医療ガバナンス学会 (2009年11月18日 08:45)
http://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/kekkaku-kansenshou04/inful_vaccine.html
日本の予防接種には定期接種と任意接種の2種類があります。し かし、このよ
うな奇妙な二重構造を持つ国の方が少数派です。無料で市町 村が管轄する定期
接種と、全額自費負担の任意接種。これを「前提」としているところに、日本の
予防接種行政の弱さがあります。前政権 では桝添大臣が「予防接種法改正」を
公言していました。問題の本質を捉えていたからでしょう。民主党政権が、この
動きにどう応えるか、 注目しています。
新型インフルエンザワクチンばかりを見ていると事の本質を見誤ります。日本
の予防接種政策全体が遅れているのです。先進国から、20-30 年遅れています。
米国でインフルエンザ菌ワクチン(Hib)が推奨さ れるようになったのは1989年
のことです。日本では昨年ようやく承 認、販売されましたが国による推奨(定
期接種)には至りません。 「文字通り」日本は米国に20年以上遅れているので
す。
日本で提供している予防接種は以下の通りです。
http://idsc.nih.go.jp/vaccine/atopics/atpcs003.html
アメリカのそれと比べると、いかにも見劣りします。
http://www.cdc.gov/vaccines/recs/schedules/default.htm
http://www.cdc.gov/vaccines/recs/schedules/adult-schedule.htm
米国の推奨は、小児(6歳まで)、青少年(7-18歳)、成 人(18歳以上)と分
けられていますが、カバーしている予防接種の 数が全然違います。帯状疱疹ワ
クチン、ロタウイルスワクチン、髄膜炎菌 ワクチン、不活化ポリオワクチン、
青少年層向け百日咳ワクチン(Tdap) が日本にはありません。日本では、子宮頚
癌など多くの癌の原因となるパピローマウイルスのワクチンや7価の肺炎球菌ワ
クチンも最近承認 されたばかりです。
たとえ日本にあったとしても、B型肝炎ワクチン、インフルエンザ菌ワ クチ
ン(Hib)、水痘ワクチン、肺炎球菌ワクチン(23価)な どは任意接種で有料(全
額自己負担)となります。これらは米国では一定 の対象者に無料で提供されま
す。65歳以上の高齢者に推奨される肺 炎球菌ワクチン。アメリカの65歳以上の
高齢者の70%は肺炎球菌 ワクチンを接種していますが、日本のそれはわずか
5%程度です(萬有製 薬資料による)。
新型インフルエンザ対策に集中治療室などの「はこもの」を新築する計画があ
るそうですが、その「はこ」を利用する医師や看護師はどこから連 れてくると
いうのでしょう。高齢者の重症肺炎を10人防げば10の 病室が確保できます。
医師、看護師「こみ」で、です。新型インフルエン ザワクチンの議論も大事で
しょう。しかし、新型インフルエンザワクチン の効果はまだ充分に把握できて
いない新しい製品です。「よく分かっている」既存のワクチンを最大限に利用す
ればこれらの疾患の重みは 和らぎ、入院患者は減り、そして病室が空くのです。
今できる医療の最適 化こそが最良の新型インフルエンザ対策なのです。
我が国の予防接種の承認は、メーカーの申請、PMDA(独立行政法 人、医
薬品医療機器総合機構)生物系審査部生物製剤分野の審査、厚生労 働省血液対
策課の審査、そして承認というプロセスを経ます。しかし、その経過は不透明で
あり、どのような経緯をたどっているのかは関係者以外 には分かりにくいです。
また、あくまでもメーカーによる申請が主体なの で、日本にどのような予防接
種が必要なのか、そのビジョンを提示することはありません。他の予防接種との
関係性などはほぼ皆無です。定期予防 接種への採用に至っては、ほとんどルー
ルがありません。血液対策課の官 僚に何度かこの件を相談したことがあります
が、「国民のニーズがないからうちでは何もできない」としらっと言われます。
要するに、彼らにはこの国の予防接種をこうしたい、予防接種で日本で は○
○という病気をなくしたい、○○という病気で亡くなる人をなくしたい、といっ
た「ビジョン」「プリンシプル」を欠いているのです。これは、プロの仕事とは
言えません。私は日本の官僚の勤勉さと頭脳明晰 なことは世界でもトップクラ
スだと今でも思いますが、それにもかかわらず彼らへの評価が低いのは、そのた
めです。
さて、先に紹介したアメリカの予防接種プログラム。アメリカでは、こ の国
の予防接種をどのような根拠でどのように提供するのかを決定する機 関があり
ます。米国疾病予防管理センター(CDC)の諮問委員会であ る、ACIP(Advisory
Committee on Immunization Practices)がそれ です。我が国でもこれに相当す
る委員会、例えば、JCIP(Japanese advisory Commiittee on Immunization
Practices)が必要です。
すでに、日本版ACIPの必要性は「細菌性髄膜炎から子どもたちを守る会」
の高畑紀一さんや、小児科学会の横田先生などからの提唱が あります。
http://medg.jp/mt/2009/09/-vol-245-acip.html
横田俊平、多屋馨子、岡部信彦 米国「予防接種の実施に関する諮問委員会」
Advisory Committee on Immunization Practices (ACIP)につ いて 我が国の予
防接種プラン策定に新しいシステムの導入を 日本小児 科学会雑誌 110巻
6号 756-761(2006年)
しかし、これまで、このような議論はあまり進展がありませんでした。
http://blog.nikkeibp.co.jp/bio/BTJ/archives/2008/11/199835.html
http://www.gairai-shounika.jp/4iinkai/yobou/katudou.html
幸か不幸か、新型インフルエンザの流行と予防接種の問題で、日本の予防接種
の推奨決定プロセスには大きな問題があることが一般の方にもつまびらかになり
ました。今こそこの議論の火を消すことなく、JCIP (仮)を作るべでしょう。
では、そのひな形となるACIPとは、実際、いったいどのようなものか。私は
ACIPの出す推奨を長年活用してきましたが、それがどのようなプロセスで意思決
定を行っているのかについてはよく理解していませんでした。このたび、ACIPの
会議に参加する機会を得たので、そ の内容を報告すると共に、日本のあるべき
姿を模索したいと思います。