人為的かつ不作為により多くの人が命の危険にさらされています。一方で、ドラッグ・ラグは、海外ではとっくの昔に承認され使用されている(エビデンスのある)お薬が、儲からないなどの理由から日本では開発されずに、適切な治療を受けられない被害者が増えています。日本が医薬品を開発するのに世界のスピードについていけない土壌だと国も企業も医師も国民もわかっているはずなのに対策を講じなかった不作為により多くの人が適切な治療を受けられないのです。
【薬害と副作用】
福田衣里子さんの著書「It’s now or never ─ 薬害C型肝炎と向き合って」を読むと、福田さんが治療を受けたインターフェロン治療は脱毛や皮膚のかゆみ、発熱など抗がん剤以上ではないかと思うくらい辛い治療を受けられていると感じました。福田さんは最初のインターフェロンが奏功しなかったようですが、その後、ペグインターフェロンとリバビリンの併用療法が承認され奏功したと伺っています。つまり「薬を何が何でも悪」としているのではなく「必要な治療を自らも体験されている」と感じました。そしてとても辛い副作用を体験されていながらも、受けたインターフェロン治療を裁判では訴えておられません。そのことからも副作用と薬害は別のものと理解されているのではと感じました。
そのことから、私たち抗がん剤も副作用があるけれど、治療を受けて治りたいという気持ちは理解していただけるのではないかということと、私たちも危険だとわかっているのに使い続けられ不幸な人が出る「薬害」は産みだしたくないと思っているので、わかりあえるのではないかと感じました。

●福田衣里子さんとの出会い
私たちスマイリーが活動を始めてから3年2か月経ちましたが、相変わらず、薬害被害者のみなさんに対しての気持ちをマスメディアに聞かれることがあります。その時に「私たちは本質がどこにあるかお互いわかっていると思う」というと、面白くないのか発言はいつもカットされ、相変わらず一部の癌患者会からは「薬害の人がいるから大変よねぇ」と言われます。障害者という表現もそうですが薬害の人と表現されると「彼らが害じゃない!」と腹正しく思い「薬害被害者です!」と訂正することもしばしばあります。
そんななか、ある報道関係の方のご紹介もあり、福田衣里子さんに3月に東京で開催された「ドラッグ・ラグ、ワクチン・ラグ」のセミナーにパネリストとして来ていただきました。やはり思っていたとおり、私たちは歩み寄れる部分も多くあると感じました。その後、福田さんは衆議院議員選挙に出馬されましたが、当選された日の日本テレビの特番、初登院の日にはテレビ朝日のワイドショーの取材に対して「ドラッグ・ラグは解決しなければならない問題」と言ってくださり勇気をいただきました。
先日も、細菌性髄膜炎から子どもたちを守る会が衆議院議員会館で開いたヒブワクチンや小児肺炎球菌ワクチンの定期接種化を求める勉強会に参加してくださり、問題解消を明言してくださいました。
ドラッグ・ラグで適切な治療を受けられず亡くなったり、がん難民になっている患者さんの存在とともに彼女の存在が今回のヒアリングに出てみようという大きな勇気になりました。
また、薬害肝炎被害者のみなさんは、肝臓がんという病気をとても心配されていると伺っています。肝臓がんは慢性肝炎や肝硬変などが進んでいる場合も多く、治療に苦慮される患者さんも少なくないと医師からは伺っています。最近では「ソラフェニブ」など有用性のあるお薬もでていますが、今年のASCOでトリプルネガティブの乳がんに対してカルボプラチン他の併用療法が有用だと発表されたように、特許切れした医薬品でも肝臓がんに有用だという抗がん剤がでてくるかもしれません。そんなときに私たちと同じように「ドラッグ・ラグ」や「適応外」という問題で薬害被害者のみなさんが苦しむことが無いように癌を体験した患者だからこそ勇気を出して、限られた時間ではありますが薬害肝炎委員会のみなさまに思いを伝えたいと思っています。

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