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臨時 vol 346 「事業仕分けと御用学者」

医療ガバナンス学会 (2009年11月17日 22:40)


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北海道大学大学院医学研究科
医療システム学分野
助教 中村利仁


11月17日午後、1時間以上遅れて始まった国立保健医療科学院の事業仕分けで、
驚いたことに医療政策の研究者の個人名が上げられて事業の是非を巡る議論が行われ
ました。

名前を上げられたのは同院の元・政策科学部長である長谷川敏彦先生(現日本医科大
学 医療管理学教室 主任教授)です。

自分は研究者になる前は外科医として10年間働いていましたが、当然に医療政策や
病院経営についての系統的な教育を受けたことがありませんでした。大学院進学に当た
って国立保健医療科学院の病院管理専攻科で教育を受け、漸く基礎的な知識を得ること
ができました。長谷川先生は、その時の恩師の一人でもあります。

問題とされたのは長谷川先生が平成18年度厚生労働科学研究費補助金(厚生労働科
学特別研究事業)「医師需給に関する研究」等の結果を基にして厚生労働省「医師の需
給に関する検討会」(平成17年〜18年)に提出された資料の、特にその第13回(平
成18年5月29日)で、医師は「少し足らないが努力次第では何とかなる」程度の需
給状況であるとした報告です。

医師の需給に関する検討会( 第13回 )
資料3  長谷川委員提出資料 (PDF:445KB)

http://www.mhlw.go.jp/shingi/2006/05/dl/s0529-5c.pdf

これによって医師養成数の増加がさらに遅れたというのが仕分け人の一人である長
隆氏の主張であったようです。

ただ、確かに国立保健医療科学院は「保健医療福祉の各種政策課題への対応や改善の
科学的根拠等を示すための研究等」を看板にした組織であり、医師養成数の政策維持の
上で重要かつ決定的な研究であったことは間違いありません。とは言え、もともと3つ
の研究所が統合されてできた教育・研究機関の研究面での評価を、既に退職した研究者
のたった一つの研究で代表してしまうというのは如何なものかと思います。

しかし、自分が驚いたのはそういうことではなく、長谷川先生の名前が長氏ではなく
厚生労働省の担当官の口から出されたことです。

この種の政策研究では、厚生労働省のこれまでの施策を批判するような内容が歓迎さ
れないのは周知の事実です。その意図に反した研究結果に対しては、担当する課長補佐
から受け取りを拒否され、あるいは再考を促されることすらあります。

ですから、研究者個人の名前を上げることの無意味さを、誰よりも厚労省の担当官自
身がよく知っているはずです。それをよりにもよって、永年を省の意を呈して省のため
に尽くしてきた長谷川先生の名前を事業仕分けの場で上げるというのは、責任転嫁以外
の何ものでもないのではないでしょうか。

ただ、事業仕分けは厚労省にとってもはじめての経験であり、迂闊にも担当官は公開
の場での議論であることをつい忘れてしまったのかも知れません。

また、同時に聞いていて気になったのは、「医師の需給に関する検討会」に医師養成
の政策転換の遅れの責任を転嫁するような発言のあったことです。議論は議論であり、
検討会の結論であっても意に沿わなければ厚労省は無視することが多々あります。結局
の所は「医師の需給に関する検討会」の結論は厚労省の方針を追認していたというだけ
のことであって、政策決定を行ったのは当時の内閣であり、厚労省の幹部です。

名前は上がらなかったとは言え、検討会の座長を務められた矢崎義雄先生(独立行政
法人国立病院機構理事長)も、さぞや迷惑されていることでしょう。

医師の需給に関する検討会報告書について
平成18年7月28日
医師の需給に関する検討会座長 矢崎義雄

http://www.mhlw.go.jp/shingi/2006/07/dl/s0728-9a.pdf

「医師の需給に関する検討会報告書」の公表について

http://www.mhlw.go.jp/shingi/2006/07/s0728-9.html

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