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臨時 vol 344 「クスリの審査を「科学」する」

医療ガバナンス学会 (2009年11月17日 06:36)


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-適応外使用問題解決の処方箋

成松宏人
山形大学 グローバルCOEプログラム 特任准教授
東京大学医科学研究所 先端医療社会コミュニケーションシステム社会連携研究部門 客員研究員


【適応外使用問題】
新規薬剤の承認は多く場合承認前に治験を行いそれによって得られたエビデンスをもと
に申請を行います。しかし、たとえば稀少疾患に対する新規薬剤など、医療現場からの質
の高いエビデンスを作り出すことが困難な場合もあり、実際に承認されるかどうかに関し
て審査当局の判断が関与する事例もかなりあるのではないかと考えられます。
しかし、その審査当局の判断が妥当なものかどうか、筆者の知る限り学術的な批評が加
えられることはありませんでした。そこで、筆者らの研究グループは抗がん剤「フルダラ
ビン」を日本の審査当局である医薬品医療機器総合機構(Pharmaceutical medical device
agency; PMDA)が追加の効能・効果を承認する過程を学術的に見直しました。その結果はア
メリカ臨床腫瘍学会の学会誌であるJournal of Clinical Oncology誌(電子版)に11月2
日付けで掲載になりました。
Journal of Clinical Oncology誌は臨床腫瘍分野で最も読まれている世界的な学術誌の
一つです。このような一流の海外学術誌が日本の国内問題を扱った研究を掲載するのは異
例です。これは、以下で紹介するように、PMDAの判断自体が興味深いものであったこと、
そして、それを第三者が学術的に評価するという試みが注目された結果だと筆者は考えて
います。
そこで、本稿ではこの論文の内容を紹介し、フルダラビンで問題になった適応外使用の
問題について考えてみたいと思います。

【フルダラビン】
フルダラビンは近年急速に広まった造血細胞移植法の一つである「ミニ移植」になくて
はならない薬剤です。この薬剤はもともと1999年に日本で慢性リンパ性白血病の治療薬と
して承認されていますが、同種造血幹細胞移植の治療薬では適応承認がなかったため、適
応外使用が行われていました。本来ならば、製薬会社が治験を行った上で追加適応承認を
得るべきですが、主には経済的な事情などから臨床試験に着手しなかったのです。
このような状況から2004年には、日本造血細胞移植学会などの関連する学会より厚生労
働省へ造血幹細胞移植の前処置としての承認を求める要望が出されました。その後、2006
年4月に日本シエーリング株式会社(現 バイエル薬品株式会社)が公知申請つまり、申請
薬剤の有効性が広く認められていることを示すことにより適応拡大を申請し、2008年5月
に同種造血幹細胞移植の前治療薬として承認されました。

【公知申請】
ここで公知申請について簡単に説明したいと思います。薬事法施行規則第40条には医薬
品として申請する場合に薬理学的な資料の他に臨床試験などの試験成績に関する資料の添
付を義務づけています。一方で、申請に関係する事項が医学薬学上公知(皆が認めている
こと)であると認められる場合は申請書類を添付する必要がないことが定められています。
これの条文を利用して、主に治験を行わずに申請する方法が公知申請です。

【エビデンス調査】
筆者らは、この研究でPMDAに提出された資料を再度見直し、どのようなエビデンスが含
まれているかを調査しました。詳細は論文に譲りますが、以下のことが明らかになりまし
た。

1) 造血細胞移植用の薬剤としてのフルダラビンの安全性や効果を証明できるようなエビデ
2) ンスレベルの高い研究はほとんどなかった。
つまり、提出された資料からはフルダラビンが安全かどうか、効果があるかどうか結論が
でないことを意味しています。

3) フルダラビンは国内外で多数使用されていた。
国内では申請の段階で1000例以上の使用が報告されていました。多数使用されているとい
うことは、つまり医療現場に支持されているということです。ということは、安全性や効
果に対して医療現場には一定のコンセンサスができていたことを示しています。(安全性
も効果も低い薬剤は医師が使わないからです。)

筆者らの研究からはPMDAの判断は主には2)の臨床現場のコンセンサスに基づいていたこ
とが強く示唆されたわけです。

【判断の妥当性は?】
筆者らは、一部では議論の余地があるものの(詳細は論文をご参考下さい)おおむねこ
のPMDAの判断は妥当な判断だと評価しました。適応外使用がこれだけ広まってしまうと、
医師や患者に多大な労力や負担が発生するような臨床試験に十分な患者数を集めることは
難しいからです。特に今回は製薬会社が治験をしないと表明したので、やるとしたら医師
が主導する臨床試験になります。しかし、これはほとんど手弁当で行うことが多く、医療
現場の極めて多大な労力が必要になり、完遂するのは極めて難しいと予想されます。この
ような状況を考えると現場のコンセンサスで承認をするというのは現実的な判断だったの
でしょう。

【公知申請は適応外使用問題解決の処方箋となるか?】
すでに承認されている薬剤が、フルダラビンのように別の疾患に対して適応外使用され
ているケースは少なくありません。卵巣がんに対するジェムシタビンなどがその例です
もちろん、そのような場合は治験を行ったうえで、追加の適応を申請するのが理想です。
しかし、その追加適応を取得するための費用が、承認取得後に得られる利益を上回るなど
の経済合理性が低い場合は製薬企業が、治験の実施に二の足を踏むことが多いでしょう。
その結果、適応外使用を続けることは、費用負担の面からも、安全性についてのフォロー
がおろそかになりがちな面からも問題であることは以前より指摘されているとおりです。
筆者は今回のPMDAの判断は、現場のコンセンサスが得られているなどの条件が揃うなら
ば、フルダラビンと同様の状況にある他の薬剤に適応することは可能なのではないかと思
います。ただし、その条件として、どのようなものが適切なのかは今後議論を重ねていく
必要があります。また、申請前に十分検討できなかった安全性や有効性に関しては承認後
も情報収集や再評価する仕組みも必要でしょう。そして、下された審査当局の判断の妥当
性をアカデミアが学術的にチェックすることは必須です。
これらのことが可能ならば、今回のPMDAの判断は適応外使用問題解決の処方箋の一つに
なりうるのではないかと思います。

【論文の詳細は……】
論文の詳細は以下をご参照ください。

http://jco.ascopubs.org/cgi/content/abstract/JCO.2009.23.9020v1

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